Volume
11
世にも有名なあの話
私はあまり運動神経がいいほうではない。が、成長するに連れて随分と小マシになったような気がしていた(私だけ?)。大学でヨットをはじめることになった時、機敏さや反応の早さからは程遠いことがいつか災いするのではないかと思っていた・・・。でも今考えても不幸な話(涙)。 平成〇年4月 海洋センターのリーダー研修は3月から始まる。シーズン前だと月2回、オフシーズンだと月1回。この日は確か4月の2回目の研修だったと思う。1年生の私にとってヨットに乗る、ということだけでも嬉しいものだった。 1泊2日の研修の最終日、ほどよい風の中(ここがポイント)センターに向けて帰港せよとの指示があった。レスキュー艇で出動していたI氏がマイクで叫ぶ。 I氏「じゃ、スキッパーを一年生に代わろう!!」 スキッパー=艇長=舵を握る人のこと。1年生にして舵を握らせてもらうなんて!とても嬉しいのだが、体がついていかない(笑)。それもそのはず、片方の手で舵を握り、もう片方の手はメインセールを操るためのシート(紐)を持つ。それだけならまだしも方向転換のたびに座る位置を右側、左側と入れ替えるのである。手はシートと舵をたえず左右に持ち替えるので、その結果シートは体に絡まってめちゃくちゃ、というのが初心者の姿である。 キカ「ニャロメ、スキッパー交代するわ」 ニャ「わ、わ、わたしにも出来ますかねぇ・・・(不安)」 キカ「大丈夫やって。このまままっすぐセンターに帰ればいいんやから」 ニャ「は、はぁ・・・」 同乗の一期先輩のキカちゃんと交代。ほどよい風だったので、私も機嫌よく!ヨットに乗っていた。 キカ「ニャロメ、なかなかうまいやんか〜」 ニャ「えへへ・・・」 風は追い風、真後ろからうける状態である。実はこれは非常に危険な風なのである。風向きが少しでも変化すると、ヨットの帆が180度転換してしまう。ヨットの写真などを見たことがある人はわかるかと思うが、ヨットの帆の下には帆をピンと張るためのアルミの棒(ブーム)があって、常時それに頭をどつかれないように!注意しなければならない。 キカ「ニャロメ、ブームパンチには気をつけろよ〜」 ニャ「わっかりました!!」 私は目の前のブームにちゃんと気遣いながら、しかし後方からやってくる別のヨットのことは知らなかった。 キカ「後ろのヨット近づいてくるなぁ・・・」 といった瞬間で私の目の前が真っ暗になった。なんと後ろのヨットがジャイブ(方向転換のこと)したので、近づきすぎていたそのヨットのブームを頭の後方から受けたのである。 本当に目の前には星がちらついた。 I氏「(レスキュー艇より)ニャ、ニャロメ〜大丈夫かぁ!!」 ニャ「大丈夫でぇ〜す♪」 すごい衝撃だったが、私はとっさに笑顔を振りまいてI氏に心配させまいと返事をしたのだが。 ・・・ものすごく頭が熱い。手で頭を抑えるとなんと血が吹き出て!いたのであった。ぎょえーーー!!! I氏「ニャロメ〜すぐにセンターに帰るんやぁぁ!!」 ニャ「帰ってるちゅーねん・・・」 私は流血しながらもスキッパーをキカちゃんに譲り、センターに帰り着いた。陸に上がると当然のことながらI氏が走ってきた。 I氏「アカン、相当切れてるわ。大丈夫か、意識はあるか、気持ち悪くないか?」 ニャ「はぁ、なんか頭が熱いんですけど」 I氏 「えらいことや、すぐ病院に行こう。でも今日日曜日やな・・・、救急車呼ぼう」 ニャ「救急車、ですか・・・」 そうしている間に救急車はやってきて、私をのせてなんと和歌山の病院まで行ってしまったのである。そこで頭を四針も縫った。当然、縫う部分は髪の毛をそられた。さらに不幸なことに頭のてっぺんを切ってしまったため、包帯をうまく巻くことが出来ず、歯痛くん状態に縦巻きになってしまったのである(涙)。 帰ってきた頃にはヨットの片付けも終わり、最後に集合するところであった。 キカ「ニャロメ〜大丈夫か(笑いをこらえている)」 ニャ「はぁ、どんくさくってスミマセン」 そこへ何も知らないちょいちょいがやってきた。 ちょい「ニャロ〜?どうしたん??歯、痛いん?」 周囲の人「!!!(爆笑)」 ニャ「なんでここまでしても笑われるねん・・・」 こうして私は不覚にも頭にハゲを作ってしまった。それからはしばらく「ハゲニャロメ」と呼ばれていたことは想像に難くない。 後にI氏は振り返る。 I氏「あの時なぁ、お前『大丈夫で〜す』って言いながら頭から血、流してたやろ(笑)。あれ見たときに『アカン、いってもうた!』って血の気引いたわ!」 ニャ「そうですか〜、あの時はとっさに大丈夫だと思ったんですよ」 I氏「で、頭はハゲになったんか」 ニャ「・・・ええ、まぁ」 それだけではなかった。頭がハゲのうちはまだよかった。そのうち髪の毛が生えてきたので「剣山」と呼ばれた。そうしてもっと伸びると「ウッドペッカー」と呼ばれた。まるでいじめである(爆笑)。 そして、その恥ずかしい頭を隠そうと帽子をかぶることにした。 そのとき私が持っている帽子はただ一つ、黄緑色のチューリップハットだったのである!!! しかし、美的センスのない(と最近自覚した)私はそれをかぶって大学に通うことにした。当然、先生と友人たちに心底笑われたのは言うまでもない・・・。 おしまい。 オマケ)この事件で一つ得をしたこと・・・保険金ががっぽり入った。ちょっと危ない?それでもやはり「ハゲ成金」と呼ばれた。 |