「おはようございます。リュミエールさん」 結婚式は小さな町にしては盛大なものだった。 開放された気持ちのいい庭に司祭を招いての挙式の後、テーブルには溢れんばかりの料理が並べられた。 おそらく町中の人が集まってきているのだろう。アンジェリークは休む間もなく、あちらの皿を下げ、 こちらの皿に料理を盛り、慌ただしく働いていた。時折どっと起こる笑い声の合間には 楽団の演奏する曲も聞こえてきたが、どれがリュミエールが奏でるバイオリンの音か 聞き分けられるはずもなかった。 新郎新婦は人々の祝福を受けて新婚旅行へと出かけ、山と盛られた料理もあらかた平らげられ、 パーティもそろそろお開きという頃、お皿を片付けていたアンジェリークの前に人影が現れた。 「大忙しでしたね」 見上げると、白の燕尾服に白のアスコットタイという出で立ちのリュミエールが微笑んでいた。 髪は後で無造作にまとめられている。 「リュミエールさん? わぁ、素敵ですね。それって楽団の衣装ですか?」 「ええ、特に今日は結婚式ですし、正式な服装をということでお借りしたのですよ」 「お仕事は終わったんですか?」 「終わりましたよ。あなたの方はまだかかりそうですね。お待ちください、着替えを済ませたらお手伝いしますから」 「そんなぁ、大丈夫ですよ。それより、リュミエールさんのバイオリンが聴けなかったのが残念だったな」 「そうでしたか。ではいつか機会があればお聞かせいたしますね」 「うふっ、楽しみにしていますね。・・・あ、楽団員の皆さん、帰るみたいですよ」 遠くで楽団員たちがそれぞれの楽器を仕舞い、椅子を片付け始めている。 リュミエールはアンジェリークに小さく会釈してその場を離れ、皆と一緒に片付けを済ませて帰ってしまった。 アンジェリークはしばらくうっとりと立ちつくしていたが、山と積まれた皿のことを思い出し、軽く頭を振って仕事に戻った。 忙しかった一日が終わり、アンジェリークは部屋に戻って、まだ帰らぬリュミエールのことをぼんやり考えていた。 コンコンコン 少しせわしげなノックの音が聞こえた。 「はい、あ、リュミエールさん・・・。あ、あの、ど、ど、どうしたんですか??」 「アンジェリーク、あなたに会えなくて淋しかった」 扉を開けるなりアンジェリークに抱きついてきたリュミエールが耳元で囁く。 息が酒臭い。 「もぉ! リュミエールさんてば、酔っぱらってるんですね。ダメですよぉ、 こんな所で寝ちゃ。はい、ベッドはこっちです」 「アンジェリーク、側にいてください。いつも、いつまでも。お願い・で・・す・・・」 リュミエールはここまで言うと、そのまま寝息をたてて眠ってしまった。 |