秩序維持の制度/社会分野

 秩序維持系の制度は、戦略系や調整系とは異なる設計が必要となります。それは、統治権力が、縦関係ではなく横関係に働くからです。この機能は、この意味において、他の機能の制度よりも設計上の工夫を要します。なぜならば、個々人の生命、身体、財産そうして自由が、相互に守られるためには、偏りがあってはならないからです。このことは、共通のルールの立法、執行、司法の全ての段階において言えます。

1.立法

 社会の共通のルールとは、必ずしも議会立法に限定されているわけではありません。例えば、十戒やコーランのように宗教上の経典が神から与えられた戒律として効力を持つ場合もあります。また、慣習が力を持ち続けることもあります。もっとも、現代国家の大半は、罪刑法定主義の下に刑法典を制定して、より厳密化を図っています。何れにしても、共通の法には、恣意性や主観性が回避され、誰もが納得して守れるような客観性が重視されているのです。
 この分野において、法律の制定や改訂が問題となるのは、時代の流れの中で、新たな種類の犯罪が発生するような場合です。例えば、コンピューター犯罪のように、技術の発展とともに、これまでの刑法では対処できない種類の犯罪が発生する場合があります。こうした時には、国民の要望に応えて、議会が刑法の改定作業を行ったり、新たな法律を制定したりするのです。
 この文脈において、議会は、文字通りの”立法機関”となりますが、議会立法のみが唯一の手段というわけでもありません。民法の家族法などは、むしろ、国民投票という立法形式の方が相応しいかもしれないのです。
 
2.執行

 たとえ中立的な共通ルールであっても、その執行過程で恣意的に運用されたのでは、国民間に不公平が生じ、法の前の平等原則が歪められてしまいます。そこで、法の執行に当たる警察や起訴を担当する検察もまた、その活動が中立的であらねばなりません。これらの機関は、執政機関や議会からの政治的独立性のみならず、個人や団体など、あらゆる私的存在からの独立性をも保障されていなくてはならないのです。このため、警察機構や検察機構は、統治組織において、政治介入や私的介入を防止するように設計されることになります。

3.司法

 これまで最も独立性が強調されてきたのが、この司法の独立性です。ただし、人類の歴史を振り返りますと、必ずしも、司法が独立的な裁判官によって担われてきたわけではありません。時には、政治的な権力者がこの権力を掌握したために、政治犯として逮捕されたり、不当に財産を没収されたりする人々が生じるような場合もあったのです。司法の独立もまた、こうした悲劇を避けるために考案されてきた歴史の知恵であり、裁判の当事者のみならず万人の納得するような裁判の公平性は、制度的な独立性を確保してこそ可能となるのです。


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