音楽物語『テューバのタビー』
台本/ポール・トリップ 翻訳/堀川みどり・五島励二 台本補筆&創作/五島励二 補筆協力/古今亭志ん輔・小松長生
最初にオーボエがラの音を出し、弦楽器が音合わせをします。 次に木管楽器……。 そして金管楽器……。 他の楽器も演奏し始めました。まるで競走してるように。 テューバのタビーも
吹き始めました。でも……おそい、お〜そ〜す〜ぎ〜る〜〜!! 「みんな素敵だな」なぜかタビーはため息を……。 ピッコロのピーポが心配して聞きました。「タビー、なんだいため息なんかついて。」 「えっ、そりゃため息だって出るさ。新しい曲をやる時、いつも君は可愛くって目立つメロディーをもらえる。 僕はいつも"ブン、バン、ブン、バン"
これだけさ。」 「そんなことないさ。きっとまだ、素敵なメロディーに出会ってないだけだよ。チャンスはあるさ
!! 」 *** 「マエストロだ。シーッ」 マエストロとは<偉い指揮者の先生>のことです。 ヴァイオリンの皆は弦の上で素敵なメロディーをダンスするように奏でます。 そして、フルートにバトン・タッチ。 トランペットが「俺の番だ
!!」と、 そして、他の楽器も仲間入り。まずはチェロ。 次にオーボエ。今度はファゴット。 タビーも吹き続けます。「ブン、バン、ブン、バン、ブン」 「次は誰だい
?!」「僕ぼくっ
!!」タビーが叫びました。 「ああ、もう滅茶苦茶になっちまったじゃないか
!!」 タビーは、みんなに謝ってまわりました。 「ごめんなさい、ヴァイオリンさん、せっかくヴァイオリンがギコギコギコギコやってたのに。」 「ギコギコだとぉ!」ヴァイオリンは、ますます怒りました。 「ヴァイオリンはノコギリじゃあないんだ
!! ギコギコとはなんだ !!」 そこへマエストロ。「タビー、なにを悩んでいるんだい
?」 「ン ?
僕も"ブンバン"やるばかりじゃなくみんなのように素敵なメロディーを吹きたいって
? ダンスするようにネェ..。」 「ダンスだって
?」ヴァイオリンが笑いました。 「ダンスねぇ、ハハハハ!」ホルンも笑い出しました。もちろん口に手を当てて控えめに。 すると、オーケストラ全員が笑い出しました。「ワッ、ハッ、ハッ、ハッ」 「やめなさい
!!」マエストロが叫びました。「笑うのをやめなさい
!!」 「タビー…」「ハイ、僕、ぼくぅ笑ってません。」「当たり前だ
!!」 リハーサルは、終わりました。 *** とぼとぼ歩いているタビーにピッコロのピーポが走り寄って来ました。 「ピーポ、ごめん。悪いけど、一人になりたい気分なんだ。」 「わかったよタビー。」 ピーポは優しく言いました。「おやすみ」 月のない晩でした。川辺に膝を抱えて座たタビーは、水に写る自分の姿を眺めていました。木々は風にささやき、水の流れがきらめきました。 「おばんです」 「おばんです…こんばんは
?」 「そうかい。あんた、おしゃべりする気分じゃないってかぁ。」 カエルはそう言うと水の中に… 「ああ、ごめん、カエルさん、無視した訳じゃあないんだよ。」 カエルは戻って来てくれました。 「へっへーん、いいんだよ慣れてるから。よく無視されるんだおいらは。
カエルを無視してムシガエル、だけどほんとはウシガエルなぁんつってな。 あれ、ダメだった ?
今の……
カエルを無視してムシガエル、だけどほんとはウシガエル…はあ...。」 「面白い、面白いよ。でもチョット笑う気になれなかっただけなんだ。僕はオーケストラでみんなの様に素敵なメロディーを吹きたいんだ。だけど、どうしたらいいかわからない。それで、しょんぼりしていたんだ。」 「そうかい、そうだったのかい。だったらまずなんかこう元気の出る曲を吹いてごらんよ。」 「元気の出る曲かぁ、こんなの
?」タビーは吹き始めました。 「ラジオ体操だいいち〜………腕を前から上げて背伸びの運動〜……」 「ちが〜う、そういう元気じゃなくって、なんて言うのかなぁこう、元気だけど力を抜いて!」「こう
?」 <プゥ〜〜〜> 「くっさ〜、力を抜けってオナラをしてどうするんだよ。おまえさん、ホントに落ち込んでるのか
?」(テューバ急にしょんぼりする) じゃあ…オーボエみたいなメロディーを吹いてみなよ。"白鳥の湖"なんかいいねェ。」 <白鳥の湖> 「それじゃあ、ガチョウの湖だな。」 「よーし、トランペットはどうだい
? 勇ましくさぁ。」 <競馬のファンファーレ>&<馬の泣きまね(のつもり)> 「競馬のつもりか ?
