第12話「きよしこの夜」
前編

 街はクリスマス一色である。街中の至る処にツリーが飾られ、クリスマスソングが流れ、人々の足取りも軽やかである。
 だが、そのような賑やかな楽しさとは、無縁の者達もいるのであった。

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 敵の総指令本部。中央のモニターには、活気に満ちあふれる街の様子が映っている。しかし音声は消しているためか、人々の動く様子に、何やら空虚なものが感じられる。
 しばらくモニターを見つめていた総帥は、女に尋ねる。
「これが街の様子か。」
「そうでございます。例年どおりの賑やかさです。」
「ふん、愚かなものよのぉ。さて、シルクネットでも、クリスマスのイベントが、何かあるのであろうな。」
「はい、毎年恒例となっている、クリスマスパーティが、24日に開催される、との情報を得ております。」
「主催者は誰だ?」
「美味しんぼトークの『にゃんこママ』と『MIA』です。」
「そうか。ところで・・・。」
「はい、既に、パーティに対しての、ある計画を進めております。」
「ふふふ、あいかわらず、手際のいいことだ。」

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 シルクネットでは、このところ、24日に開催されるクリスマスパーティの話題で持ち切りである。なんといっても、主催者がにゃんこママとMIAなのだ。きっと、料理は、素晴らしいものになるに違いない。参加予定者は、皆、大いに期待している。
 その2人が、とあるホテルの厨房で話し合っている。
「やっぱり、厨房の設備から言えば、このホテルがいいわよね、MIAさん。」
「ええ、にゃんこママさんが推薦するだけのことがあるわ。本当に、ここを使ってもいいのかしら。」
「もちろんよ。当日は、私達が自由に使えるのよ。ここのオーナーが、シルクの会員なの。だから、いろいろ融通してくださっているわけ。どうせ、パーティをするなら、料理の腕も存分にふるいたいものね。」
「皆に楽しんでもらえるように、頑張りましょうね。」

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 ところ変わって、シルクファイブの秘密基地。基地内を皆で飾り付けている。
「ほお、そろそろ完成じゃな。随分きれいにできたじゃないか。」
「でしょ!鈴木博士。やっぱり、クリスマスはこうでなくちゃね。」
「まったく、あおばは、言い出したらきかないんだもんな。秘密基地なんだから、他の誰が見るわけでもないんだぜ。」
「いいの!メンバーが楽しめれば。片付けは、あたし一人でやるんだから。」
「とか言って、きっと、正月飾りもするつもりだぜ。」
 鈴木博士は、部屋の中央の、大きなツリーを避けて歩き、メインコントロール席に着いた。ログインし、ネットの様子を眺める。
「ふむ、パーティも、もうすぐだのぅ。皆、参加するのか?」
「はい、もちろんです。にゃんこママさんとMIAさんの手料理のクリスマスなんて、逃す手はありませんよ。」
「わしは、この児童公民館のクリスマス会があって、行けぬが、皆、楽しんで来たまえ。」
「はい!!」

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 敵の指令本部では、女が、今回の計略について説明している。
「ですから、食べる、ということは、単に、栄養を体に流し込めばいい、と言うものではありません。より美味しく、より楽しく食べることこそが、食文化なのです。人間が人間らしく生きていくために、最も大切です。」
「ほぉ、それで、シルクネットでも、食に関するコーナーが賑わっているのだな。」
「その通りでございます。ですから、食文化の要となる、美味しんぼトークのコーナーをつぶしてしまえば、シルクネットを制することもたやすいと思われます。」
「では、計画を進めよ」
「ははっ!」

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 24日、にゃんこママとMIAは、早くから、厨房に籠もり、料理の準備を進めていた。2人とも、手際良く、協力しあいながら、調理している。
 この厨房は、普段は、殺風景な所であるが、今日ばかりは、ミニチュアのツリーとサンタのぬいぐるみが、調理の邪魔にならないところに、さりげなく置かれている。
「これで、準備完了、ですね。」
 MIAが、食器の数の最終確認をしながら、言った。
「そうね。後は、盛り付けて運ぶだけだわ。」
「あ、そうそう、一応、味見しなくちゃね。」
 2人は、小皿にちょっと分けて、試食しようとした。
 その時、サンタのぬいぐるみの目が赤く光り、2人に光線が発せられた。
「・・・・、あら、どうしたのかしら。変な味だわ。」
「え、私のも、すごく不味いの。」
 他の料理も急いで食べてみる。
「・・・、どうして!全部、ひどい味よ!!」
「こ・こんな事って、今までなかったわ!何故なの!何が間違っていたの!!」
「これじゃあ、皆に出せない・・・・。」
 2人は、がっくりと、床にくずおれた。



