第11話「華麗なる罠」 |
ここは、しあわせ町のシルクファイブ秘密基地。鈴木博士とシルクファイブのメンバーが集まっている。 「あれ、緑雨堂さんは?」 「急なインタビューの仕事が入って、こっちに来れないんだとさ。」 「へぇ、雑誌のライターも忙しいよな。」 「でも、羨ましいなぁ。今日は、新進ファッションデザイナーに、会うんだって。」 「え、彼女、パソコン誌専門のライターじゃなかったの?」 「ほら、もうすぐ、情報通信活性化センターが完成するじゃない。オープニングイベントが、『ゆめ・みらい・ふしぎ空間』って言って、大ホールをまるごと近未来都市風景にしちゃうんだって。」 「げ、なんだよ、そのキャッチフレーズ。お役所ってセンスないよな。」 「いいから、黙って聞いてよ。でね、緑雨堂さんは、そのイベントの総演出を担当するデザイナーに会いに行ったの。で、そのデザイナーってのが・・・。」 「これこれ、定時ネットパトロールの時間じゃ。早くネットに入りたまえ。」 鈴木博士は、延々と続きそうな会話を中断させ、メンバーをパトロールに向かわせた。 * * * * * * * * * *
情報通信活性化センターのロビーで、緑雨堂は、デザイナーにインタビューをしていた。 「ええ、そうです。私の本来の仕事である、ファッションデザインの要素も、ふんだんに取り入れています。会場は、まだ、関係者以外には、お見せできませんが、素晴らしいイベントになるのは、間違いありません。」 「当日は、私も、取材にまいります。今日は、ありがとうございました。」 緑雨堂は、ぷちっ、と、レコーダーのスイッチを切る。途端に、二人とも、笑い出した。 「ああ、これで仕事は終わり。『蓮華(れんか)』さん、ありがとう。」 「こんなところで、緑雨堂さんに会えるなんて、思ってもみなかったわ。パソコン雑誌の取材なんて、初めてでしょ。ドキドキしていたのよ。」 「私も、まさか、蓮華さんとは思わなかったもの。オフ以外で会ったのは、初めてよね。」 「ええ、そうよね。でも、ファッション関係の仕事をしている人で、シルクの会員って多いらしいわよ。」 「そりゃぁ、天下のシルクネットですものね。」 「だから、オープニング前日、シルクネット会員だけの特別見学日になっているのよ。もっとゆっくりお話ししていたいけど、打合せがあるものだから。」 「それじゃ、また会いましょう!」 * * * * * * * * * *
その夜、蓮華は帰り道、車をとばしていた。突然、前方に、ふらふらと車道を歩く人影がライトに浮かびあがった。 急ブレーキをかけると、その人物は、車の前で、倒れた。驚いて車を降り、側に駆け寄る。美しい女性で、見たところ、怪我もないようだ。 「大丈夫ですか?どうしました?」 「・・・、ああ、ちょっと、具合が悪くなって。すみません。」 「お宅までお送りしますわ。」 蓮華は、女性を助手席に乗せ、車を発進させた。 「ふぅ、だいぶ、楽になりました。ご親切に、ありがとうございます。」 「いえ、いいんです。大事に至らず、良かったわ。」 「あの、ひょっとして、有名なデザイナーの方じゃございませんか?」 「まだ、かけだしです。」 「かけだしなんて、謙遜なさって。私、モデルなんです。先生のショーに出演できたら、と、いつも思っているんですの。」 女性は、名刺を蓮華に渡した。 「ええ、ここで結構です。本当に、ありがとうございました。」 女性は何度も礼を言いながら、車を降りた。 蓮華は車を発進させ、さっき貰った名刺を見ると、名前と連絡先、3サイズが印刷してあった。 だが、その女性が、実はシルクファイブを狙う、悪の組織の女であり、車内で、気付かれないように、蓮華の潜在意識を操作していたことなど、蓮華の知るよしもなかった。 * * * * * * * * * *
敵の総指令本部。女が、総帥に報告している。 「計画通りにいったようだな。」 「はい、総帥。私の美貌をもってすれば、モデルに化けるなど、ましてや、疑念を持たぬ人間の潜在意識をいじるのは、ちょろいものですわ。」 「そうか。では、次の作戦を実行せよ。」 「ははっ!」 * * * * * * * * * *
数日後。オープニングイベントの仕上げをしていた蓮華に急な連絡が入った。 「なんですって!モデルの一人が交通事故!?」 「命に別状はありませんが、今回のイベントには、出場できません。」 「困ったわ・・・・・、一人でも欠けるわけにはいかないのよ。急いで代わりのモデルを捜さないと。ボディサイズも同じじゃないと駄目だし。」 「いやぁ、この時期、すぐに見つかるかどうか・・・。」 「そうだわ、確か、この前・・・。」 蓮華は、バッグの中から、名刺を出した。先日、モデルに化けた、敵の女から貰ったものである。 「この人に連絡してみて。3サイズもぴったりよ。」 「え、でも、聞いたことのない名前ですが、身元は確かですか?」 「何言ってるの、この人なら大丈夫。心配ないわ。」 意識を操作されている蓮華は、無条件で、敵の女を信用しているのであった。 数時間後、女は、やって来た。そして、何食わぬ顔で、蓮華から、イベントの情報を引き出していた。モデルを事故に会わせたのは自分の手下である、ということは、言うわけがなかった。 * * * * * * * * * *
