Volume 2

華麗なるシンクロナイズドスイミング

登場人物:やす、Pテカン氏のカメラ、その他「劇団海洋」の皆様 &ニャロメ

海洋センターというのは公共の施設である。そこで活動する大学生たちはボランティア精神にあふれ、日々向上心をもっており・・・、たまにどんくさい(笑)。今回は目撃できなかった事件を本人の証言だけを元に再現して見たいと思う。

毎年シーズン(7月1日〜8月31日)になると60人あまり在籍するリーダーたちはシフトを組んで交代で活動する。その時期だけは、そのつど20名ほどいるリーダー組織を運営するべくCL(チーフリーダー)とML(マネージメントリーダー)を決めている。

CLは文字通り責任者であり、MLはマネージメント兼補食担当である(補食についてはまた書く機会があると思う)。その他大勢のリーダーと違って、お役職つきのリーダー二人は海に出て活動するのではなく、スタッフキャビンの中でリーダー運営をまかされている。

その日、ものすごくいい天気だった。

ニャ「いい天気やわ〜ディンギー日和やね! こんないい天気にCLなん、やす?」

やす「そうやで。ちょっともう〜ええなぁ」

ニャ「しゃーないやん。頑張ってキャビンで仕事や」

そうして私はセンターに来た利用者をヨットに乗せて、他のメンバーとともに海へ出た。いい風である。

ニャ「サイコーやね〜」

***

その頃キャビンで留守番を余儀なくされたやすさん。最初のうちは何かとすることがあるが、そのうち海を眺めながら退屈してきた。

やす「そうや!みんなの活動しているところを写真とろう」

活動中の写真をとるのもCLやMLが担当している。すっかり気分のよくなったやすはPテカン氏の自前カメラを持って外に出た。

やす「いい風〜」

お昼近くになり、ディンギーはセンターに向けて帰ってきているところであった。四方を囲まれ小さな湾を形成するセンター内の海は結構深く、唯一スロープからヨットを出着艇させている。その日はお昼からもヨットを使うため、横の桟橋に係留することになっていた。

スロープで着艇補助をしなくてすんだので、やすは桟橋横のところで遠くのヨットに向けてシャッターをあわせていた。

やす「いい感じ!」

やす「・・・もうちょっと前に」

やす「・・・も、もうちょっと」

やす「・・・も?」

ポチャン(効果音)

***

私が次にやすを見たとき、彼女は全身ずぶぬれであった。

ニャ「どーしたん??」

やす「・・・・・・」

ニャ「全身ずぶぬれやで。あれ?CLやったから海に出てなかったやろ?」

やす「・・・・・・あのさぁ」

ニャ「ん?」

やす「・・・・・・落ちた」

ニャ「落ちたぁ!?!?!?」

やす「みんなの写真とろうと思って、『もうちょっと前、もうちょっと前』ってカメラのレンズのぞきながら歩いていくと次の一歩のとき陸地がなかってん(笑)」

熱心にカメラのレンズをのぞきこんでいたため、やすは足元のことなどすっかり忘れていたのであった。

証言を元に検証すると、その時、まるで飛び込みの選手が足先から水音立てずに海に入ったかのようであり、あわてて一緒に持っていたPテカン氏のカメラを天高く突き上げ、その状況はさながらシンクロナイズドスイミングでもあったらしい。しかもカメラは間に合わなかった(笑)。

ニャ「CLって体はってるよなぁ〜」

やす「これだけ頑張ってるのに、寂しいことに誰も見てなかった・・・

ニャ「見られるのも恥ずかしいけど、誰も見てないのも恥ずかしいなぁ(笑)」

やす「仕方がないから一人でスロープのところまで泳いだよ」

ニャ「うはははは〜」

その後のミーティングでは、CLなのにびしょ濡れのやすを海洋メンバーは怪訝な顔で眺めていた。しかもぬれているのでイスに座ることも出来ず、一人立ったままでマジメな顔で午後の指示を出すやすを見て私は、

ニャ「CLの鏡やね〜」

と笑わずにはいられなかったのである。

おしまい。