集団の戦略決定と政治学


 集団の戦略決定に関する研究は、近代政治学の出発点に位置しています。ニコロ・マキャベッリ、この人物こそ、中世の政治世界を支配した神学から離れて、政治的な目的を達成するために、統治者がとるべき合理的な手段を考察した最初の政治学者です。
 マキャベッリが生きた時代のイタリアとは、小国分立の状態にあり、外国の支配やフランスと神聖ローマ帝国(現在のドイツ)の両大国からの圧迫に苦しんでいました。こうした危機的な状況の中で、マキャベッリは、古典古代を回顧するルネサンス運動の影響のもとに、古代国家の戦略研究を開始するのです。書き上げられた『君主論』では、イタリア統一の手段としてローマ帝国に範をとり、軍制改革と統治技術を駆使することが主張されました。この本は、統治者に対する指南書となり、後世の為政者にも多大な影響を残すことになったのです。

 マキャベッリの徹底した合目的主義(目的に対して合理性を追求すること)に基づいた”目的のためには手段を選ばず”という姿勢は、のちのち非倫理的な態度として批判を浴びることにもなりましたが、現実に存在する危機への対処という意味において、政治の基本的機能である戦略決定の本質に迫ったことになります。この側面において、マキャベッリは、近代政治学の始祖とされているのです。
 政治学におけるその後の戦略研究としては、伝統的な外交研究に加えて、クラウゼビッツの『戦争論』などがあります。また、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』は、リーダシップ論の先駆けとも言えるかもしれません。国家の戦略あるいは政策決定の研究は、第二次世界大戦後には、さらに国際政治学や国際関係論へと分岐し、今日に至っています。

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