第10話「シルクファイブの長い一日」

 シルクファイブのメンバーは、しあわせ町産業会館に集合した。もちろん、「しあわせ本屋まつり」の会場をひそかに警護するためである。
 この会場で、シルクネットのオフミが開催される。万が一、それを狙って、敵が襲ってくる場合を考えて、鈴木博士がシルクファイブを出動させたのだ。
「あ〜、つまんない!せっかく、会場に来ていながら、仕事だなんて。」
「それが、我々の使命だ。」
「今のところ、敵は、なんの動きも見せていませんが、これだけ大きなイベントです、可能性は、十分あります。」
「もしも、ここで、魔神獣があばれてみろ、シルクネットの外まで被害が広がるんだぜ、そしたら、シルクのイメージダウンにもつながるじゃないか。」
「ふふ、ヒーローに安眠無し、ってことさ。」
「それにしてもすごい人ね。」
「しあわせ町の人って、読書家が多いってことかしら?」
「ん〜、それもあるだろうけど、ゲストの講演があるだろ。あの超有名な『芥川とらのすけ』。サイン会もあるらしいぜ。」
「なるほどね。」
 5人は、会場を密かに巡回し始めた。

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 隅の方から、白煙があがった。
「しまった、敵の催眠ガスか?!」
 5人が駆け寄ってみると、ごみ箱で、誰かが捨てたタバコの吸い殻がくすぶって、煙を出していた。水をかけると、すぐに消火した。
「ああ、よかった。吸い殻は、灰皿に。これ、常識だぜ。」
 念のため、ごみ箱の底まであらためてみたが異常はなかった。

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 少女が屈強な男数人に取り囲まれている。なにか言い争いをしている。
「おい、何をしているんだ?」
 驚いて振り向く男達。
「え?打合せです。」
「打合せぇ?」
「はい、会長と、今日のこれからの日程についての相談を・・・・。」
「この女の子が会長?」
「そうよ、文句あるの!」
「い、いや。ところで何の会です?」
「文学比較研究発表希望者の親睦会よ。知らないの?」
「・・・・、がんばって下さい。」
 5人は、そそくさと立ち去った。

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 廊下でうずくまっている女性がいた。助け起こそうとする紅を、緑雨堂が制した。
「敵の罠かもしれないわ。」
 緑雨堂は、探知機で女性の体を探る。
「魔神獣じゃないし武器も持っていない。普通の人よ。ねえ、どうしたの?」
「ちょっと、転んだ拍子に足をくじいてしまって、動けないんです。」
「あら、大変。しらかばさん、頼むわね。」
 恐縮する女性を、軽々と抱きかかえ、しらかばは、救護室へと行った。

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 会場の真ん中で、なにやら人だかりができている。
 人の輪をかき分けて騒ぎの中心に到達すると、まつりの実行委員と揉み合っている男がいた。
「一体、どうしたっての?」
 見物人に聞くと
「ああ、あの男、自分が持ってきた古本を、そこに広げて、売り始めたんだ。たまにいるんだよな、こういう感違い野郎が。」
 実行委員と男の押し問答は、なかなか埒があきそうにない。このままでは、他のイベントにも影響が出てきそうだ。
「仕方無いな、実力行使だ。」
 シルクファイブの5人は、男が広げた本をさっさと片付け、会場の外へと、持って行った。驚いて、追いかけてきた男も、ぽい、と、外へ放り出した。
「また来たら、警備室につきだそうぜ。」
 だが、それっきり、男は、姿を見せなかった。

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 ようやく、その日のイベントは全て終了した。
「どうやら、敵は来なかったようだな。」
「ええ、オフミも、無事、楽しく終わったようです。」
「でも、ちょっと、拍子抜けだよね。」
「何言ってるんだ、俺達が活躍しないで済むのが一番なんだぜ。」
「解散だ。」
 5人の戦士は帰途へとついた。

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*後日談*
 敵の一味は、当日、会場に来ていたのである。
 実は、総帥は、芥川とらのすけの大ファンで、サインがどうしても欲しかった。そこで、配下の女と戦闘員は、一般人に変装し、会場にもぐり込み、サイン色紙の抽選のため、行列に並んでいたのだ。
 だが、日頃の行いが悪いからか、大人数を投入したにもかかわらず、一枚ももらえなかった。
 逆上した総帥は、シルクネットを攻撃するための、更なる卑劣な作戦をたてるのであった。
(第10話おわり)




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