第十話其の弐

空中戰艦ミカサ竣工?

MIKASA Launched?

没稿復活バージョン、品質無保証(;;)


 星龍計画。
 1850年、霊子力理論にはじまる一連の特殊技術を独占的に管理してきた徳川幕府が画策した無敵空中戦艦『星龍』建造計画である。
 台頭著しい討幕派勢力への切り札として、いや、さらには日に日に強まる欧米列強の圧力の中、予想される亜細亜植民地化によく対抗するための必殺兵器としての運用まで視野に入れた非常に野心的な計画であった。
 だが建造計画は数年でとん挫。いかなる推進機構が想定されたのかは記録に残っていないが、全長1200メートルもの艦体を飛翔させるにはいかんせんあまりにも推力が不足していた。計画は無期延期となり、徳川幕府の崩壊に伴い資料も技術者も散逸、維新の嵐が吹き荒れる中で無敵戦艦も過去の幻と消えた。

 だが、新たな精神エネルギー変換理論、霊子核理論の確立により状況は一変する。人、動物、ある種の植物からまでエネルギーを採取するこの究極理論は、従来では、いや現在の我々の科学をもってしても実現不可能なとんでもない大出力をいとも簡単に可能としてしまった。
 1899年、ここに帝國陸軍省、海軍省合同の政府直轄機密プロジェクトとして「星龍計画」すなわち超弩級空中戦艦ミカサの建造計画が復活した。単なる『星龍』の復活ではない。霊子核機関の実用化は、全長8キロメートルにも及ぶ恐るべき無敵戦艦の実現を可能ならしめたのである。ミカサの実現にはこの霊子核理論の貢献は欠かせない。

大神:しかしなあ、いくら大出力の機関とはいえ、第一どうやって浮かぶんだ? 空中飛行のための推進機なんてあったっけ...しかも、全長8キロ...そんな飛行物体、1から作れるのかなあ、ほんとに。
椿:そ、それについては、未確認の情報なんですけど、一応、お話があります...
大神:え、ほんと!? よし、早速聞こうじゃないか!
椿:は、はい...でも...なんだか、いやな予感が、するんだよなあ...



 大江戸大空洞。
 帝都地下一万メートルに広がる巨大な地下空間。1804年、徳川幕府によって発見されたこの直径6〜10キロにもおよぶこの大空洞はこれまで最高機密とされ、数々の機密を要する軍事実験などに使われてきた。
 こういった地下空洞の類、第3新東京市の例を見るまでもなく、何故か秘密の軍事開発に使われる。そして、こういった地下空洞の類、大抵何か、埋まってる。

 大江戸大空洞最深部、地下一万四千メートル。
「これか...」
 懐中電灯が灯され、幾筋もの光線が交錯する。海軍帝都工廠特殊開発課主任、三船昭義大佐は目の前の破壊され尽くした建造物、とおぼしき物体に目をこらした。彼は星龍計画における現在の最高責任者である。
「はい...地中の金属反応は周囲数キロにわたり、続いています...よほど巨大な、何か、が...」
 若き気鋭の技術者、石川正樹少尉が答える。
 五日前、未踏の地であった大空洞最深部を調査していた海軍省調査部隊はここ甲-七セクタにおいて正体不明の構造物を発見した。破壊の跡がひどいものの、その極めて硬質の金属は現在の科学による理解を完全に超えていた。
 予想を遙かに超える事態に対処するため、三船大佐自身が筆頭となり腹心の部下数人を引き連れて、今日の探索となったのだ。
「とにかく、中を調べようではないか、行くぞ」
 三船大佐はそう言うと、構造物にぱっくりと開いた裂け目へと身を乗り出した。


「これは...」
 中へ足を踏み入れた調査団の一行はただただ絶句するしかなかった。
 破壊がひどいのは外殻部のみであった。艦を思わせる金属基調の内部、だがそのスケールが尋常ではない。幅数十メートルに及ぶ通路が縦横に走り、巨大な空間が随所に広がる。灯された強力な探照灯に映る世界は、まさにこの世のものではなかった。
「大佐...一体これは...」
「ううむ...」
 三船大佐も心ここにあらずといった感じである。無理もない。
「天井にパイプが走っているな...どこかにこの巨大なシステムを管理していた制御室があるはずだ、とりあえずそれを探そう」
 三船大佐がパイプの走りを見上げながら歩き出す。
「た、大佐、どちらへ...」
 石川少尉が心細げに尋ねる。
「わからん、だが、どうも制御系がこちらの方向へ集中してゆくように感じる。これは、勘だ」


