そこでお巡りさんは飼い主探しではなく里親探しに重点を置くことにしたのだが、この里親探しも始めてみるとタイヘンだったらしい。それはこの犬がナリはちっちゃくても成犬だったというのと、ここいらのご近所の家々ではほとんどすでに犬や猫を飼っていた。普通はそれら先住犬猫との折り合いを考えると簡単にもう一匹、というわけにはいかない。(また当時は目つきがカワユクなかった)
 
 幸いにして(?)付近に飼い犬が多い環境だったから、ドッグフードやおやつの差し入れをしてもらったり、通りすがりにナデナデしてもらったりとかはして貰える訳だが、いざ「里親」となるとこれがなかなかすんなり決まらないものらしかった。「あのー、それならそのままこちらでお飼いになるのはいかがなんでしょうか?」
私がそういうとお巡りさんは、
「いやー、うちはまだ子供が小さいんで……」
と、言って申し訳なさげに頭をかいた。
そうかー。よく「子供とおんなじ」っていうもんなあ。もう一人チビの子供が増えるようなもんかー。そりゃまあ。大変だよな。
「で、この犬なんですけどね。その、ひと月だけ飼ってた人が、獣医に連れていったりしたんですけど、病気はないそうなんですよ。割と好きキライなく何でもよく食べますし、しばらく野良をやってたわりには人なつこいですし」

お巡りさんは熱心だった。すごくすごーく一生懸命だった。うーん、うーん、これは。〜売り込みなんだよなあ、やっぱり(汗)多分私が毎日のように楽しそうに遊んでるのを見て、
“この人犬好きみたいだしきっと何とかしてくれそーだ!!”
とか思っちゃったんだろうな。実はいつも巡回に行って留守してたんじゃなくて、裏からこっそり見てたんじゃねーのか?情が移ってきた頃合いを見計らってこうして待ちかまえていたんじゃないのだろうかとか思ったが、
「誰か飼ってくれる人、居ませんかねえ」
・・・・・・そこで私は足元を見て、それこそ無邪気にじゃれてるこの犬の、そんな流浪の民な有様を聞いてそりゃもう可哀相に思った。だから気持ちは“里親になりましょう!”と、どーんと胸を叩いて言いたかった。 だがそうはできなかった。

 我が家はこれまで犬猫の類を飼おうとしたことがない。というより父親が、断固として拒否し続けてきたからなのだが、私が小さくて手がかかる頃ならまあ、お巡りさんのお宅と同じような理由だったと察しはつくのだが、時が経るにつれて父は益々頑なになり、事ある毎に私は、
“なんで飼っちゃいけなんだ”
と食い下がっていたのだが、その度に、
“昔、田舎のター坊(※母の実家で飼われていた血統書付きのスピッツ)にひどい目に遭わされた”
とか、
”旅行もままならなくなるし振り回されるのが嫌”
とか、
“死んだときに自分が悲しくて可哀相”
とかとかまあまあ色んな理由を挙げられて、長いこと我が家に犬猫の類を家族の一員に迎えることは、一種の禁忌とされていたのだ。
だから私は、
“どーせ、20ン年ダメだったものが今更どうにかなる訳もなし”
当然そう考えた。だからお巡りさんには申し訳なかったが、
「私が飼ってあげたいのはやまやまなんですけどちょっとムリなんです。飼ってくれる人がいないかどうかは、心がけてはみますけど……」
そんなようなことをごにょごにょと言って、私は慌ててその場を立ち去ったのだった。

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