」 「馬というよりは、牛だな。」 「どうせダメならヴァイオリンに挑戦だ。さっきやってた熊ん蜂なんか出来たら凄いぜ。」 <熊ん蜂> 「熊ん蜂というよりも、ホントの熊だな。なんだい怒ったのかい
? なになに?」 「おいらにヴァイオリンをやらせようなんて
?」 Tuba <◯×△□☆……
?>(楽器で音程をつける) 「なんだって ?
お・ま・え・は・あ・ほ・か ?
せっかく元気付けようとしていのにナンテ言い草だい!」 楽しかった! ほんの一部をお見せしますね。こちら(448k)をどうぞ。) 「ええい、分かった。じゃあおいらの"取っときの奴"を教えてやるからそいつを吹いてみな」 <メロディ> 「わぁ、なんて素敵なメロディなんだ!」 「これをおまえさんにやるよ、吹いてみな。」 「ええ ?
いいのかい。ありがとう!」タビーは嬉しそうに吹き始めました。 カエルはこう言いました。「おまえさん、上手だね
!
立派なもんだ。明日オーケストラでも試してみな!」 「ウン、ありがとう、カエルさん!」 タビーは幸せな気持ちいっぱいで帰っていきまた。 カエルはタビーの後ろ姿を見送りながらこう言いました。「聴く奴が聴きゃあ、良さが分かるはずだぜ。タビーは素晴らしい音楽家だ。ハハハ。」「さぁ、家にカエルかな。ウチカエル、だけどホントはウシガエルなんつって。はぁ...。」 次の日、オーケストラはチューニングをしていました。 そして、偉大なマエストロ<コマツヴィッチ・チョウセイスキー>の到着に沸き返っていました。 タビーも練習をしていました。「ブン、バン、ブン、バン」 ピッコロのピーポと眼が合いました。 「元気になった ?
タビー?」「OKさ!」 ホルンが高らかに言いました。「いらっしゃいました
!! マエストロの到着です!」 「よーし。じゃあ始めようか!」 タビーは今だとばかりにが"例の曲"を演奏し始めました。 彼だけの素敵なメロディーを。 ヴァイオリンがピシャリと言いました。「おい、おぞましいテューバだぞ。」 「お前は俺たちのの面汚しだ
!!」 トロンボーンが"アッカンベー"をしました。 トランペットは「ハハハ!」と笑い転げました。 「タビー
!」と、マエストロが言いました。 「私はテューバがメロディーを吹いているのを今まで聴いたことがないんだ。いいから続けて吹いてくれないか?」 「ハ、ハイ。マエストロ!」 <テューバのソロ> 「なんて素敵でテューバのメロディーだ
!!」と弦楽器たちが言いました。 「タビー、君の素敵なメロディー僕たちも歌っていいかな
?」 「私も入れて、私も入れて!」シロホン(木琴)が叫びました。 「そしておいらもだ〜!」とトロンボーン。 「私もおじゃましていいいかしら
?」とチェレスタ。 「やった〜 !
タビー!」ピーポが叫びました。 そして大合奏になりました。 「やったぞ、やったぞ !!
おまえさん、よくやったじゃないか、タビーッ
!!」 それはいつの間にか横に座っていたウシガエルでした。 「皆がテューバのおまえさんの魅力をわかってくれたんだよ
!!」 「うん。あ〜っ、なんて幸せなんだろう
!!
でも、本当は僕、"ブンバン"も嫌いじゃあないんだ。 だって、"ブンバン"がいなけりゃメロディーもきれいに聴こえないっていうのがわかったんだもん
!」 と、タビーは一番の笑顔で言いました。
古今亭志ん輔師匠の語りと杉山康人氏の演奏と演技力で楽しい楽しいステージでした。
この曲は私達がいつも音楽教室で聴いていただく楽器解説にぴったりの曲です。
それぞれの楽器が出て来てその音と特徴がよく表れています。
こういう曲を楽器解説として演奏できたらお子さん達がもっとクラシック音楽に
興味を持ってくれるんじゃないかと思いました。
でも、語りが上手でないと難しいかしら? う〜ん残念。