†オリジナル小説†


【陽菜子さんの容易なる越境-海外ビジネス編-】


 第一話「おかえりと、またはじめよう」


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 ◇

 妹の美星は、この世界のあらゆる出来事・体験とはほぼ無関係に、長い闘病の末に去年の冬に天に召された。

 俺の中ではもうずっと、止まった時間が続いている。

 ◇

 一緒に広告を作っている時、陽菜子さんが中欧のコペルという場所の教会でみかけた双子の少女についての話をしてくれた。

「この世の美しさを凝縮したような対の女の子達でさ。胸の前で手を合わせて瞑目して何かを祈っていたんだ。いったい、何を祈ってたんだろうね?」
「さあ? 」

 なんで陽菜子さんはこんな話をしてくれたんだろう。

 ◇

 一週間後、ある夏の陽射しがどこまでも世界を繋いでくれそうに錯覚する昼下がり。彼女。後に私とのっぴきならない縁になる一人の生徒さんはやってきました。

「彼女が広告を見たんだ」

 付き添いの男性が言いました。名乗った身元は沿岸部の被害にあった高校の先生です。

「避難所になってたうちの高校も再開する。彼女は訳ありで本国に帰れない。避難所が閉鎖されるといくあてがないんだ。特に日本に頼れる縁者もない。暫定的にでいいんだ。置いてやってはくれないか。日本語が学べそうな点が彼女には嬉しいらしい」

 支給物と思われる薄手のワンピースの緑がかった色合い(――それは草原を連想させました。)に、彼女自身の銀色の髪が映える。それが最初の印象でした。

「Will you tell me your name?(名前を教えてくれるかな?)」

 陽菜子さんが尋ねると、鈴のような声で、たどたどしいながらも日本語の発音でその美しい少女は答えました。

「エリス、です」

「Altough there are no relationship based on respect, mayby, between we and you, would you tell me frankly. Why you are here now? as like as not, here is not good place for you?(深い事情はまだ尋ねられないけれど、率直に聞かせて、どうしてここにいるの? たぶんここはもう、そんなにイイ場所じゃないかもしれないのに。)」

「それは、私の夢を叶えるための学問が、ここでしかできないからです」

「あなたの夢って何?」

「難しい。日本語で言うのも、英語で言うのも。でも頑張って言うなら、“この星の美しいことに関する何か”です」

 その時、彼女の前髪が風で揺れて、中から瞳があらわになりました。
 深い青色で、海の青だ。でも、何かそれだけでは形容が足りない。そんなことを思いました。

 灼熱だけど、多くの人たちにとっては憂鬱の方が勝っていた昼下がり。

 それが、私と蒼い瞳のエリスとの出会いでした。

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