第12話「きよしこの夜」
後編

 パーティ会場に集まった人々は、2人が料理と共にやってくるのを心待ちにしていた。しかし、既に、開始時間は過ぎているのに、来る気配がない。
 会場は、次第にざわついてきた。
「おい、紅、変じゃないか?」
「うん、様子を見に言った方がいいかもしれない。」
 5人は、そっと会場を出ると、人気のない場所で変身した。
「チェンジシルク!」
「さあ、行ってみよう!」
 シルクファイブは、厨房へと向かった。
 厨房のドアを開けると、にゃんこママとMIAが、料理を前にして、泣いている。
「どうしたんですか?」
「あぁ、シルクファイブ。今回は、あなた方でも助けられないの。私達、もう駄目よ。今日のパーティは、中止にしなければ・・・。」
「え!何故です?」
「こんなひどい料理しか作れないなんて、私達、美味しんぼトークのスタッフの資格はないのよ。もう、ネットも辞めるわ。」
「そんな、あなた方がいなくなったら、どうなるんです。」
「だって、もう自分の腕が信じられないんですもの。あっ!皆さん、この料理を食べるのは止めてちょうだい!!」
 5人は、おそるおそる試食をしてみた。
「何言っているんですか?全部、すごく美味しいですよ。さすがだなぁ。さっそく持って行きましょうよ。」
「そんな嘘をついて慰めないでください。味のことは、私達よくわかっているんですから。」
 5人がいくら言っても、にゃんこママもMIAも、悲しみに暮れるばかりである。
 回りを計器で探っていたグリーンが皆に告げた。
「ねえ、この部屋、盗聴されているわ!」
「なんだって!どこだ!」
「・・・・、わかった、そこよ!」
 サンタのぬいぐるみを指差すグリーン。
「よし、レッドアダプターレーザー!!」
 レーザー光線を浴びて、ぬいぐるみは魔神獣サタンクローズに変形した。
「畜生!ばれたか!!」
 逃げる魔神獣を追い掛けて、シルクファイブはホテルを外に出た。袋小路に追い詰められたサタンクローズ。
 5人の戦士は、横一列に並び、名乗りをあげた。
「シルクレッド!」
「シルクブラック!」
「シルクブルー!」
「シルクグリーン!」
「シルクホワイト!」
「5人揃って、我ら、通信戦隊シルクファイブ!!」
「ネットの会員の平和を脅かす魔神獣め!シルクファイブが相手だ!」
「く、いつもいいところで邪魔しおって。覚悟!」
 5人に襲いかかる魔神獣。しかし、チームワークのとれたシルクファイブは、次第に魔神獣からパワーを奪い、弱らせていく。
「よし、今だ、シルクパワーネット!」
「ぐぐ・・、苦しい。」
「必殺、スーパーPowerクラッシュ!!」
「ぎゃ・ぎゃ〜〜!!!」
 どっかーん!5色の炎をあげて、魔神獣は砕け散った。

* * * * * * * * * *

「・・・・、ですから、あの魔神獣が、あなた方に味覚中枢を狂わせる光線を浴びせたんです。そのため、美味しい物ほど、不味く感じられてしまったというわけです。」
「そ・それじゃあ、この料理は、失敗作ではなかったのね。」
「ええ、MIAさん。魔神獣は倒しましたから、もう、光線の影響はありません。試食してみてください。」
 厨房に戻ったシルクファイブが、にゃんこママとMIAに説明をすると、2人は、もう一度、味見してみた。
「・・・・。ああ、良かった!!今度は、ちゃんとした味だわ!!」
「そうよ、この味よ。私達が作りたかったのは!」
「最初から、とても美味しかったんですよ。さ、皆、待ってます。にゃんこママさん、涙を拭いて下さい。さっそく、パーティを始めましょう!!」

 こうして、クリスマスパーティが、無事始まり、変身を解いた5人も参加し、料理に舌鼓を打った。
 おいしい食事に楽しい会話。素晴らしいパーティとなったのであった。
(第12話おわり)




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