オープニング前日。シルクネット会員の特別見学日である。情報通信活性化センターには、多くの会員が詰めかけた。その中には、紅の疾風を始め、シルクファイブのメンバーの姿もあった。 「へえ、思っていたより、趣味いいな。」 「一足早く見学できるなんて、得した気分だよな。」 「うむ。」 「ねえ、緑雨堂さん、今日も、取材するの?」 「そうよ。今から、蓮華さんに会ってくるわ。」 緑雨堂は、蓮華の姿を見つけ、お祝いの言葉を述べた。 「無事に開催できるのも、この人のおかげよ。」 と、蓮華は、一人のモデルと引き合わせた。 「彼女のアドバイスがなかったら、どうなっていたか・・・。」 緑雨堂は、そのモデルと顔を合わせた。美しく、艶やかな微笑みを浮かべてはいるが、目は笑っておらず、底光りするような冷たい物を感じさせる。どこかで見たことのある目だ。 「それじゃ、挨拶があるので、失礼するわ。」 モデルと共に蓮華は、立ち去った。 * * * * * * * * * *
「鈴木博士、絶対に、変です。」 緑雨堂は、ブレスレットで博士と連絡をとる。 「どうしてそう思うのじゃ?」 「この前、会った時は、イベントを一人で演出することに誇りと喜びを感じている、と言っていました。なのに、今日の彼女は、変なモデルの言うなりです。まるで人形だわ。何か裏があります。それに、あのモデル、以前に、どこかで会ったことがあるわ。」 「わかった。緑雨堂くんがそう思うのなら、皆で会場を監視したまえ。」 「了解!」 * * * * * * * * * *
イベントは順調に進んでいった。何も、不審なところは見当たらない。しかし、シルクファイブのメンバーは、会場内に監視の目を光らせていた。 後は、本日のメインである、ファッションショーを残すのみとなった。 「それでは、ただいまより、人・音・映像の未来を探る『ゆめ・みらい・ふしぎ空間』をテーマにしたファッションショーを始めます。皆さま、ステージ、若しくはお近くのモニターにご注目下さい。」 会場全体に静かに響く音楽に合わせて、モニターに、きらめく光の束が現れ、光が人の形となる。中心にいるのは、あのモデルだ。会場のライトは消え、音量も高くなっていく。モニターの中では、人と光が乱舞している。 「いかん、その曲を聞くのはよせ!!」 ブレスレットから、鈴木博士の叫び声が聞こえる。紅が応える。 「なぜです?心身共にリラックスしますよ。」 「それがいかんのじゃ。その音楽には、人を洗脳させる力がある。光の動きで更に効果を増長させておる。早く、音を消すのじゃ!」 他の人々は、モニターに釘付けになり、魂を抜かれたように無表情になり、彼らの方を見ている者など一人もいない。 「変身しよう、コンバットスーツなら、多少は、音が防げる。」 5人は変身した。しかし、防御は完全ではない。 「くぅ、この音には負けそうだぜ。」 「・・・歌だ。」 「そうよ、敵に対抗できる歌を歌うのよ!」 5人は、シルクファイブのテーマソングを歌い始めた。 ハンドルネームのパワーが燃えて 無敵のヒーローやってくる レッド、ブラック、 ブルー、グリーン、ホワイト 5人の勇者が力を合わせ・・・(以下略) 正義の歌のパワーが次第に洗脳音楽を圧倒し始めた。音量が弱くなり、モニターの映像が乱れ始め、一つ、二つと、消えていく。とうとう画面が映っているのは、一つだけとなった。 「そいつが、音の発進源だ!」 「わかったわ。ブルーモジュラーコードサンダー!」 シルクブルーが、コードを鞭のようにモニターに巻きつけ、高圧電流を流す。 「ぎゃ〜!!」 モニターは、魔神獣ガメンマインダーに変身した。 会場にいる人達は次々倒れ、立っているのは、シルクファイブと、例のモデルだけになった。 「おのれ、シルクファイブ、またしても、邪魔しおって!」 女は、怒りに体を震わせながら、変装を解いた。 「やはり、お前だったか。卑劣な奴め、覚悟しろ!」 「ふん、ガメンマインダー、やっておしまい!」 魔神獣は、シルクファイブに向かってきた。しかし、テーマソングのパワーで充電した5人の勇者は、敵の攻撃をかわし、ついに、スーパーPowerクラッシュで魔神獣をやっつけた。 * * * * * * * * * *
「ありがとう、シルクファイブ。」 「いえ、蓮華さん、これが我々の使命ですから。」 人々は、間もなく意識を取り戻し、会場は騒然となった。そこでシルクネットのヒーローであるシルクファイブが登場して、その場を丸く納めたのだ。 「あんな手口に引っかかるなんて、私、どうかしてたんですわ。」 「いえ、やつらが卑劣すぎるんです。それよりも、明日からのイベント、大丈夫ですか?」 「ええ、私はプロよ。なんとしても成功させるわ。」 「それを聞いて安心しました。では。」 シルクファイブは立ち去った。 敵の作戦は、未然に防ぐことができた。しかし、奴等は、また、新たな手口でシルクネットを狙ってくるだろう。 がんばれシルクファイブ、君達が頼りだ! (第11話おわり) |