第12話「きよしこの夜」 前編 |
街はクリスマス一色である。街中の至る処にツリーが飾られ、クリスマスソングが流れ、人々の足取りも軽やかである。 だが、そのような賑やかな楽しさとは、無縁の者達もいるのであった。 * * * * * * * * * *
敵の総指令本部。中央のモニターには、活気に満ちあふれる街の様子が映っている。しかし音声は消しているためか、人々の動く様子に、何やら空虚なものが感じられる。 しばらくモニターを見つめていた総帥は、女に尋ねる。 「これが街の様子か。」 「そうでございます。例年どおりの賑やかさです。」 「ふん、愚かなものよのぉ。さて、シルクネットでも、クリスマスのイベントが、何かあるのであろうな。」 「はい、毎年恒例となっている、クリスマスパーティが、24日に開催される、との情報を得ております。」 「主催者は誰だ?」 「美味しんぼトークの『にゃんこママ』と『MIA』です。」 「そうか。ところで・・・。」 「はい、既に、パーティに対しての、ある計画を進めております。」 「ふふふ、あいかわらず、手際のいいことだ。」 * * * * * * * * * *
シルクネットでは、このところ、24日に開催されるクリスマスパーティの話題で持ち切りである。なんといっても、主催者がにゃんこママとMIAなのだ。きっと、料理は、素晴らしいものになるに違いない。参加予定者は、皆、大いに期待している。 その2人が、とあるホテルの厨房で話し合っている。 「やっぱり、厨房の設備から言えば、このホテルがいいわよね、MIAさん。」 「ええ、にゃんこママさんが推薦するだけのことがあるわ。本当に、ここを使ってもいいのかしら。」 「もちろんよ。当日は、私達が自由に使えるのよ。ここのオーナーが、シルクの会員なの。だから、いろいろ融通してくださっているわけ。どうせ、パーティをするなら、料理の腕も存分にふるいたいものね。」 「皆に楽しんでもらえるように、頑張りましょうね。」 * * * * * * * * * *
ところ変わって、シルクファイブの秘密基地。基地内を皆で飾り付けている。 「ほお、そろそろ完成じゃな。随分きれいにできたじゃないか。」 「でしょ!鈴木博士。やっぱり、クリスマスはこうでなくちゃね。」 「まったく、あおばは、言い出したらきかないんだもんな。秘密基地なんだから、他の誰が見るわけでもないんだぜ。」 「いいの!メンバーが楽しめれば。片付けは、あたし一人でやるんだから。」 「とか言って、きっと、正月飾りもするつもりだぜ。」 鈴木博士は、部屋の中央の、大きなツリーを避けて歩き、メインコントロール席に着いた。ログインし、ネットの様子を眺める。 「ふむ、パーティも、もうすぐだのぅ。皆、参加するのか?」 「はい、もちろんです。にゃんこママさんとMIAさんの手料理のクリスマスなんて、逃す手はありませんよ。」 「わしは、この児童公民館のクリスマス会があって、行けぬが、皆、楽しんで来たまえ。」 「はい!!」 * * * * * * * * * *
敵の指令本部では、女が、今回の計略について説明している。 「ですから、食べる、ということは、単に、栄養を体に流し込めばいい、と言うものではありません。より美味しく、より楽しく食べることこそが、食文化なのです。人間が人間らしく生きていくために、最も大切です。」 「ほぉ、それで、シルクネットでも、食に関するコーナーが賑わっているのだな。」 「その通りでございます。ですから、食文化の要となる、美味しんぼトークのコーナーをつぶしてしまえば、シルクネットを制することもたやすいと思われます。」 「では、計画を進めよ」 「ははっ!」 * * * * * * * * * *
24日、にゃんこママとMIAは、早くから、厨房に籠もり、料理の準備を進めていた。2人とも、手際良く、協力しあいながら、調理している。 この厨房は、普段は、殺風景な所であるが、今日ばかりは、ミニチュアのツリーとサンタのぬいぐるみが、調理の邪魔にならないところに、さりげなく置かれている。 「これで、準備完了、ですね。」 MIAが、食器の数の最終確認をしながら、言った。 「そうね。後は、盛り付けて運ぶだけだわ。」 「あ、そうそう、一応、味見しなくちゃね。」 2人は、小皿にちょっと分けて、試食しようとした。 その時、サンタのぬいぐるみの目が赤く光り、2人に光線が発せられた。 「・・・・、あら、どうしたのかしら。変な味だわ。」 「え、私のも、すごく不味いの。」 他の料理も急いで食べてみる。 「・・・、どうして!全部、ひどい味よ!!」 「こ・こんな事って、今までなかったわ!何故なの!何が間違っていたの!!」 「これじゃあ、皆に出せない・・・・。」 2人は、がっくりと、床にくずおれた。 |