 さらに歩くこと数十分、構造物の最上部に近いとおぼしき位置にあるひとつの部屋にたどりついた。
 探照灯の光に浮かび上がる無数の制御機器、ディスプレイ...
 外が一望できる広い窓の外は、もちろん土砂に埋まっている。
 軍艦の艦橋を思わせるおびただしい数の表示計器、制御系が、コントロールパネルに並んでいた。
 石川少尉がパネルに向かう。その大半は破壊され、朽ち果て、もはやその機能を保持しているとは思えなかった。
「やはり、巨大な何らかのシステム、ここがその制御室なのでしょうか...一体何の...」
「わからん...見たこともない制御系ばかりだ...ううむ...」
 彼らは手当たり次第の制御器に手を掛けてみた。無論反応は皆無であったが。計器類には見たこともない文字とおぼしき表示が延々と並んでいる。
「これは...我々にもお手上げだな...この事実は封印、関知せず、か...」

 だが、その破壊されたコントロールパネルの片隅に薄赤く点滅する一つのランプが存在したこと、そして休眠状態数万年を経たその電子頭脳は今静かに再起動プロセスへと移行し、彼らの会話を漏らさず聞き取り解析を進めていたことなど、彼らには気づく由もなかった。
 バチン。 突如、リレー音と共にパネルに光が点る。
「!?」
「ジドウゲンゴカイセキカンリョウ、ゲンゴカテゴリーЖЙЭЩяК、セクションXXVI、ゴサシュウセイ+0.3894。ボンジュール、レデースアンドジェントルマン。吾輩はブルーノア中枢コンピュータ、ハニバル8000。私のことば、これでまちがいないナリか?」

 以後数十分の会話で、自動言語システムはようやく正しい日本語を習得したという。


「...ということは、この船は、異星人が建造した宇宙移民船だ、と...」
「はい。本船団は数万年前に地球に遭遇。本船は動力炉室の火災により不時着。あなた方がアトランティス人と呼ぶ者たちは、本船団の漂着者たちの末裔です」
 ハニバル8000の繰り出す言葉は、もはや完全に彼らの理解を超えていた。だが、目の前に見せつけられたこの超科学の塊、反論の余地はない。
「船団... では他にも同様の艦が存在するのか...」
「十九世紀末、結社ネオ・アトランティスの手により僚船レッドノア再起動、ネモ船長率いる空中戦艦エクセリヲンとの戦闘により共に爆沈。乗員待避に用いられたレッドノア艦載艇も日本海溝にて処分されました」

 この事実を一般市民が知り得るのは遙か70年後、庵野秀明氏らの手によって映像化され、天下のNHKより放送された。ご記憶の方も多かろう。

「それで、この船の推進機構は、まだ稼働するのかね?」
「前述の通り、動力炉室の火災に伴い主機縮退炉、補機対消滅機関ともに破損、復旧不可能。反重力推進機のみは稼働可能ですが、いかんせん動力炉が全滅しては...」
「待て、ならば新たに動力炉を搭載し、その反重力とやらに接続すれば飛行は可能か?」
「原理的には可能。しかしながら大気圏航行のみでも最低限兆キロワットクラスのジェネレータが必要です。あなたがた人間の科学力では、とても...」
「ふむ...石川少尉」
「はい」
「...どうだね」
「現在開発中の艦本式超弩級霊子核機関、桜式改であれば...理論的には一基数百億キロワット、6基直列で兆キロワット級の供給...なんとかなります」
「うむ...これは...使える
 三船大佐はにやりと笑った。


 こうして、アトランティスの超科学の結晶、ブルーノアは星龍計画のコアとなった。ちなみに、本当は全システムの再起動にブルーウォーターとかいう宝石が必要だったようだが、代用で霊子水晶をつっこんでおいたら何とかなった。かなりいいかげんである。


