一応相手もあることなので私がしつこく念を押しに行くと、・・・・・・自室の布団の上で胡座をかいている父はことのほか上機嫌で、
「お巡りさんの所にいた犬なら安心だー」
(そんな何の根拠があるんだかよく分からない太鼓判を押されても)
「そのお巡りさんは独身か?じゃあこれで恩を売って、ついでにお前も貰ってもらえ」
(〜だから、言ってるだろうさっきから。子供が小さくて面倒見切れないから里子に出されるんだよー!)
「名前はポンパルにしよう。(※名前の由来は後で説明)犬小屋は?犬小屋買ったの?あ、買ってない。ダメだなーははははは」
(〜ダメはあんたの方だろう)
そんな父の有様を見て私は、
”いかん。こんな調子じゃ信用できない。どうせさっき気まずくなって酔った勢いも手伝って許したんだ。明日になればダメだって言い出すに決まってる”
そう確信した。

 案の定、翌日父は夜も明け切らないうちに起き出して、母にぼそぼそと何事かぼやいている様子だった。
「あのさあ、やっぱりほんとに犬飼うの?よくよく考えてみたんだけどさあ、やっぱり無理だと思うんだよねえ……」
〜確かに不安は分からんでもないが、それにしては、あんまりに潔くないんじゃないかその態度?しかも昨夜あれだけワケの分からない太鼓判を押して大乗り気になっといて、一夜明けて酔いがさめたっていったら、それかい。
“〜まったくしょーもねえなあ、イイトシこいた大の男が何を言ってるんだ、たかだが犬一匹のことでさあ”
うつらうつらしながら、隣室から漏れ聞こえる父のぼやきを聞いていたのだがそのうちに、
「〜あなたもねえ!男なら言った言葉に責任持ちなさいよ!!」
母の怒号が響いた。父を怒鳴りつける母の声など、これまでの人生始まって以来かもしれない。私の目も一気に覚めた。これには父もかなりびびった様子だが、
「そうはいっても〜俺は〜こうして〜訂正したから〜」
とかなんとか、なおも潔くない調子でごにょごにょ言ってそそくさと起き出した様子で、いつもよりうんとくに出勤していったのだった。・・・・・・何と言うかあんまりだ。あまりにも情けないし、うざったいぞ父(汗)
 
 しかしそうして寝ぼけながら聞いてはいたが、ちょっと心配になってきた。たかが犬を飼う飼わないで熟年離婚にまで発展したりなんかしたらそれはシャレにならんと思い、のそのそ起き出して母にそう言うと、
「あんなこといってるけど連れてきちゃえば大丈夫よ」
母は笑ってそういうのだが、私はあまり手放しで喜べないし信じられなかった。それにいざ話を進めて”やっぱりだめでした”じゃ、お巡りさんにも申し訳ない。そうなったら、あの犬はどうなるんだろう。まさか保健所には連れて行かれないだろうけど……。

 それでもその日の仕事帰りに私はお巡りさんの所へ立ち寄り、”もしかしたらうちで飼わせていただくことになるかもしれませんので”という旨を伝え、家に帰ったのだが、そこで私はびっくりたまげた。真新しい首輪と引き綱と、ステンレスの餌と水の容器が、ちんまりと玄関先に置いてあるではないか。
「首輪のサイズってこれくらいで良いのかしらねえ。運ぶゲージも買ったんだけど。ほら」
 〜すごい。すごいやる気だ、母!!
 しかし、それでもやっぱり私は疑惑(?)を捨てきれない。今までどんなに頑張っても駄目だったことが、どうしてこんなにとんとん拍子に運ぶんだと思えてならなかったのだ。いやこんなに運ぶのはやっぱりおかしいから、きっと最後に何かどんでん返しがあってで、結局うちではあの犬は飼えない事になるんだろう。などと、今思えばまあ何てアホみたいに後ろ向きで疑り深くなっていたもだと思わずにいられないが、まあ、それ位今までこういうことは、200%実現不可能な事柄だったのだ。

 早めに帰宅していた父は、そんな母娘の様子を見ても何も言わずにしらんぷりを決め込んでいる。さすがに私もここまで勝手に話を進めてしまうのも悪い気がして、
「ね、お巡りさんに話してきたからね、いいんでしょ?」
そう水を向けるのだが、
「お前らが勝手にやることだから、俺は知らない」
父はちらりとこちらを見てそう言うとこの期に及んでなおもそんな有様だった。〜ああもううっとおしい!!!いくらなんでもそんなにおーじょーぎわが悪いとは、あたしゃ思わなかったぞ。

 話がふられたのをきっかけになおもねちねち自分を置き去りにして話が進むことに対して不平不満文句をぶちぶち言い始めたので、私もとうとうぷちっ!と切れた。
「〜そんなにごちゃごちゃいうんなら、連絡先を控えてきたから、あんたが自分でここの交番に電話をしてお巡りさんに断ればいいでしょうがっ!」
・・・・・・娘の剣幕に「潔くない蔵」なトーサンは、またもや黙りん坊さんになってしまったのだった。

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