第5話「迫り来る魔手」
前編

 夜が明けたばかりの公園に、5人の若者が集まった。そう、彼らは、シルクファイブのメンバーだ。緊急通信で呼び出されたのである。しかし、辺りには、魔神獣もいなければ、人影さえない。
 紅の疾風は、ブレスレットで、鈴木博士に連絡を取ってみた。
「博士、レッドです。」
「・・・、うーむ、何の用だ。朝早くに。」
「寝てたんですか?僕達、博士の連絡で、公園に来たんですけど。」
「は?わしは、そんなことしていないぞ。信号が混線したのではないか?わしは、もう一眠りする。邪魔せんでくれ。」
 通信は切れてしまった。
「なんだか、今の、鈴木博士らしくなかったんじゃなーい?」
「・・・、変だな。」
「ま、とにかく、解散だ。」
 納得できない様子で、5人はそれぞれの家に帰っていった。
 だが、その様子を物陰から窺っている人物がいたことは、誰一人気付かなかった。薄笑いを浮かべているその人物は、『』であった。
 
* * * * * * * * * *

 場面変わって、ここは敵の総指令本部。総帥と、その右腕の女、そしてもう一人、卑屈なまでに慇懃(いんぎん)な人物がいた。
「総帥、この者が、以前から、シルクネットにもぐり込ませていた部下でございます。」
「峰か。こやつ、優秀なのか?」
「はい、私が、自らの手で改造した魔神獣でございますので、悪どい手口に関しては限り無く能力を発揮いたします。」
「そうか。峰、もう、活動を始めたのか?」
「はい、まもなく、奴等は私の手に落ちるはずでございます。」
「ほう、シルクファイブの正体がわかったのか?是非、教えてもらおう。」
「申し訳ございませんが、彼らの秘密は私の切札。総帥と言えどもお教えするわけには・・・・。」
「ふふ、そうか。だが、失敗したら、未来はない、ということは、覚えておけ。」
「ははっ!」

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 その日、紅の疾風は、再び、緊急呼び出しを受けた。彼は、動物園に到着したが、平日昼間だというのに誰もおらず、他のメンバーも現れない。いぶかしく思っていると、頭上から声がした。
「ははは、いくら待っても、貴様の仲間は、来ないぞ。」
 爬虫類館の屋根に立つ人物がいた。
「お前は、何物だ!」
「私のことは、知っているはずだ。峰さ。」
「何っ!峰?まさか・・・。そうか、お前、会員に化けた魔神獣だな。」
「違う、私は、入会したときから、お前の敵の一員だ。気付かなかったとは、おめでたい奴らだ。」
 紅は、仲間に連絡をとろうとした。しかし、ブレスレットは一切反応を見せない。
「くそっ、どうしたんだ。おい、ブルー、ホワイト!・・・駄目だ。」
「ははは、そのブレスレット、もう使えないよ。そんなもの、妨害するのは私にとっては簡単さ。たいした科学力じゃないな。」
「それじゃ、今朝の通信は・・・。」
「それも、私だ。私の作った装置の試運転と貴様等の正体を知るためだ。」
「なんだと!・・・・チェンジシルク!・・・・、あ、変身できない!」
「貴様等は、5人揃わなければ、必殺技が出せない。しかも変身できなければ、怖れるに足りぬわ!覚悟しろ!!」
 峰は、ビームガンを発射した。紅は光線を浴びて倒れた。
「ふっ、出力は最低だ。しばらく眠っていてもらうぞ。あと4人だ。」
 ぐったりした紅を連れて、峰は自分の基地へと瞬間移動した。

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 峰は、次々に、メンバーをおびき出し、捕らえていった。
「ふふ、ちょろいものよ。あと一人ではないか。」
 ブレスレットの周波数を使い、合成した鈴木博士の声を使用し、最後の一人、しらかばを呼び出した。
 まもなく、しらかばは、指定された、とある山の洞窟へとやってきた。
「おい、皆、いるのか?」
「貴様が最後だ。皆、牢屋に入っているよ。」
「・・・・、やはり、そうか。」
「ほう、気付いていたのか?」
「今朝のことがある。ここへ来る前に本物の鈴木博士に会ってきた。他の4人とは連絡が取れない。お前が捕らえたのだな。」
「さすがだな。感心するよ。」
 2人とも、静かに話してはいるが、鋭い空気がはりつめ、殺気が感じられる。
「して、罠とわかっていながら、何故来たのだ?」
「仲間を助けるためだ。」
「ふははは・・・、その仲間意識とやらが、命取りよ。覚悟しろ!!」
 峰のビームガンが、しらかばを襲う。ブレスレットの機能は、峰に封じられ、変身できず、機敏に逃げるが、洞窟の中では動きもままならない。ビームが岩壁に当たり、砕ける。大きな岩がしらかばにぶつかる!と、その一瞬前に、しらかばは、横っ飛びに避け、転がるように洞窟を飛び出した。
「駄目だ、戻って対策を考えねば・・・・。」
 しらかばは、やむを得ずその場を立ち去った。峰の高笑いがあたりの山にこだましていた。
「はっはははは・・・・。何度でも来るがよい。返り討ちにしてくれるわ。」
(つづく)



