没稿復活バージョン、品質無保証(;;)
星龍計画。
1850年、霊子力理論にはじまる一連の特殊技術を独占的に管理してきた徳川幕府が画策した無敵空中戦艦『星龍』建造計画である。
台頭著しい討幕派勢力への切り札として、いや、さらには日に日に強まる欧米列強の圧力の中、予想される亜細亜植民地化によく対抗するための必殺兵器としての運用まで視野に入れた非常に野心的な計画であった。
だが建造計画は数年でとん挫。いかなる推進機構が想定されたのかは記録に残っていないが、全長1200メートルもの艦体を飛翔させるにはいかんせんあまりにも推力が不足していた。計画は無期延期となり、徳川幕府の崩壊に伴い資料も技術者も散逸、維新の嵐が吹き荒れる中で無敵戦艦も過去の幻と消えた。
だが、新たな精神エネルギー変換理論、霊子核理論の確立により状況は一変する。人、動物、ある種の植物からまでエネルギーを採取するこの究極理論は、従来では、いや現在の我々の科学をもってしても実現不可能なとんでもない大出力をいとも簡単に可能としてしまった。
1899年、ここに帝國陸軍省、海軍省合同の政府直轄機密プロジェクトとして「星龍計画」すなわち超弩級空中戦艦ミカサの建造計画が復活した。単なる『星龍』の復活ではない。霊子核機関の実用化は、全長8キロメートルにも及ぶ恐るべき無敵戦艦の実現を可能ならしめたのである。ミカサの実現にはこの霊子核理論の貢献は欠かせない。
大神: | しかしなあ、いくら大出力の機関とはいえ、第一どうやって浮かぶんだ? 空中飛行のための推進機なんてあったっけ...しかも、全長8キロ...そんな飛行物体、1から作れるのかなあ、ほんとに。 |
椿: | そ、それについては、未確認の情報なんですけど、一応、お話があります... |
大神: | え、ほんと!? よし、早速聞こうじゃないか! |
椿: | は、はい...でも...なんだか、いやな予感が、するんだよなあ... |
大江戸大空洞最深部、地下一万四千メートル。
「これか...」
懐中電灯が灯され、幾筋もの光線が交錯する。海軍帝都工廠特殊開発課主任、三船昭義大佐は目の前の破壊され尽くした建造物、とおぼしき物体に目をこらした。彼は星龍計画における現在の最高責任者である。
「はい...地中の金属反応は周囲数キロにわたり、続いています...よほど巨大な、何か、が...」
若き気鋭の技術者、石川正樹少尉が答える。
五日前、未踏の地であった大空洞最深部を調査していた海軍省調査部隊はここ甲-七セクタにおいて正体不明の構造物を発見した。破壊の跡がひどいものの、その極めて硬質の金属は現在の科学による理解を完全に超えていた。
予想を遙かに超える事態に対処するため、三船大佐自身が筆頭となり腹心の部下数人を引き連れて、今日の探索となったのだ。
「とにかく、中を調べようではないか、行くぞ」
三船大佐はそう言うと、構造物にぱっくりと開いた裂け目へと身を乗り出した。
だが、その破壊されたコントロールパネルの片隅に薄赤く点滅する一つのランプが存在したこと、そして休眠状態数万年を経たその電子頭脳は今静かに再起動プロセスへと移行し、彼らの会話を漏らさず聞き取り解析を進めていたことなど、彼らには気づく由もなかった。
バチン。 突如、リレー音と共にパネルに光が点る。
「!?」
「ジドウゲンゴカイセキカンリョウ、ゲンゴカテゴリーЖЙЭЩяК、セクションXXVI、ゴサシュウセイ+0.3894。ボンジュール、レデースアンドジェントルマン。吾輩はブルーノア中枢コンピュータ、ハニバル8000。私のことば、これでまちがいないナリか?」
以後数十分の会話で、自動言語システムはようやく正しい日本語を習得したという。
この事実を一般市民が知り得るのは遙か70年後、庵野秀明氏らの手によって映像化され、天下のNHKより放送された。ご記憶の方も多かろう。
「それで、この船の推進機構は、まだ稼働するのかね?」
「前述の通り、動力炉室の火災に伴い主機縮退炉、補機対消滅機関ともに破損、復旧不可能。反重力推進機のみは稼働可能ですが、いかんせん動力炉が全滅しては...」
「待て、ならば新たに動力炉を搭載し、その反重力とやらに接続すれば飛行は可能か?」
「原理的には可能。しかしながら大気圏航行のみでも最低限兆キロワットクラスのジェネレータが必要です。あなたがた人間の科学力では、とても...」
「ふむ...石川少尉」
「はい」
「...どうだね」
「現在開発中の艦本式超弩級霊子核機関、桜式改であれば...理論的には一基数百億キロワット、6基直列で兆キロワット級の供給...なんとかなります」
「うむ...これは...使える」
三船大佐はにやりと笑った。
こうして、アトランティスの超科学の結晶、ブルーノアは星龍計画のコアとなった。ちなみに、本当は全システムの再起動にブルーウォーターとかいう宝石が必要だったようだが、代用で霊子水晶をつっこんでおいたら何とかなった。かなりいいかげんである。
しかし、なんとしても早期に手を着けねばならない問題が一つあった。そう、艦の浮上である。いつまでも艦を大空洞の地中に埋まったままにしておくわけにはいかない。
地上ではおりしも東京市営銀座線の建設計画が推進中である。読者の皆さんもご存知のこととは思うが、この路線は艦の竣工時にはそのまま艦内移動用列車として使用される計画である。すなわち、地下鉄は建造中の艦の胴体内に造りこまれ、胴体内で開業することになる。