第12話「きよしこの夜」 後編 |
パーティ会場に集まった人々は、2人が料理と共にやってくるのを心待ちにしていた。しかし、既に、開始時間は過ぎているのに、来る気配がない。 会場は、次第にざわついてきた。 「おい、紅、変じゃないか?」 「うん、様子を見に言った方がいいかもしれない。」 5人は、そっと会場を出ると、人気のない場所で変身した。 「チェンジシルク!」 「さあ、行ってみよう!」 シルクファイブは、厨房へと向かった。 厨房のドアを開けると、にゃんこママとMIAが、料理を前にして、泣いている。 「どうしたんですか?」 「あぁ、シルクファイブ。今回は、あなた方でも助けられないの。私達、もう駄目よ。今日のパーティは、中止にしなければ・・・。」 「え!何故です?」 「こんなひどい料理しか作れないなんて、私達、美味しんぼトークのスタッフの資格はないのよ。もう、ネットも辞めるわ。」 「そんな、あなた方がいなくなったら、どうなるんです。」 「だって、もう自分の腕が信じられないんですもの。あっ!皆さん、この料理を食べるのは止めてちょうだい!!」 5人は、おそるおそる試食をしてみた。 「何言っているんですか?全部、すごく美味しいですよ。さすがだなぁ。さっそく持って行きましょうよ。」 「そんな嘘をついて慰めないでください。味のことは、私達よくわかっているんですから。」 5人がいくら言っても、にゃんこママもMIAも、悲しみに暮れるばかりである。 回りを計器で探っていたグリーンが皆に告げた。 「ねえ、この部屋、盗聴されているわ!」 「なんだって!どこだ!」 「・・・・、わかった、そこよ!」 サンタのぬいぐるみを指差すグリーン。 「よし、レッドアダプターレーザー!!」 レーザー光線を浴びて、ぬいぐるみは魔神獣サタンクローズに変形した。 「畜生!ばれたか!!」 逃げる魔神獣を追い掛けて、シルクファイブはホテルを外に出た。袋小路に追い詰められたサタンクローズ。 5人の戦士は、横一列に並び、名乗りをあげた。 「シルクレッド!」 「シルクブラック!」 「シルクブルー!」 「シルクグリーン!」 「シルクホワイト!」 「5人揃って、我ら、通信戦隊シルクファイブ!!」 「ネットの会員の平和を脅かす魔神獣め!シルクファイブが相手だ!」 「く、いつもいいところで邪魔しおって。覚悟!」 5人に襲いかかる魔神獣。しかし、チームワークのとれたシルクファイブは、次第に魔神獣からパワーを奪い、弱らせていく。 「よし、今だ、シルクパワーネット!」 「ぐぐ・・、苦しい。」 「必殺、スーパーPowerクラッシュ!!」 「ぎゃ・ぎゃ〜〜!!!」 どっかーん!5色の炎をあげて、魔神獣は砕け散った。 * * * * * * * * * *
「・・・・、ですから、あの魔神獣が、あなた方に味覚中枢を狂わせる光線を浴びせたんです。そのため、美味しい物ほど、不味く感じられてしまったというわけです。」 「そ・それじゃあ、この料理は、失敗作ではなかったのね。」 「ええ、MIAさん。魔神獣は倒しましたから、もう、光線の影響はありません。試食してみてください。」 厨房に戻ったシルクファイブが、にゃんこママとMIAに説明をすると、2人は、もう一度、味見してみた。 「・・・・。ああ、良かった!!今度は、ちゃんとした味だわ!!」 「そうよ、この味よ。私達が作りたかったのは!」 「最初から、とても美味しかったんですよ。さ、皆、待ってます。にゃんこママさん、涙を拭いて下さい。さっそく、パーティを始めましょう!!」 こうして、クリスマスパーティが、無事始まり、変身を解いた5人も参加し、料理に舌鼓を打った。 おいしい食事に楽しい会話。素晴らしいパーティとなったのであった。 (第12話おわり) |