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(6)

「これは、珍しいところでお会い致しますね、オスカー王子」
口火を切ったのはリュミエールだった。
「これはこれはリュミエール王子。アクア王国の王子がファイヤ王国の田舎町に何のご用かな?」
そう言いながら、オスカーはアンジェリークの姿を認めるとリュミエールを無視して元婚約者の前に跪く。
「お嬢ちゃん。いや、アンジェリーク姫。辛い思いをさせて悪かった。どうか思い直してはもらえないだろうか」
「オスカー様。・・・・・ごめんなさい」
オスカーが顔を上げると、アンジェリークを守るように前に出たリュミエールと目が合った。
「何の用かとお尋ねになりましたね。私は婚約者に会いに参りました」
「ほう・・・・。鳶に油揚げをさらわれたか」
「油揚げほどの興味もおありではなかったのでしょう?」
「参ったな。・・・わかった。潔く負けを認めよう」
「オスカー様、それでは王のご命令が・・・ウガッ」
抗議の声を上げようとするランディをチャーリーが後ろから羽交い締めにした。
「アカンて。せっかくオスカーはんのかっこええトコやのに邪魔したら」
羽交い締めにされたまま引きずって行かれるランディ。
オスカーはそんなふたりには目もくれず、物問いたげなリュミエールを軽く押しやって、アンジェリークに話しかけた。
「お嬢ちゃんの選択が間違ってなかったことを祈るぜ。こいつはこんな顔をして結構キツイ奴だから苦労するかもな」
アンジェリークは思わずリュミエールの顔を見る。
「大丈夫ですよ。苦労などさせません」
「はい、はい。ああ、そうか、おまえは婿入りするんだったな。住むところはどうするんだ? まさかお嬢ちゃんの家にというわけにはいかないだろう?」
「それは、まだ考えておりません」
「それなら良いところがあるぜ。おまえも来たことがあるだろう? この森の先にある屋敷のことだ」
「ええ、お誘いいただいて兄達とお邪魔したことがありましたね。とても良いところでした」
「そう言ったろう? 実はあそこは最近使ってなくてな、王家の直轄地だが、由緒正しいコレット家になら王も喜んで割譲なさるだろう」
「それは願ってもないことですが、どうして・・・?」
「ま、俺からの結婚祝いってとこだ。お嬢ちゃんへの詫びの印でもある。受け取ってもらえるか?」
「オスカー、私は今まであなたのことを誤解していたようですね」
「ま、そんなところだろう」
「あの・・・」
「ああ、アンジェリーク。私達の新居のことですが、ここからもう少し森を入ったところに素敵な屋敷があるのですよ。そこをオスカーがお祝いにくださるそうです。 あの屋敷でしたら、あなたのご家族も一緒に住むことができます。もちろん、あなたが気に入らないのならお断りしてもよろしいのですが、ここはオスカーの厚意を受け取りたいと思います」
「あ、はい。リュミエールさん・・、あ、リュミエール様が素敵な所と仰るなら私もそこに住みたいです。・・・あの、オスカー様、ありがとうございます」
深々と頭を下げるアンジェリークにオスカーが苦笑する。
「お嬢ちゃんが頭を下げることはない。詫びの印でもあると言ったはずだ。・・・フッ、全く。おまえ達は似合いの夫婦になるだろうよ。幸せにな」
「ありがとう、オスカー。それでは、私はアンジェリークを送って行かなくてはいけませんので失礼します」
「ああ。式には呼んでくれよ」
「もちろんです」
軽く頭を下げて去っていくふたりを見送りながら急に背後が騒がしくなるのを感じたオスカーが振り返ると・・・。

笑顔でvサインを送ってくるチャーリーと、
目をキラキラさせたランディと、
腕組みをして睨みつけているゼフェルと、
そのゼフェルに何やら盛んに話しかけているマルセルと、
藪にでも引っかけたかあちこち服に破れを作っているターバン姿の男と、
青い鳥を撫でながら品良く笑う少年が、
一斉にオスカーに喋りかけた。
「おし! よーやった。メッチャかっこ良かったで」
「オスカー様! 俺、一生付いていきます!」
「ま、王子のお陰であいつがこの国から出て行かねーってコトか」
「アンジェリーク幸せそうで良かった。やっぱり王子様は決める時は決める方なんですね」
「あー、遠回りの道は本当に遠かったですよー。でも来た甲斐がありましたねー。これでアクア王国は晴れてコレット家と縁続きになりますし、ファイヤ王国もコレット家を国から出さずにすみましたからねー。 流石にオスカー王子様は落とし所を心得てますねー。うん、うん」
「あはっ、僕も安心しました。姫を挟んでふたりの王子が決闘なんて事になったら国際問題ですから、どうやって止めようかと気が気でありませんでした。丸く収めてもらってありがとうございます」
「・・・・・誰だ? おまえ達」
オスカーはターバン男と鳥少年には面識がなかった。
「あー、そう言えば自己紹介がまだでしたねー。アクア王国第三王子付き侍従のルヴァと申します。こちらはティムカ。以後お見知りおきください。えー、もうこちらには用はありませんね。それでは、失礼します」
「僕も失礼します。皆様」
「何だ・・・・?」
呆気にとられるオスカー達。
「おい、マルセル、もう帰ろうぜ。何かどっと疲れちまった」
「え、あ、うん。そうだね」
ゼフェルとマルセルが帰ってしまうと、オスカー、ランディ、チャーリーがその場に残された。
オスカーは馬を繋いでいた綱を解き、轡を取る。
「帰るぞ」
「はい、オスカー様」
「それで、王には何て言うつもりなん?」
「正直に話すさ」
「アクア王国にコレット嬢を取られたって?」
「まあな」
「ふーん、ま、ええか。ほな、俺ももう帰るわ。仕事がぎょーさん待ってるねん。情報料の振り込み忘れんといてな」
「あいつ、金のことは忘れないな」
チャーリーの後ろ姿を身ながら呟くオスカー。
「オスカー様、俺、オスカー様の格好良かったところ、ちゃんと王様に報告しますから心配なさらないで下さい」
振り向くと、ランディが拳を握りしめてオスカーに掴みかからんばかりの勢いで立っている。
「フッ、お前にそんなことを言わせるなんて俺もヤキが回ったかな」
「そんなことありません!」
「わかった、わかった。そんなにむきになるなって。さ、ランディ、飯でも食っていこうぜ。腹が減っては何とやらだ」

それから三ヶ月後、リュミエールとアンジェリークの結婚式と披露パーティがふたりの新居で行われた。
来賓のオスカーは心からの祝辞を贈り、両家の繁栄を祈った。

すべての人に幸あれ。

ここまでお読みくださりありがとうございます!パラレルものは設定だけに時間がかかり、お話自体も面白いかどうかわからないのに、つい書いてしまうのは楽しいからです。
アンジェリークの世界はキャラクターが個性的で素敵な方ばかりなので、キャラを借りてお話を考えるのはと〜っても楽しいのです。
その分、読んで下さっている人を置き去りにしているのではないかと心配です。少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
後半、オスカーが情けなくなりすぎたので、手直しをしている内にどんどん登場人物も増えて、主人公は誰?状態ですね(^^;)。
リュミエール王子のちょっと強引な性格は気に入っています。
このお話の続き(ごく短いですが)はこちらにあります。

2005.11.27


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