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(5)

チーーーーーィ

一羽の青い鳥がひと声鳴いて、リュミエールとアンジェリークの頭上をクルクルと回った。
リュミエールが片腕を高く上げると、青い鳥は旋回を止め、リュミエールの指先に止まる。
「わぁ、きれいな鳥ですね。リュミエールさんが飼ってらっしゃるんですか?」
「いえ、飼い主は別におりますが、主に私のために働いてくれています」
「えっ?」
意味が分からず、物問いたげに見上げるアンジェリークに微笑みを返し、リュミエールは慣れた手つきで青い鳥の足に結ばれた手紙を解いた。

「どうやらファイヤ王国の王子が来ているようですね」
「えっ?!」
「ここから街に戻るには来た道を行くしか無いでしょうか?」
「あ、えっと、はい。あ、いえ、すごーく狭い道ならありますけど、ものすごーく遠回りになります」
「そうですか。それならやはり来た道を帰りましょう」
「あ、あの!」
「はい?」
「ファイヤ王国の王子様って・・・」
「あなたもご存知の第一王子です。あなたを追いかけてこられたようですよ」
「どうして?」
「まだ未練がおありなのでしょうね」
「違うんです。どうしてリュミエールさんがそんなことをご存知なんですか?」
リュミエールは少し驚いたようにアンジェリークを見た。
「私としたことが・・・。大変失礼致しました」
腕を胸に置き、頭を垂れるリュミエール。
「えっ? あ、あの?」
「私はアクア王国第三王子、リュミエール・エル・アクアと申します。アンジェリーク・デ・アル・コレット姫にひと目お会いしたく、先日この町に参りました。 ファイヤ王国の王子のことは先程の鳥が教えてくれたのです」
「えーーーっ!? リュミエール王子様って、お婿さん候補の・・・」
「はい。ひと目お会いできれば国に帰るつもりでしたが、幸運にもこうしてあなたと親しくお話しできる機会が訪れました。これはただの偶然とはとても思えないのですが、あなたは如何ですか?」
「私は・・・?」
「あなたと私は出会うべくして出会ったとは思えませんか?」
「運命の人、ということですか?」
リュミエールはにっこり笑い、後ろに下がって改めて頭を下げた。
「近々、正式な申し込みに伺います。良いお返事をお聞かせいただけますことを心より願っております」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私はまだ何も・・・」
「私が気に入らない、・・ということでしょうか?」
「そうじゃないです。そうじゃないけど、会ったばっかりだし、第一、私、あなたのこと何も知りませんし、あなたも私のことを何もご存知じゃないでしょう?」
「知っていますよ。二日分のあなたを」
「たった二日じゃないですか」
「ええ。ですから、これからの長い人生をあなたを知ることに費やすことができます」
「とんでもない悪女かもしれませんよ」
「悪女を妻にすると偉大な芸術家になれるそうですね」
「くすっ、くすくすくす・・・・・。わかりました。あなたが入り婿でも構わなくて、どうしても偉大な芸術家になりたいって仰るんならもう何も言いません」
リュミエールがにっこりと笑う。
「正式な申し込みは一ヶ月後でよろしいですか?」
真っ直ぐな視線を受けて、アンジェリークはゆっくり肯いた。
「はい。お待ちしております」
そう答えると、縁談話が持ち上がってからずっと立ち込めていた霧が晴れたような気がした。
「ありがとうございます。さぁ、それでは、ファイヤ王国第一王子との直接対決と参りましょうか」
「勝算はあるんですか?」
「勿論です。私には勝利の女神が付いておりますから」


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