 こうして星龍計画はいよいよ着工となった。当初実現が絶望視されていた全長8キロにも及ぶ艦体も、ブルーノアの船体構造をコアとすることで解決された。破壊された外殻部は、空隙構造シルシウス鋼を用いて新たに建造すればよい。
 とはいえ、建造計画は思ったようには進まない。当然である、何といってもスケールが段違いなのだ。艦の艤装はおろか、主機関の装備だけでも手一杯である。

 しかし、なんとしても早期に手を着けねばならない問題が一つあった。そう、艦の浮上である。いつまでも艦を大空洞の地中に埋まったままにしておくわけにはいかない。
 地上ではおりしも東京市営銀座線の建設計画が推進中である。読者の皆さんもご存知のこととは思うが、この路線は艦の竣工時にはそのまま艦内移動用列車として使用される計画である。すなわち、地下鉄は建造中の艦の胴体内に造りこまれ、胴体内で開業することになる。
 当然ながら、市営銀座線が艦内移動用列車として建設される事実は一般市民には極秘中の極秘である。すなわち、併設される予定の帝國華撃團(仮称)専用特殊線はともかく、銀座線の開業までには何としても艦は地上直下にまで浮上させておく必要があるのだ。

 まずは艦を地上直下に固定する巨大ドックの建設である。大空洞上部、東京市の基盤にいたるまで爆薬で岩盤をふきとばし、巨大な空間と艦の支持構造を用意した。この大改造が原因で東京の地脈は乱れ、後の降魔戦争勃発の引き金となったというから、何とも皮肉ではあるが。
 まさか、ウインチとロープで艦を引っ張りあげるわけにはいかない。艦には自力で地上まで浮上してもらわねばならない。突貫工事により、何とか稼働にまでこぎつけた霊子核機関は2基。反重力推進機を稼働させるにはぎりぎりの出力であった。
 制御系も未完成のまま。用意できたのは最低限の舵のみ、それも有効に機能するかは分からない。
 最大の問題は、操縦員である。飛行機も満足にないこの時代、三次元的センスをもって飛行物体を操れる人材など、世界にひとりも居ないのだ。



 こうして、いよいよ艦体浮上作戦の実行日がやってきた。
 ここは第一艦橋。三船大佐立ち会いのもと、帝都工廠の技術者達が最終準備に追われている。なにしろ満足な試験もできていないままの起動なのだ、皆の顔にも緊張の色が隠せない。
「機関室っ! 霊子核機の状態知らせっ!」
《一番、二番機、最終チェック完了、反重力推進機に接続OK、準備よしっ! 試運転開始します》
 機関室はここから数キロも離れた彼方にある。機関音はここからでは全く感じられない。
 三船大佐が懐中時計を取り出す。
「あとは、操縦員だが...石川少尉、例の操縦要員はどうした」
「はい、間もなく、こちらに到着する予定ですが...」
 操縦員の選出は至難を極めた。飛行物体の操縦など誰も経験したことのない時代。外務省特殊調査部の全世界的な調査により、ようやく見つけだした適任者。
「だが、よく操縦要員が見つかったものだ」
「はあ、何でも、自ら開発した陸海空万能型タンクと、異星人の開発した飛行戦艦とやらの搭乗経験があるとかで...」
 グィィン。
 背後のオートドアがおもむろに口を開けた。


