第十話其の参

空中戰艦ミカサ竣工

MIKASA Launched


大神:な、何だったんだ、前回の話は...
椿:も、もう気にしないでください、あははは... と、とりあえず、まずはミカサの基本スペックをご紹介しますね。
大神:まずは、93センチという恐ろしい口径を誇る、主砲だ。しかしまあ、よくこんなもん、考えたな。砲身だけで100メートル以上になっちゃうぞ。
椿:空中戦艦ですからね、水平射出で仰角をつける必要がないですから、それで長砲身が実現したそうですよ。そのかわり破壊力は絶大です、あの九一式徹甲弾が命中すれば、戦艦クラスの船でも一撃でばらばらですもんね。
大神:うーん...しかし、砲身が水平で固定とすると...照準合わせは、どうするんだ? ヤマトの波動砲じゃあるまいし、まさか、かすみくんの操縦で...
椿:そ、それはむちゃですよお。でも、かすみさんも、目標に回頭した上でかなり正確に艦を安定させてもらわないとだめなんで、けっこう大変そうですよ。照準の微調整は砲身側で微妙な動作ができるんで、そちらでやります。
大神:なるほど...それでミカサの主砲は有人なわけだな。で、副砲が46センチ、大和級戦艦の主砲をして副砲なんだもんなあ。
椿:そして、両舷あわせて1562門もの機銃ですねっ!
大神:公式資料集では「高射砲」になってるけど、空中戦艦なんだから「高く射つ」必要はないわけで、要するに対空機銃(注:旧帝國軍では機関砲という呼称は使用しません)だよな。これ、照準はどうしてるわけ、確か機銃の砲術要員はいなかったよね。まさか、自動追尾?
椿:ま、まさか...そこまでの技術はないですよお。フルオートでひたすら撃ちまくって弾幕張るだけです...
大神:ま、そりゃそうだな。そうそう、一番疑問なのが「左舷連鎖砲」ってやつだな。確かきみが「使用不能ぉっ!」っていってたやつ。左舷っていうからには両舷に配備されてるんだろうけど、はて、何が、連鎖するのかなあ。
椿:うーん、実はあたしも、詳しい仕組みは全然わかんないんです... 確か至近距離に群がる敵をやっつけるのにすごく効果があったと思うんですけど...
大神:そうだなあ、例えば、同種の降魔がまとまって襲ってきたところに爆発を起こして、降魔の組み合わせがうまくいけば2連鎖、3連鎖と誘爆していって効果が大きくなるとか...
椿:...大神さん、それって、もしかして、ぷよぷよのつもり、ですか...さむーい...
大神:し、しまった、はずした... や、やっぱり、コラムスの方が、よかったかな...
椿:そういう、問題じゃなくて...


 遅々として進まなかった建造計画ではあったが(一応第二幕の続きね(^^;)、ここにきてようやく年次計画が軌道に乗り始め、火器類をはじめ各種兵装の艤装が開始された。
 帝劇三人娘、かすみ、由里、椿が第一艦橋クルーとして採用されたのもこの頃である。
 なぜ椿ちゃんなのかかなり疑問ではあるが、そのへんはあかほりさとるにでも聞いてちょうだい。
 とにもかくにも、こうしていよいよ搭乗員総員による戦闘訓練が開始されたのである。


 「な、なんなの〜、ここー。けほけほ」

   ここは帝劇の天井裏。丁度舞台の真上近くだろうか。米田にあやめ、そして帝劇三人娘は戦闘服に身を包み、もうもうと舞うほこりの中、四つん這いになって進んでいた。
 ...あまり様になった姿ではない。
 「ごめんなさい、発進時にはこの建物全体を組み替えて、立派な第一艦橋が出来上がる手はずなんだけど...今のところこのルートしかないの、我慢して頂戴」
 「けほ、あ〜あ、せっかくの戦闘服がまっ黒け...何これ、きゃー、クモの巣っ!」
 これがすみれだったらきゃー程度では済まなかったろう。
 「きゃーっ!」
 由里より数倍でっかい悲鳴が天井裏にこだました。
 「ど、どーしちゃったんですか、かすみさん!」
 「そ、そ...そこ、そこに、ね、ね、ねずみぃーっ!
 懐中電燈を握りしめたまま目が動かせないかすみ。...それなら照らさなきゃいいものを。
 「おーおー、ねずみの一匹や二匹でさわぐんじゃねぇや。おっと、そら着いたぞ」
 米田がつきあたりの小さなドアに手を掛けた。