第5話「迫り来る魔手」
後編

 先ほどの戦いで傷を負い、しらかばは、足を引きずり、よろよろと山道を歩いていた。ブレスレットは使えず、博士と連絡が取れない。急いで、基地へ戻らねば。暑さと傷の痛みで朦朧となりながら歩き続ける。
 岩陰に倒れ込んだ。もう、歩くことはできず、意識が遠のきそうになった。
 もしかしたら、博士に直接通じる回路は壊されていても、シルクネットには繋がるかもしれない。ふと、しらかばは考えた。力のなくなってきた指で、ブレスレットを操作する。
「S・O・S、場所は・・・・・。」
 頼む、通じてくれ。祈りながら、通信を送った。誰か、読んでくれ。
 必死で操作しながら、しらかばは、気を失ってしまった。

* * * * * * * * * *

 どこからか、ギターをつまびく音がする。もの悲しく、それでいて優しい音色だ。誰が一体・・・・。
「やあ、気がついたかい,大丈夫か?」
 しらかばが目を開けると、一人の男がギターを傍らに置いて近づいてきた。
「うぅ・・。だ・・誰だ?」
「君の、助けを求める声を見て来たんだ。怪我の応急処置はした。大丈夫か?」
「ああ。礼を言う。俺はしらかばだ。」
「僕は、流れ者のネットワーカー、『じるこん堂こるち』。会うのは初めてだな。」
「君が・・・、そうか。」
「こんなところで倒れているなんて、どうしたんだい?」
「・・・・・・・。」
「いや、いいんだ。深い訳があるんだろう。無理には聞かないさ。さ、街まで送ろう。」
 こるちは、バイクで、しらかばをしあわせ町まで送っていった。
「ここでいいのかい?あ、そうそう、メモを君のポケットに入れて置いた。何かの役に立つかもしれない。じゃ、また会おう!」
 礼を言う間もなく、ギターを背に、こるちは駆け去っていった。

* * * * * * * * * *

「ほぉ、これはすごい・・・・・。」
 地下の秘密基地へ戻ったしらかばが、敵のことを話し、こるちが書いたメモを見せると、鈴木博士は、驚き、目が輝き始めた。
「一体それは・・・・?」
「じるこん堂こるち君は、君の壊れたブレスレットを見て、その弱点に気付いたのだ。彼の指摘通りだ。更に、彼は、新型の物についてのヒントまで書いておる。全く、すごい奴だ。」
「弱点?」
「今までのブレスレットは、記憶装置として、超小型フロッピーディスクを使っておった。だが、強い特殊磁力線を放射されると、正しく作動しなくなったり、機能を壊されたりするのだ。おそらく敵の使った装置がそれだろう。」
「新型とは?」
「光ディスクを使うのだ。そうすれば、峰の装置は役に立たない!今、コンピュータに、設計をさせておる。完成したら直ちに出動し、4人を助け出すのだ!」
「了解!!」

* * * * * * * * * *

 ここは、峰の隠れ家。地下に独房が5つあり、そこに4人が閉じ込められていた。互いに会話もできず、手枷足枷をはめられ、心は絶望と闘っていた。
 こつこつこつ・・・。峰がやってきた。峰は、仲間が助けに来ないのは、4人を見捨てたからだ、と言い、自分の組織に寝返るよう言葉巧みに誘った。皆、頑として断わると、
「ふん、仕方がない。お前達の首をみやげに、幹部に取り立ててもらうか。さあ、覚悟しろよ。お前からだ!!」
 峰のビームガンが、あおばを狙った。
「待て!!」
 シルクホワイトが現れた!
「な、何故だ。変身できぬはずだ!」
「ホワイトフロッピーブリザード!」
 フロッピーディスクが吹雪のように散り、一気に牢の柵を破壊する。
「新しいブレスレットだ。皆、受け取れ!!」
 4人は、ホワイトが投げたブレスレットを受け止め装着した。
「チェンジシルク!」
 瞬時に変身したシルクファイブが見回すと、既に峰の姿がない。
「逃がすものか!」
 地上に出た5人は、峰を追い詰め、取り囲み、名乗りを上げた。
「シルクレッド!」
「シルクブラック!」
「シルクブルー!」
「シルクグリーン!」
「シルクホワイト!」
「5人揃って、我ら、通信戦隊シルクファイブ!!」
「お前のような奴に、シルクネットを渡せるものか!覚悟しろ!!」
「何を、ちょこざいな!」
 峰は、体が変形し、魔神獣ミネロンガーになった。
「貴様等に私が倒せるか!」
 ミネロンガーは強い。しかし、シルクファイブは、新しいブレスレットのお陰で技が格段にパワーアップしている。とうとう、ミネロンガーはエネルギーを使い果たし、ふらふらになった。
「今だ、シルクパワーネット!」
「必殺、スーパーPowerクラッシュ!!」
「ぐ・ぐぎゃ〜〜!!」
 どっかーん!5色の煙をあげ、ミネロンガーは砕け散った。

「ホワイト、助けに来てくれてありがとう。」
「いや・・、礼は、こるちさんに言ってくれ。」
「あら、ギターの音がするわ。」
 どこからともなく、じるこん堂こるちの弾くギターが聴こえた。
 シルクネットには、素晴らしい仲間がいる。彼らのために、通信戦隊シルクファイブは闘い続けるのだ。
(第5話おわり)




第4話

しあわせ町大バザール

第6話