集団的戦略決定の制度/政治分野

 戦略系の制度とは、集団としての行動を前提とするため、リーダーシップ重視の仕組みとなります。この型の組織は、決定者を頂点とする最も単純な上意下達型のシステムであることが合理的となります。集団のトップにあって戦略決定を行う機関を、ここでは、執政機関と表現します
 この型のシステムでは、リーダーが自らの戦略を、命令として末端まで効率的に伝えることができるため、戦時や危機に際しての集団行動に適しています。実力でリーダーの座に登りつめたような皇帝や君主は、この型を基盤とした統治者と言えます。
 この型のシステムは、確かに効率性に優れ、また、集団の結束を強めるために対外的にも有利な側面があります。しかしながら、民主主義の原則が導入される以前には、幾つかの点で欠点がありました。
 それは、世襲的に政治権力が継承されますと、必ずしも継承者が適任者である保障がないことです。仮に執政機関に就任した人物が、資質や人格に欠ける場合には、国家は滅亡の憂き目に遭うかもしれません。つまり、適任者選出、時代の変化への対応、腐敗の防止などの面において、このシステムには欠点があるのです。
 また、戦略系の政策あって威力を発揮するシステムであっても、その他の系統の政策では、上手く機能するとは限りません。内部調整や秩序維持を含む全ての統治の事項が、執政者によって独断式で決定されてしまいますと、集団の構成員に不利益が及ぶことがあるからです。この執政者は、内部調整にあっては、国家の財源を自らの贅沢に費やすかもしれません。また、秩序維持にあっては自分に有利な法律を制定するかもしれません。これでは、国民の信頼は得られませんし、統治の価値は実現しないことになります。
 このため、イギリスにおいて顕著に見られたように、議会といった別の機関が、執政機関を牽制する機関として発展するようになります。権力分立の萌芽は、こうしたチェック・アンド・バランスの必要性から生まれたのです。
 そこで、現在では、民主主義の原則に従って、戦略決定者を国民が選ぶという選出システムを備えるようになりました。民主的な制度には、大きく分けますと大統領制と議院内閣制の二種類があります。大統領制は、国民が直接あるいは間接に大統領を選出するシステムであり、一方の議院内閣制は、君主政が変形することにより誕生しました。大統領も首相も、統帥権や外交権など、戦略決定に関する権限が憲法において付与されており、戦略決定本来の目的のために、その委任させた権限の範囲で政策決定を行っています。また、政府の仕事が多岐に及ぶため、政策領域ごとに担当大臣を任命し、最終的な責任は任命者である執政機関が負いつつも、大統領府や内閣を形成して、分業体制を構築しています。
 一端、戦略的な政策が決定されますと、それを執行するのは、行政機関です。政治機関に従属する行政機関を、ここでは、政治的行政機関と表現することにします。秩序維持に関わる独立的な行政機関とは違って、こうした機関は、執政機関の政治的決定を受ける形で活動を行うのです。
 なお、司法は、執政機関が違法行為や権力乱用を行わない限り、政治的決定自体には介入できません(統治行為論)。


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