第13話「寒いの寒いの飛んで行け!」

「寒い夜は、湯たんぽが一番!」
 最近、シルクネット内で、そんな声が聞かれるようになった。昔ながらの、あの湯たんぽが、寒さ対策に一番の効果があるというのである。あんな古臭いもの、と、バカにしていた人も、試しに使ってみて、ぬっくぬくの快適さに感動しているのであった。
 こうして、湯たんぽ愛好家は、次第に増えていった。

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「総帥、ご覧ください。少しずつ、成果があがっております。」
「ほう、今回の作戦、おぬしにしては少々地味かと思ったが、なかなかのものではないか。」
「ふふふ・・。わたくしとて、いつも同じことはいたしませぬ。」
 場所は、敵の総本部。総帥と、その右腕の女が、コンピュータの出力画面を見ながら話し合っている。その傍らで、魔神獣が大人しく座っている。総帥は、魔神獣を、ちらと横目で見て、
「こやつ、あまり強そうには見えぬが・・・。」
「総帥とあろうお人が、何をおっしゃいます。見た目だけが魔神獣の能力ではございませぬ。このとぼけた姿に隠された、こやつの本当の力、まもなくお見せできますでしょう。」
「そうか。では、魔神獣ぽんたゆ〜、任せたぞ。」
「はい、わかったポン。さっそく、シルクネットに忍び込むポン!」
 魔神獣ぽんたゆ〜は、自らの体を電送させ、ネットへと入り込んだ。

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 ここは、シルクレッドこと、紅の疾風の部屋。湯たんぽにお湯を入れているところであった。
「これでOK。いやぁ、ほんとに湯たんぽっていいよな。誰が考えたのか、世紀の大発明だぜ。冬の夜は、布団が冷たくて嫌だったけど、これさえあれば、もうぬっくぬく。おっと、湯たんぽを包むバスタオルを持ってこなくちゃな。」
 紅が部屋を離れると、ブ〜ンとかすかな音がして、電送されたぽんたゆ〜が実体化した。あたりを見回し、湯たんぽを見つける。
「よ〜し、あったポン。これにオイラがビームを当てれば・・・・。」
 魔神獣の指先から、オレンジ色のビームが発せられ、湯たんぽに当たる。湯たんぽは、一瞬わずかに振動し、光り輝き、そして元どおりになった。
「ほっほっほ。これでこいつはオイラの分身だポ〜ン!」
 魔神獣は、愉快そうにお腹をポンと叩くと、消え去った。
 バスタオルを持って、紅が戻ってくる。さっきまで魔神獣がいたことなど何も気付かずに、湯たんぽを、タオルで包み、布団へ入れた。
「さぁて、もう遅いし、眠ろうかな。明日のパトロール、頑張るぞ!」
 こうして、紅の疾風に、暖かな眠りが訪れたのである。

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 しあわせ町児童公民館の地下、言わずと知れた、シルクファイブの秘密基地である。このところ、シルクネットには事件も起きず、平和な毎日が続いている。だが、鈴木博士とシルクファイブのメンバーは、定期パトロールを怠ってはいないのだ。
「やあ、皆集合したかのぉ?」
「いいえ鈴木博士、紅さんがまだ来ていません。」
「いつもは、一番乗りなのに、珍しいわね。」
「ふん、最近暇だから、さぼる気なんじゃないのか?」
「あら、紅さんは、そんな無責任な人じゃないわよ。」
「インフルエンザか?」
「だったら、連絡よこしてもいいだろうが。」
「こらこら、喧嘩はやめるのじゃ。特に事件が起きているわけではないのだから、まぁ4人でも大丈夫じゃろう。とにかくパトロールを始めたまえ。」
「・・・、はい、了解!」
 こうして、紅の疾風が来ないまま、パトロールをおこなった。

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 だが、次の日も紅の疾風は現れなかった。シルクファイブの他の4人と鈴木博士は、さすがに心配しはじめた。
「おい、もしかしたら事故にあったんじゃないのか?」
「それなら、ブレスレットから緊急信号が発せられるはずじゃ。危険な目に遭っているとは思えぬ。」
「でも、いくら呼んでも、応答しないわ。自宅に電話もしてみたけど、出ないし。それに、シルクネット内でも見当たらないのよ。」
「敵か?」
「ふむ、それらしい動きは見られぬのじゃがのぉ・・・。」
 緑雨堂が、皆を呼んだ。
「ねえ、これを見て下さい。最近、ネットの利用状況が、少し、変わってきているんです。今までネット内の活動に熱心だったのに、最近姿を見せない人が多いの。」
「へぇ、ほんとだ。それで、このところネットが元気ないような気がしてたんだ。」
「でもどうして気付かなかったのかしら。」
「新会員がどんどん増えているので、全体としては、総利用時間は増加しています。だから、目立たなかったんだわ。」
「その理由はわかるか?」
「いいえ。彼らの共通点が見つからないんです。でも、もう一度、調べてみます。」
「頼むぞ、緑雨堂くん。皆も調査したまえ。」

