輪 -エピローグ-

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「リュミエール様!」
「どうかしたのですか? ・・・花屋からハーブの苗が届いたのですね。蜂でもいましたか?」
「蜂よりずっといいものです」
アンジェリークはハーブの苗と一緒に入っていたずっしりと重い封筒をリュミエールに手渡すと、浮かんだ涙を隠そうとして、お茶を入れてきますと小声でつぶやき、キッチンに向かった。
封筒の中身は何枚もの写真。長身で黒髪の新郎と銀髪を結い上げて微笑む新婦。小さいが住み心地が良さそうな家。生まれたての赤ん坊。小さい子、大きい子。たくさんの笑顔。
「お茶が入りましたよ」
アンジェリークはカップをリュミエールの前に置いた。
「一年もたたない内に五人のお孫さんを持った感想は如何ですかぁ?」
「リュミエール爺としては嬉しいですよ」
リュミエールは憮然として答えた。
「くすくす。アンジェリーク婆も嬉しいです。ねぇ、リュミエール様、私達、聖地を去ることになってもこの子達やこの子達の子供や孫がいると思ったらちっとも淋しくないですよね。 あ、ほら、この子なんてリュミエール様に似てません? うふっ、可愛いなぁ」
ニコニコと写真に見入る妻を見て、リュミエールの表情も緩んだ。
「ええ、こちらの子はあなた似ですね。瞳の色がそっくりです」
「それを言うならリュアンヌに似てるっていうんですよ。長男さんはクラヴィス様とうり二つね。ハンサムさんになるんだろうな」
「ふぅ」
「? どうかしたんですかぁ?」
「いえ、私達の子孫なのにクラヴィス様そっくりだなんて・・・」
「くすくすくす。・・・じゃ、もうひとりつくります?」
「えっ?!」
「大丈夫ですよぉ、リュミエール様の協力さえあれば」
「きょ、協力ですか?」
「あー! 何赤くなってるんですか? もう、イヤだなぁ、育児の協力ですよ。クラヴィス様はいらっしゃらないんですからね、泣いたらあやしてあげてくださいね」

それから一年後、赤ん坊を抱いたアンジェリークが馬車に揺られて屋敷に戻ってきた。
命の輪は巡る。生まれて、そして生まれる前に還っていく命。親子三人の生活がまた始まる。

fin


岡野玲子の漫画「コーリング」を読んでいたら、【リアンナ】という名前が出てきてびっくりしました。そう、このお話のリュミ様とアンジェのひとり娘の名前に似てますよね。 両親の名前をくっつけただけの名前だったのに、よく似た名前が昔からの本(コーリングの原作は"THE FORGOTTEN BEASTS OF ELD"1974年パトリシア・A・マキリップ著)にあるとわかってちょっと安心しました。
それにしても何でしょう。リュミ様のお誕生日月間だというのに、このお話は。母になったアンジェは強いです。リュミ様、まるで子供ですね。そこが可愛いトコなんですけど(*^_^*)
クラヴィス様には前からたくさんの子供をつくってあげたかったんです。淋しいなんて思う間も無いくらい賑やかで楽しい家庭を持たせてあげたかった。やっとお話が書けました。でも、二十六歳差は犯罪だと思います。(笑)
タロットカードについては、わたしが高校時代から愛用の「タロット占いの秘密」辛島宣夫著 二見書房を参考にしました。
読んでくださった方が少しでも幸せな気分になれたら幸いです。

2002.5.21

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