 「きゃ〜っ! すっごーいっ、かっこいーっ!」
 三人娘は思わず息を呑んだ...いや、騒いでるか。

   メタリックに輝く操作卓。ずらりと並ぶディスプレイ群。太正時代という枠をはるかに超えたグラスコックピットの粋が、そこにはあった。
 「だぁーっはっはっはっ、驚いたか。今はまだ変形前だからな、天井も低くて窮屈だが、発進時には広大な第一艦橋が出来上がるぞお」
 「早速始めるわよ。三人とも、操作法については一通り説明したわよね。各自持ち場について。じゃいくわよ、訓練用ダミーシステム、接続!」

 バチン。コンソールに一斉に灯がともり、ディスプレイ群にグラフィカルな表示が浮かぶ。まさに宇宙戦艦なんとやら並である。

 「機関要員、砲術要員ともに、既に持ち場についているはずだわ。椿、各主砲塔にコンタクトしてみて」
 「あ、はいっ。えーと、第一主砲塔の皆さーん、こちら第一艦橋です、聞こえますかあ〜!」
 ...緊張感がない。
 《はい、こちら第一主砲塔。訓練用ダミー、準備完了です。相変わらず元気ね、つばきっ。》
 「あれっ? もしかして、なずなさん!? 食堂のっ!?」
 《ピンポーン、ご明察う。あら、知らなかった?》
 「わーっ、なずなさんだあ! へー、あの人も砲術クルーだったんだあっ」
 「えーどれどれぇ、わー、ほんとだほんとだ! おーい、なずなさーんっ!」
 由里のインカムが椿のチャンネルに割り込んでくる。さすがは帝劇井戸端放送局。
 「こぉらっ、由里までなにやってるのっ! 訓練よ、まじめにやりなさいっ!」
 あやめが後ろからどなる。
 「は、はーい、すみませーん」
 「ったく、帝劇の職員は大抵誰でも華撃団の要員じゃねぇか。おめえたち今さら何珍しがってやがる...」
 初代艦長米田一基、さっそく胃が痛くなってきた。


 こうして第一回総員戦闘訓練はお祭り騒ぎで幕を閉じてしまったが、彼女達とてれっきとした帝国華撃団の一員、その後何度となく真剣な戦闘演習が続けられた。シミュレーションによる仮想訓練しかできない状況下にあっても、彼女たちの努力によって着実にその技量は向上していった...


 さて、戦闘態勢の演習はともかく、艦の操縦は模擬訓練というわけにはいかない。どんな新型機でも慣熟飛行を繰り返し、パイロットは操縦を体で覚えるものだ。しかし、まさか今回は本物を飛ばすわけにもいかず...

 「なあ、あやめはん」
 大きな設計図を小脇に抱えて紅蘭がやって来た。
 「ん、どうしたの紅蘭、何か困ったことでもあって?」
 手にした書類から目を上げてあやめが応える。
 「あんな、これ、設計の段階でどうしてもやっときたい計算があるんやけど...地下の蒸気演算機、なんやこんところずーっと調子悪いとかで部屋が締切になったままやろ。あの修理はさすがのうちも手でえへんから技術本部の人に任せっきりなんやけど...それにしてもいつになったら直るんかいなおもて」
 「へ? あ、ああ演算機ね、そ、そう、お、おかしいわね、いつまで修理にかかってるのかしらね」
 だれが聞いてもこりゃ怪しい。
 「んーっ? あやめはん、なんかうちに隠して秘密の計算でもやってるんちゃうんかぁ?」
 「ま、まさか、何を紅蘭に隠して計算するっていうの? ほほほほ...」
 どうやら当人はこれでごまかしているつもりらしい。帝撃通信局のちょーそかべさんコンビを見るまでもなく、あやめさん、秘密部隊所属の割にはごまかしがヘタクソである。
 「と、とにかく、技術本部には修理を急ぐように伝えておくわ。もうしばらく、我慢しててね、ほほほ...」

 「ははーん、さては、噂になっとる超弩級戦艦とやらの設計かいな...」
 自室へと戻りつつ、紅蘭は措置なしといった表情で苦笑いした。


 数日後、かすみはあとの事務処理を由里に任せ、あやめと共に地下へと赴くことになった。
 かすみとて華撃団風組団員。蒸気演算機は彼女にとっても別段驚くような代物ではなかったのだが...
 「 こ、これ...何なんですか、一体...」
 いつ運び込まれたのやら、見慣れた蒸気演算機に隣り合わせて、その大きさでは本体にひけをとらない馬鹿でかい蒸気機械がでんと鎮座していた。
 「あ、それね。蒸気コプロセッサ、80287よ。フライトシミュレータには浮動小数点演算が不可欠だもの」
 蒸気演算機ご自慢の大型ディスプレイの前には、ご丁寧にもコックピットと同じ操縦系が用意されている。
 「模擬、訓練装置...ですか?」
 「そう。あなたにはこのプログラムを使って、空中戦艦の操縦を覚えてもらうわ。本物そっくり、というわけにはいかないけど...でも技術本部が相当頑張ってくれて、空力特性まで考慮した凝ったアルゴリズムを積んだから、けっこういい出来になってると思うわよ...けど...」
 あやめは傍らに目を落とす。
 「はあ、これじゃ、ロードするだけで日が暮れちゃうわね」
 演算機の側には、これまた山のような きの札(プログラムカード)がどっさりと積まれてあった...


