●チュニジアの旅3日目=12月1日

7時半チェックアウト。この日は、前日スース到着時にはすでに閉まっていたグランモスクとリバト(要塞)を見学、さらに南のエル・ジェムのローマ期の円形闘技場に行くのが主目的。列車は9時11分。切符を買うのに手間取ると困るので、先に駅に行くことにする。窓口で「エル・ジェム、ワン・ティケット」というが通じない。後ろに並んでいたサラリーマン風の男性が見かねて助け船を出してくれる。「Do you speak English?」と尋ねてくるので「イエス」と答えざるをえまい(大嘘つきですみません)。彼は続けて「Where are you going to?」(多分、そう言ったと思う)と聞いてくる。だからさあ、エル・ジェムって言ってるじゃあない。ゆっくりと「エル・ジェム」と今度は繰り返して言ってみた。どうやらその男性、同時に窓口の係員も分かってくれたようだ。運賃は2.3ディナールだったか。しかしそんなに私の発音は悪いのか。昨日のタクシーにしろ、運転手が単語を知らなかったのではなくて、単に発音が悪くて分からなかったのかも知れない。そういえば空港でリコンファームを頼んだ時も、どこをどう間違えたらそう聞こえるのか、「What? Information?」と何度も聞き返された。外国へ行く度に痛感するが、よくもまあ、こんな英語力で旅行なんかするものだ。今度こそ性根を入れて英会話を勉強しなければならないか。教室にでも行くか。しかしなあ、それにしてもどうせ長続きしないだろうし、仕事が忙しいとか何とか理由をつけてサボるに決まっている。

それはともかく、切符を確保してまた旧市街地の方に引き返し、グランモスクとリバトに行ってみる。開場は8時となっているが、なかなか門が開かない。周辺をぶらぶらしていると、15分ほどたってようやくリバトの方が開いたので中に入ろうとすると、係員に押しとどめられた。これからいろいろと準備があるらしい。何時になったら入れるのかと聞いてみると、1時間遅れの9時という。そんな…、見学してたら、ましてや上まで登ってたりしてたら列車に間に合わないじゃあない。それなら8時開場なんて書かんといてくれる。仕方がないのでグランモスクの方に行ってみると、こちらもようやく開いていた。どうやらこの日の1番乗りのよう。朝のイスラム寺院というのもなかなか厳かでいい感じ。と思っていたら、日本の団体さまがご登場。おっちゃんおばちゃんばかりでキャアキャアうるさい。もうちょっと静かにしてくれるぅ。騒がしさに追われるようにしてモスクを後にする。チュニジア旅行中、日本人にあったのはこれ1回きりだったけれど、やはり今や日本人はどこにでも現れるものだ。

列車は結局20分ほど遅れてやってきた。ほぼ満員。エル・ジェムまでは約1時間。円形闘技場=写真=はローマのものよりは原形が残っているが、やや小ぶり。しかし、こういう建造物に接してみると、それを作り上げた先人の偉大さに改めて感心するとともに、ここで繰り広げられた奴隷同士や猛獣との命を懸けた対決という史実が悲しい。時間という隔たりは克服できないにしろ、その場所に立ち奴隷たちに思いを及ばせることで、せめてもの供養となればよいのだが。

博物館を回ったあと、カイルアンに行くことにする。バス乗り場を目指して駅前に戻る。それらしき建物に入り、中にどんどん入っていくと、ちょっと上役っぽい人にその人の部屋の前でたしなめられ、そこは役所だと分かった(だってだれにも制止されなかったんだもの)。乗り場の場所を教えてもらう。バス停らしきものがあるだけで、何時にどこ行きがあるのかさっぱり分からないので、またもやあきらめ、ルアージュで行くことにする。ルアージュというのは客の定員がそろえば出発する乗合タクシーで、主要都市間で運行している。バス停横の乗り場では、運転手たちが自分の車の行き先を叫びながら、乗客を募っている。私もガイドブックのカイルアンのところを指し示しながら車を探すが、カイルアン直行の応答はない。スース行きの運転手が近づいてきて、自分の車に乗れという。説明では、スースでカイルアン行きに乗り換えろということだ。運転手はなおも「スース、スース」と叫びながら客を集めていたが、ほかにひとりが乗ってきただけで、客2人だけで出発ということになった。「地球の歩き方」によると、定員分全部払えばタクシーのようにひとりで使えるとあるが、こういう場合はどうなるのだろう。5人分の料金を2人で折半するのだろうか。ちょっと高かったら困るなと考えていたが、その不安はすぐ拭い去られた。町外れに来てまもなく、幹線道路の交差点などで待っていた客が乗り込んできた。どうやら、割と便数のある路線は、客数割れで出発しても途中である程度の客が拾えるようだ。それゆえに客がそろわないからといっていつまでも発車しないのは許されないようだ。途中で待っている客数と便数とは、それこそ需要と供給の関係でバランスが取れているのであろう。

