第10話「シルクファイブの長い一日」 |
シルクファイブのメンバーは、しあわせ町産業会館に集合した。もちろん、「しあわせ本屋まつり」の会場をひそかに警護するためである。 この会場で、シルクネットのオフミが開催される。万が一、それを狙って、敵が襲ってくる場合を考えて、鈴木博士がシルクファイブを出動させたのだ。 「あ〜、つまんない!せっかく、会場に来ていながら、仕事だなんて。」 「それが、我々の使命だ。」 「今のところ、敵は、なんの動きも見せていませんが、これだけ大きなイベントです、可能性は、十分あります。」 「もしも、ここで、魔神獣があばれてみろ、シルクネットの外まで被害が広がるんだぜ、そしたら、シルクのイメージダウンにもつながるじゃないか。」 「ふふ、ヒーローに安眠無し、ってことさ。」 「それにしてもすごい人ね。」 「しあわせ町の人って、読書家が多いってことかしら?」 「ん〜、それもあるだろうけど、ゲストの講演があるだろ。あの超有名な『芥川とらのすけ』。サイン会もあるらしいぜ。」 「なるほどね。」 5人は、会場を密かに巡回し始めた。 * * * * * * * * * *
隅の方から、白煙があがった。 「しまった、敵の催眠ガスか?!」 5人が駆け寄ってみると、ごみ箱で、誰かが捨てたタバコの吸い殻がくすぶって、煙を出していた。水をかけると、すぐに消火した。 「ああ、よかった。吸い殻は、灰皿に。これ、常識だぜ。」 念のため、ごみ箱の底まであらためてみたが異常はなかった。 * * * * * * * * * *
少女が屈強な男数人に取り囲まれている。なにか言い争いをしている。 「おい、何をしているんだ?」 驚いて振り向く男達。 「え?打合せです。」 「打合せぇ?」 「はい、会長と、今日のこれからの日程についての相談を・・・・。」 「この女の子が会長?」 「そうよ、文句あるの!」 「い、いや。ところで何の会です?」 「文学比較研究発表希望者の親睦会よ。知らないの?」 「・・・・、がんばって下さい。」 5人は、そそくさと立ち去った。 * * * * * * * * * *
廊下でうずくまっている女性がいた。助け起こそうとする紅を、緑雨堂が制した。 「敵の罠かもしれないわ。」 緑雨堂は、探知機で女性の体を探る。 「魔神獣じゃないし武器も持っていない。普通の人よ。ねえ、どうしたの?」 「ちょっと、転んだ拍子に足をくじいてしまって、動けないんです。」 「あら、大変。しらかばさん、頼むわね。」 恐縮する女性を、軽々と抱きかかえ、しらかばは、救護室へと行った。 * * * * * * * * * *
会場の真ん中で、なにやら人だかりができている。 人の輪をかき分けて騒ぎの中心に到達すると、まつりの実行委員と揉み合っている男がいた。 「一体、どうしたっての?」 見物人に聞くと 「ああ、あの男、自分が持ってきた古本を、そこに広げて、売り始めたんだ。たまにいるんだよな、こういう感違い野郎が。」 実行委員と男の押し問答は、なかなか埒があきそうにない。このままでは、他のイベントにも影響が出てきそうだ。 「仕方無いな、実力行使だ。」 シルクファイブの5人は、男が広げた本をさっさと片付け、会場の外へと、持って行った。驚いて、追いかけてきた男も、ぽい、と、外へ放り出した。 「また来たら、警備室につきだそうぜ。」 だが、それっきり、男は、姿を見せなかった。 * * * * * * * * * *
ようやく、その日のイベントは全て終了した。 「どうやら、敵は来なかったようだな。」 「ええ、オフミも、無事、楽しく終わったようです。」 「でも、ちょっと、拍子抜けだよね。」 「何言ってるんだ、俺達が活躍しないで済むのが一番なんだぜ。」 「解散だ。」 5人の戦士は帰途へとついた。 * * * * * * * * * *
*後日談* 敵の一味は、当日、会場に来ていたのである。 実は、総帥は、芥川とらのすけの大ファンで、サインがどうしても欲しかった。そこで、配下の女と戦闘員は、一般人に変装し、会場にもぐり込み、サイン色紙の抽選のため、行列に並んでいたのだ。 だが、日頃の行いが悪いからか、大人数を投入したにもかかわらず、一枚ももらえなかった。 逆上した総帥は、シルクネットを攻撃するための、更なる卑劣な作戦をたてるのであった。 (第10話おわり) |