 ヂャリ。 蝶ネクタイの白スーツでばりっと決めた2人の男が揃って足を踏み出す。
 一人はスマートな長身、いま一人はでっぷりと腹の出た恰幅ある男。目深の帽子に逆三角グラサン、2人はすでに初老といってもよい年代にさしかかっていたが、その貫禄はいささかも衰えてはいなかった。
「ふふっ、久しぶりだぜ、30年とちょい...いよぅーーっし、腕が鳴るぜっ!」
「でもサンソン、姐さんはぁ?」
「またどっかの男追っかけて晩餐会でダンスか何だか知らねえが、お前ら二人で片づけて来いだと。かぁーっ、姐さんも相変わらずこりてねえぜ」
「しかしびっくりだなあ。アトランティスの遺産がまだこんなとこに残っていたなんて」
「ったくだ、おいてめえらっ! こいつでまたガーゴイルの奴みたいに悪巧みしてやがるんじゃねえだろうなっ」
 サンソンと呼ばれた男が三船大佐につっかかる。
「その点に関しては問題ない。我々は侵略戦争の類にこれを用いるつもりは毛頭ない、私が確約するっ!」
 事実嘘ではない。なにしろこの艦が発進すると同時に帝都は大破壊である、よほどの帝都の有事でないと発進させる気になどなるまい。
「けっ、戦争はもうまっぴらだぜ。まあここで言いあってても始まらねえか。おいハンソンっ! さっさと仕事済まして引き上げるぜ」
「がってん!」
 二人は周囲の人間には目もくれずさっさとコンソールに向かい、どっかと腰を下ろした。
「これが方向舵、昇降舵、昇降レバーか...簡素な造りだな、これならグラタンと変わりねえぜ。おいハンソン! エンジンはどうだっ!」
「霊子核エンジン...聞いたこともない仕組みだなあ。機関室、準備は?」
《両機とも始動完了、試運転問題なし、ただし不安定要因多数、慎重に願います!》
「上等だぜ。よーし、さっさと行こうかぁっ!」
 サンソンが昇降レバーに手を掛ける。 と、何のためらいもなく一気にレバーを引き上げた。
 霊子核機関が突如轟音をあげて咆哮する。帝都の生きとし生けるものすべてから霊力を絞りとりつつ、膨大な出力が反重力推進機へと送り込まれる。
 ついに、艦はふわりと飛翔した。...ふわり、とは外部から眺めた第三者の表現である。艦の全高が4キロを超えることを忘れないでもらいたい。それが、ふわり...艦のすぐ側で待機した当事者にとってみれば、突如数百メートルの上昇、逆バンジーも真っ青の大ジャンプである。
 第一艦橋、すさまじい動揺が艦を襲う。
「おい待てぇっ! もっと慎重にやらんかっ!」
 三船大佐がたまらず叫ぶ。
「うるせえっ、エンジンってのはな、目一杯引っ張ってやらにゃ機嫌がよくなんねえんだよっ」
 艦首が、舷側がおかまいなしに大空洞の側壁に激突する。岩盤が激しく崩れ落ち、大空洞を埋める。
「馬鹿者っ! ぶつかっとるではないかっ!」
「がたがた言うんじゃねえっ、昔っから壁ってもんは、ぶつけりゃ、壊れるもんだぜぃっ!」
「そそそそそ」
 コンソールにどっかと足を上げたまま相槌をうつハンソン。
 「いっけぇぇぇーーっ!」
 目の色が変わったサンソンはもはや全く聞く耳もたない。
 艦は悲鳴をあげながらなおも上昇する...


 翌日。
「状況知らせ」
「はい...艦のドック固定は完了、作戦は終了しました。しかし...過負荷により霊子核機関損傷、停止時に衝突した艦首中破、かつ皇居外堀基盤破損。あと...霊子核機関による急激な霊力の強制回収に起因すると思われますが、めまい、頭痛、疲労など体の不調を訴える帝都市民が続出し、帝都中の病院が現在パニックに陥っております...」
「あ、あいつらぁ...っ!」
 もうこりごりだ。この艦が完成した暁には、パイロットは絶対おしとやか〜なお嬢さんがいい。
 この時、スケベ心抜きで三船大佐はそう心に誓ったという。



大神:な、なんだ、この話は...
椿:だ、だから、いやな予感がするって、いったんですよお...ぐすん。
大神:いかん...拙文作者、卒論提出で完全に壊れてるらしい...
椿:ど、読者の皆さん、どうか怒らないでください...次章ではちゃんとまともな話をやりますから、どうか、穏便に...

第三幕 今度こそ『空中戦艦ミカサ竣工』へ(工事中)



◆追記と訂正('98 2/12)

 岡本さんよりご指摘がありました。「レッドノアやブルーノアの推進システムは空間物理変換型エントロピー推進システム、Cプラス航法用波動縮退跳躍システム、反重力推進システムの3つで粒子推進システムはエクセリヲンのみ搭載のはずではないでしょうか」とのことです。全くその通りでございますぅ、ブルーノアに粒子推進システムは搭載されておりません。第一どこからジェット吹き出すってんだ(^^;

 というわけで、原文では「反重力推進機、粒子推進機ともに稼働可能ですが…」となっていた部分を「反重力推進機のみは稼働可能ですが…」に訂正させて頂きました。岡本さん、ご指摘ありがとうございますー。m(_ _)m


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