当然ながら、市営銀座線が艦内移動用列車として建設される事実は一般市民には極秘中の極秘である。すなわち、併設される予定の帝國華撃團(仮称)専用特殊線はともかく、銀座線の開業までには何としても艦は地上直下にまで浮上させておく必要があるのだ。
まずは艦を地上直下に固定する巨大ドックの建設である。大空洞上部、東京市の基盤にいたるまで爆薬で岩盤をふきとばし、巨大な空間と艦の支持構造を用意した。この大改造が原因で東京の地脈は乱れ、後の降魔戦争勃発の引き金となったというから、何とも皮肉ではあるが。
まさか、ウインチとロープで艦を引っ張りあげるわけにはいかない。艦には自力で地上まで浮上してもらわねばならない。突貫工事により、何とか稼働にまでこぎつけた霊子核機関は2基。反重力推進機を稼働させるにはぎりぎりの出力であった。
制御系も未完成のまま。用意できたのは最低限の舵のみ、それも有効に機能するかは分からない。
最大の問題は、操縦員である。飛行機も満足にないこの時代、三次元的センスをもって飛行物体を操れる人材など、世界にひとりも居ないのだ。
ヂャリ。 蝶ネクタイの白スーツでばりっと決めた2人の男が揃って足を踏み出す。
一人はスマートな長身、いま一人はでっぷりと腹の出た恰幅ある男。目深の帽子に逆三角グラサン、2人はすでに初老といってもよい年代にさしかかっていたが、その貫禄はいささかも衰えてはいなかった。
「ふふっ、久しぶりだぜ、30年とちょい...いよぅーーっし、腕が鳴るぜっ!」
「でもサンソン、姐さんはぁ?」
「またどっかの男追っかけて晩餐会でダンスか何だか知らねえが、お前ら二人で片づけて来いだと。かぁーっ、姐さんも相変わらずこりてねえぜ」
「しかしびっくりだなあ。アトランティスの遺産がまだこんなとこに残っていたなんて」
「ったくだ、おいてめえらっ! こいつでまたガーゴイルの奴みたいに悪巧みしてやがるんじゃねえだろうなっ」
サンソンと呼ばれた男が三船大佐につっかかる。
「その点に関しては問題ない。我々は侵略戦争の類にこれを用いるつもりは毛頭ない、私が確約するっ!」
事実嘘ではない。なにしろこの艦が発進すると同時に帝都は大破壊である、よほどの帝都の有事でないと発進させる気になどなるまい。
「けっ、戦争はもうまっぴらだぜ。まあここで言いあってても始まらねえか。おいハンソンっ! さっさと仕事済まして引き上げるぜ」
「がってん!」
二人は周囲の人間には目もくれずさっさとコンソールに向かい、どっかと腰を下ろした。
「これが方向舵、昇降舵、昇降レバーか...簡素な造りだな、これならグラタンと変わりねえぜ。おいハンソン! エンジンはどうだっ!」
「霊子核エンジン...聞いたこともない仕組みだなあ。機関室、準備は?」
《両機とも始動完了、試運転問題なし、ただし不安定要因多数、慎重に願います!》
「上等だぜ。よーし、さっさと行こうかぁっ!」
サンソンが昇降レバーに手を掛ける。 と、何のためらいもなく一気にレバーを引き上げた。
霊子核機関が突如轟音をあげて咆哮する。帝都の生きとし生けるものすべてから霊力を絞りとりつつ、膨大な出力が反重力推進機へと送り込まれる。
ついに、艦はふわりと飛翔した。...ふわり、とは外部から眺めた第三者の表現である。艦の全高が4キロを超えることを忘れないでもらいたい。それが、ふわり...艦のすぐ側で待機した当事者にとってみれば、突如数百メートルの上昇、逆バンジーも真っ青の大ジャンプである。
第一艦橋、すさまじい動揺が艦を襲う。
「おい待てぇっ! もっと慎重にやらんかっ!」
三船大佐がたまらず叫ぶ。
「うるせえっ、エンジンってのはな、目一杯引っ張ってやらにゃ機嫌がよくなんねえんだよっ」
艦首が、舷側がおかまいなしに大空洞の側壁に激突する。岩盤が激しく崩れ落ち、大空洞を埋める。
「馬鹿者っ! ぶつかっとるではないかっ!」
「がたがた言うんじゃねえっ、昔っから壁ってもんは、ぶつけりゃ、壊れるもんだぜぃっ!」
「そそそそそ」
コンソールにどっかと足を上げたまま相槌をうつハンソン。
「いっけぇぇぇーーっ!」
目の色が変わったサンソンはもはや全く聞く耳もたない。
艦は悲鳴をあげながらなおも上昇する...
大神: | な、なんだ、この話は... |
椿: | だ、だから、いやな予感がするって、いったんですよお...ぐすん。 |
大神: | いかん...拙文作者、卒論提出で完全に壊れてるらしい... |
椿: | ど、読者の皆さん、どうか怒らないでください...次章ではちゃんとまともな話をやりますから、どうか、穏便に... |
岡本さんよりご指摘がありました。「レッドノアやブルーノアの推進システムは空間物理変換型エントロピー推進システム、Cプラス航法用波動縮退跳躍システム、反重力推進システムの3つで粒子推進システムはエクセリヲンのみ搭載のはずではないでしょうか」とのことです。全くその通りでございますぅ、ブルーノアに粒子推進システムは搭載されておりません。第一どこからジェット吹き出すってんだ(^^;
というわけで、原文では「反重力推進機、粒子推進機ともに稼働可能ですが…」となっていた部分を「反重力推進機のみは稼働可能ですが…」に訂正させて頂きました。岡本さん、ご指摘ありがとうございますー。m(_ _)m