集団の戦略決定と実行

 自然にあって、鋭い牙も角も備えていない人間ほど、脆弱な生物はないかもしれません。そこで人類は、太古より、集団をつくって生活を送ってきました。集団であれば、自然から襲いかかる危険を避け、自らの身の安全を高めることができたからです。
 人間が集団として行動することは、確かに、生存という意味において、プラスの方向に働きます。しかしながら、集団として行動することには、プラスの側面ばかりではないこともあります。人類とは、種としては一つですが、その発祥と分散の過程において、様々な分化と分岐を繰り返してきました。その結果、今日に至るまでの間に、人種や民族の異なる多様な人間集団が、地球上に分立して生存することになったのです。このため、今日のように法で定められた国境線のなかった時代には、集団と集団との間には、土地や資源などをめぐる争いが絶えませんでした。戦争というものも、この集団相互の自己保存や自己拡大の衝突の表れの一つとして理解することができます。
 プラス・マイナスの両面があるにせよ、集団は、自己を守り、あるいは、自己の勢力を拡大するために、戦略的な決定を行わざるをえません。この機能なくしては、集団は、その構成員も合わせて自己保存をすることすらできなくなるからです。このような機能を、ここでは、集団の戦略決定と定義することにします。

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