エル・ジェムとスース、カイルアンは三角形を形作る位置関係と理解してもらえればよいのだが、スースまで逆戻りする形で3ディナール、1時間。カイルアン行きでは8人乗りのワゴン車に当たり、更に3ディナール、1時間。この車内では、生徒か弟妹かを連れた栗色の髪をした女教師ふうのきれいなおねえさんがちらちらとこちらばかりを見るので、「日本ではからきしもてない私だけれども、その魅力が分かる女性がついに異国の地に現れたか」とも思ったが、どうやら東洋人が珍しくて様子をうかがっていたよう。ルアージュを降りると、乗り場のおっちゃんが「どこへ行くんだ。町へ行くならタクシーに乗れ」と勧め、親切にもタクシーを呼んできてくれた。「歩き方」その他どのガイドの地図にもルアージュ乗り場が載ってないので、町に行くにはどちらに歩き出したらいいものやら分からない。タクシーに乗らざるを得ないだろう。そのおっちゃんは「いいか、どんなに要求されても2ディナール以上払う必要はないぞ。2ディナールでいいんだぞ」としつこいぐらい繰り返す。運転手にはグランモスクに行くよう頼んだのだが、いざ走ってみると、あっという間だった。さっきのおっちゃんの言葉は逆に理解すれば2ディナールは払わなくちゃいけないんだぞといっているようで、果たして本当に親切であったのかどうか(「歩き方」によると相場は2ディナールと書いてはあります)。

グランモスクにつくと、開場は14時まででもうしまっていた。周りをうろうろしていると、土産物屋のにいちゃんが「いいものを見せてやる。ついてこい」という。イスラム圏を旅した人はもうお分かりと思うが、こういう時は何かいい体験をさせてもらって、その後報酬を要求されるか、土産物を買うよう強要されるのが常である。彼はムスタファと名乗った。よりによって、エジプト・ルクソールで散々ぼりよったタクシー運転手と同じ名前だ(しかし、ムスタファとかムハンマドとか言う名前しか知らんのか、イスラム圏は)。民家の3階に連れて行かれた。高い壁で外界からは威厳を保っているように見えるモスクであるが、そこからは、中がよく見渡せた。にいちゃんは私が満足したと見ると、その建物の1階の絨毯屋に連れていった。主人が出てきて何か飲むか、コーラでもコーヒーでも好きなものを言ってくれという。にいちゃんは自分が目利きをしてやるからここでぜひ土産を買って帰れという。ほら、きなすった。ここで腰を落ち着けてしまうと彼らの思うつぼ、丁重に何も買うつもりのないことを伝える(もっとも片言英語だから通じたかどうかは知らないが)。私が本当に何も買う気がないと分かるや、にいちゃんはさっきの案内に対しての報酬を求めだした。こちらとて、まったくただで、という気はなかったので、小銭入れを出して中を見ると、な、な、なんとごくごく少額を除いてまったく硬貨がなくなってしまっていたのだった。にいちゃんのガイドに対しては2ディナールぐらいでいいかと思っていたのだが、どうやらディナール硬貨はさっきのタクシー代で使い果たしてしまったらしい。あちゃー。仕方なく財布の方から5ディナール札を取り出す。にいちゃんは10ディナール札を指して「ビッグワン、ビッグワン」と要求するが、ちょっと案内しただけでばか言っちゃあいけない。こっちは5ディナールでも払い過ぎだと思っているのに。にいちゃんと店の主人とは5ディナールの配分をどうするかでもめていた。何とあさましき姿かな(この項はやや軽蔑の気持ちが強すぎるかも知れません。彼らをそういうふうにしたのは、まったく海外からの旅行者だとは思うのですが)。

街の北部の観光局に行って共通チケットを買う。4ディナール。すぐ近くの貯水池へ。水が乏しいカイルアンを支えた水瓶として、確か「世界遺産」でも紹介していたあの場所だ、とは思うが、そんないきさつを知らなければ、単なる池としか見えないのがつらいところ。夕刻も迫ってきたので、街の中心部に行き、泊るところを決めることにする。チュニス門からメディナに入り、雑踏の中を南へと進む。今し方気がついたことでもないが、この日も食事をしていなかった。門の入りがけ、おっちゃんが売っていたお菓子が何ともおいしそうに見えたので買ってみたくなった。アーモンドに砂糖とチョコ?をコーティングしているという感じ。しかし値段を聞いて驚いた。秤の単位は分からないが、あまりたくさんも入ってないのに、2ディナール。日本のお菓子より割高なんじゃあないか。でもおいしかったので、メディナを通り終えるころにはほぼ全部食べ終えた。ホテルチュニジアに宿を取る。改めて「歩き方」を読んでみると、マクロウドという名物菓子があるというので、またメディナまで出かけて買い求める。こちらは1ディナール分と頼むと、箱に21個。さっきのお菓子と比べると随分お買い得という感じ。しかし、甘すぎて「やめられない、とまらない」というのにはほど遠い。旅の途中でおやつとして食べたけれども結局食べきれず、会社に持ち帰ったのは実はこれです。同僚の皆さん、お土産でなく、ただの余りものであったことをここに白状いたします。申し訳ございません。夕食はホテル近くのサブラでクスクス、チュニジアンサラダ、オレンジの6ディナール。店主が愛想があって、サービスかどうかは分からないが、ミントティーもつけてくれ、気持ちのいい店でした。

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