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 敵の本部。
「ぽんたゆ〜、経過はどのようになっておる?」
「湯たんぽ愛用者のほとんどに、オイラの分身を送りこんだポン。これが、そいつらのモニター画面だポン。」
 画面に、シルクネットの会員が布団にもぐり込んでいる様が次々と映し出される。皆一様に、幸せそうな顔をしている。
「ふふふ、愚か者めが。我らの作戦とも知らずに・・・。」
「本当に、間抜け面を眺めるのは、楽しゅうございます。寒い夜の湯たんぽは、快適という言葉そのものでございます。湯たんぽでぬくぬくと暖まった布団の気持ち良さから抜け出したくないと、誰もが思います。ですから、ぽんたゆ〜の分身が、奴等の神経をなだめて、布団の中から抜け出せなくさせるのは、存外簡単なこと。」
「違うポン。オイラが強いからだポン!」
「そうそう、お前は偉いよ。すごい魔神獣だよ。」
「それで、これからどうするのだ?」
「このように、湯たんぽの虜となった会員が増加したため、シルクネットは、少しずつ活気を無くし、機能が衰えてきております。まもなく、ネットは、抜け殻状態となりましょう。その時に、総帥がシルクネットを制圧するのです。」
「苦労せずに、ネットを手にできるのだな。ふふ・・・、楽しみだ。」

* * * * * * * * * *

 黒海としらかばは、ネットの調査をあおばと緑雨堂に任せ、紅の疾風の家を訪ねた。チャイムを鳴らす。
「やっぱり、いないんじゃないか?」
「いや、ブレスレットの反応は、この中からだ。」
「よし、入ろうぜ。」
 部屋に入ると、紅は、布団の中で、嬉しそうな顔をして、眠っていた。
「おい、なんだよこりゃ。心配して来てみれば。」
「紅、起きろ。」
 しかし、2人をちらと見ただけで、動こうともしない。
「布団を引き剥がそうぜ。」
 紅は、激しく抵抗し、布団を取られまいとする。
「止めてくれ!俺は、この、ぬっくぬくのままでいたいんだ。邪魔する奴は、お前達でも許さないぞ!!」
「・・・、紅、僕達には平和を守る、という使命があるんだぜ。」
「うるさい!この湯たんぽと布団、それだけあれば、平和なんかどうだって構やしない。早く出て行かないと、警察を呼ぶぞ!!」
 すっかり変わってしまった紅を後にして、2人が出て行こうとすると、秘密基地から通信が入った。
「はい、こちら黒海。紅の野郎は、もう駄目だ。腰ぬけになっちまった。」
「わかったのよ。共通点が見つかったの!」
「共通点って、姿が見せない会員の?」
「ええ、そうよ。湯たんぽよ。皆、湯たんぽを使っているのよ。そこに何か原因があると思うの。」
「おい、紅も使ってる。もしかしたら・・・・。」
「チェンジシルク!」
 黒海は、シルクブラックに変身した。
「紅、ちょっとショックがあるかもしれんが、我慢してくれよ。ブラックダイナマイトモデム!」
 ブラックは、威力を最低に絞った得意技で、湯たんぽを破壊した。
「おい、一体これは・・・・。しらかば、ブラック、どうしてここにいるんだ?」
 ショックから回復した紅は我に返り、あたりを見回す。
「ふ〜、正気に戻ったようだな。詳しい話は後だ。」

* * * * * * * * * *

 ぽんたゆ〜は、また、会員の部屋に電送されてきた。暗い部屋で湯たんぽを見つけ、ビームを当てようとする、その時、
「まて、魔神獣!もう、お前の思う通りにはさせないぞ!」
 ぱっと明るくなった部屋に、5人の戦士がいた。
「き、貴様等は、シルクファイブ。どうしてここにいるんだポン。」
「ネットに湯たんぽのことを書き込んで、お前が来るのを待ち構えていたのさ。」
「ここは、ハンドルネーム『発明家』の家のはずだポン。」
「発明家とは、我々の仲間、鈴木博士のことだ!電話回線は切った。もう逃げられないぞ。覚悟しろ、ぽんたゆ〜!」
 家の外へ出て逃げようとする魔神獣を、5人は追い詰め、戦いが始まった。
「正義の攻撃を受けてみろ!」
 5人は息の合った攻撃で、魔神獣と闘う。とうとう、ぽんたゆ〜は、エネルギーを使い果たしてしまった。
「今だ、シルクパワーネット!」
「ひぇ〜、身動きが取れないポン!」
「必殺、スーパーPowerクラッシュ!!」
「ぽ〜〜〜〜ん!」
 シルクファイブは、魔神獣をやっつけた。

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「これでひと安心ね。それにしても紅さん、あっさり魔神獣の計略にひっかかるなんて、だらしないわね!」
「いやぁ、はっはは、面目ない。これからは、湯たんぽは絶対使わないよ。」
「あら、ぽんたゆ〜は倒したんだから、もう、使っても大丈夫なのよ。」
「そうさ、便利なものは、大いに利用しなけりゃな。但し、パトロールはサボらないでくれよ!」
 明るく笑いあう5人の戦士であった。
(第13話おわり)




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