 「そう、そこで、水平舵を右に倒して、少しね」
 「あ、はい、あ、あれっ」
 「ちょっと右に流れ過ぎたわね、そう、そこで垂直安定板を倒すの」
 ディスプレイに浮かぶ3次元モデルと飛行緒元をにらみながら、かすみが操縦桿と格闘する。

 基本的に艦の飛行制御のほとんどが自動化され、進みたい方向に桿を倒すのみで操縦自在と言えるまでにその完成度は高かった。
 とはいえ、図体が図体だけにそう簡単にはままならない。かすみとて翔鯨丸の試験飛行には何度も同乗し、実際に舵輪を握り操縦訓練もこなしているのだが...
 その点、翔鯨丸の操縦はお手のもののあやめが与えるアドバイスは的確だった。

 「前進するわよ、そう、スロットルを上げて。出力の増加には細心の注意を払ってね。霊子核機関は、地上に生きるすべての生物からその霊力を吸い上げるわ。あまり急激に負荷をかけると、それこそ帝都市民がみんな干物になっちゃうわよ」
 「は、はいっ、機関微速、前進します...よいしょっと...」

 かすみの最終訓練は、花組の特訓期間に合わせ、その後1か月にわたり綿密に行われた。


 「なあ、あやめくん」
 「あら、米田支配人。一体何のご用事ですの?」
 「いや、その...地下の蒸気演算機なんだが...」
 「だめですっ。またどうせ勝ち馬予想にちょっと使わせて欲しいだとか、そんなことでしょ?」
 「頼むよぉ、あやめくん、今度の帝都賞は大穴がきそうな感じなんだ、ほんの数十分で済むからよぉ...」
 「だめったらだめですっ。紅蘭の設計に回す余裕もないんですからっ。空中戦艦の空力演算にかすみの訓練、メンテナンスも含めて予定はもういっぱいですっ!」
 「ちぇっ、あやめくんのけち...」

 なお余談であるが、かすみの訓練も終わった頃、今度は積もり積もった重負荷で蒸気演算機がダウンし、米田は大穴の出たレースを前に地団駄を踏む毎日がさらに続いたという。


 こうして、空中戦艦はいよいよ竣工の時を近くしていた。
 それに伴い、発進ゲートの工事も急ピッチで開始された。帝都の危機を前にし、この無敵戦艦の発進もそう遠い未来の話ではないことを誰もが予感していたからだ。

 格納甲板といえば翔鯨丸のハッチが思い浮かぶが、あの観音開き式では出撃するたびに花やしきで遊ぶ客達は緊急避難、おまけに毎回必ずトイレに入りっぱなしで汲み取り便所の内容物を頭からかぶる客などいて大騒ぎである。
 そこで今回は平行スライド式の格納甲板が設計された。数万基におよぶ蒸気シリンダーが帝都の街ごと発進ゲートを無理矢理こじ開ける。...とはいえ構造上、下にすべり込む側に確保できる高低差はせいぜい10メートル強、3階以上の建物は豪快にぶっ壊しながら開く。

 ま、どうせこれが発進する時には帝都は大崩壊してるし、まあいいか。


 「それでは、米田中将、本艦にご命名を」

 1924年1月、帝都地下、空中戦艦格納ドック。長年に渡る巨大な労力と犠牲のもと、今日、超弩級空中戦艦は、ついに竣工の日を迎えたのだ。
 極秘ゆえ、竣工式には帝国政界と陸海軍のごく限られたトップ達のみが参加し、静かに、しめやかに執り行われた。無論初代艦長たる米田は式の中心人物である。
 「うむ」
 米田が凛然と、静かに、艦へと歩み寄る。そこにはあの酔っぱらい支配人の姿は微塵もなかった。

 「本艦を、超弩級空中戦艦、ミカサと、呼称する」

 ...明冶時代、あの日本海海戦を闘い抜き勝利した不朽の名艦。それは陸軍中将米田一基の、海軍に対する敬意と気配りの証でもあった。

 神はこの私に、再び自らの手で闘う機会を与えてくれたのだ。
 見ていてくれ、真宮寺。何としても、奴らにこの帝都は渡さぬ。

 歴戦の老将の眼に、強い意志の炎が、いま再び点った。

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