ワンダー!5月分

平成13年5月2日(水) 第16号  小さな戦い

◇「教育は子供との戦いである」と言った人がいます。私は,教育の本質が戦いにあるとは思いません。しかし,小さな戦いを制しなければ教育は成立しないという側面は確かにあります。小さな戦いを,大人も子供も笑顔で,楽しく乗り越えていくことが教育の一つのポイントであると思っています。

◇算数で,2ケタ同士のくり下がりの引き算(34−18)をしていました。つみきを出すようにと指示を出しました。ほとんどの子が,サッと道具箱に走ります。そのとき,一人の子が「ぼく,つみきがなくても分かる。」と言いました。すると,まだ席についていた子たちの表情が微妙に変化しました。上げかけた腰を下ろしてしまった子もいます。「先生は何と言うのだろう。」という表情で,こちらを見ている子もいます。その数,4人。

◇そこで,静かにもう一度言いました。「先生は,つみきを出しなさいって言ったんですよ」。これで,3名の子は動き始めました。しかし,「なくても分かる」と言った子ともう一人は,「だって,なくても分かるんだもん」と言って,腰を上げようとしません。
 その二人のうち一人は,1年生でやった「2位数引く1位数の繰り下がりの引き算」はまずまずできます。しかし,もう一人はそれもおぼつかないのです。それに,この二人にこれ以上かかわっていると,授業全体のリズムが崩れてしまいます。そこで,強権発動。「できる,できないを聞いているんじゃありません。つみきを,出・し・な・さ・い。」

◇5名の子が,なぜ出すのを渋るのか。それは,面倒くさいからです。それに,4月当初,つみきを出したとたんに,つみきで銃などを作って遊び始めたことがあったのを,以降学習時間中は禁止したこともあり,つみきに魅力が感じられないということもあります。

◇そこで,その子たちが出している間,他の子にもつみきのPRに努めます。「つみきを使って考えると,計算がよく分かるようになるんだよ。頭だけじゃ,ごちゃごちゃになっちゃうことも,手を動かすと分かるようになるんだよね。」
全員の用意ができました。34−18をつみきでやってみます。ゆっくりとやってみますと,先ほど渋った5名は,見事にできません。34を置けない子。34を置いたきり,何をどうしていいのか分からない子。引くはずなのに,新たに18を作ってどうしようと回りを見回している子,お隣さんのするのを真似しているものの,間違えている子。面倒くさがりの子は,大体こういうものなのです。これでは,2年生くらいの計算までは何とかなっても,4年生以降の計算には歯が立ちません。数量感覚が育たないからです。

◇できた子の方法を紹介し,まずゆっくりとつみきを動かすようにさせます。そして一連の流れをだんだん速くしていきます。何度か繰り返すと,「なくても分かる」と言った子が,突然「分かった!」と言いました。他の子からも,「すごく分かる。」などと声が出てきました。子供たちの表情に,分かった喜びが広がって教室の雰囲気が知的で温かいものになってきました。このように,つみきを使って考えることで,繰り下がりの意味が分かり,筆算へとつなげることができるようになります。
 これで,私はこの小さな戦いに勝ったことになります。

◇掃除の時間,雑巾をきちんと使えない,しぼれない子が多いのです。そこで,昨日午後の授業の後半に15分程度の指導を行いました。
 まず,机の上に雑巾を出させ,「それで自分の机の上を拭いてごらん。」と言いますと,楽しそうに拭き始める子供たちです。私は,机の間を巡って,一人一人の耳か鼻をつまんで歩きました。そして一巡した後,「鼻をつままれた人は,拭き方が正しいよ。耳の人は残念でした。」と言いますと,子供たちから「分かった!たたんでいないから。」そうです,大きく広げたまま拭いている子が約半数。すると「え〜っ,どっちでもいいしょ。」とアドバルーン。そこで,たたむと手の力が雑巾の隅々まで伝わることやひっくり返して使うと,汚れていないところで効率よく拭けることを説明します。

◇次に,しぼり方です。これも,その場で点検します。両手の親指同士がくっつくしぼり方の子がこれも約半数。手を添えて直します。ここでも「分からない!」と,正しい手の使い方を拒否しようとする子がいました。この場合は,何も言わずにその子の手をやさしく包み込むように添えて,直してやります。そして,実際に水飲み場で雑巾を洗わせてから,私の前に整列させ,子供がしぼった雑巾を私がさらにしぼってやります。バケツの中にどんどん水が出ます。その量で「こんなに水が出たね。しぼり方75点。」などとテキトーに点数をつけてやりますと,子供たちは大喜び。「分からない!」の子も,一生懸命に正しい持ち方でしぼろうとしていますので,そこをうんとほめてやりました。ニコッと笑いました。私の勝ちです。

◇このように,小さな戦いを制していきます。小さな戦いに負けて,「参ったなあ。先生にはかなわないや。」と思ったとき,子供は素直に成長するのです。
 もちろん,私が負ける場面もたくさんあります。テレビや遊び,キャラクターの話題などでは,「ダメだなあ,先生は!」と言われ続けています。「これは,こうなの!もうちゃんと覚えてよ。」と子供に言われ,「ハイ…。」と情けなく返事をすることもあります。 私も,楽しく負けながら日々成長しています。(ホントかいな)


平成13年5月8日(火) 第17号  参観授業の手引き

◇第2回目の参観授業は,算数「1000までの数」です。(予定では)今朝,Aの時間にたくさんのマカロニを数えています。その中でたくさんの数のものを数えるには,10の固まりを作って数えると早く正確に数えることが出来,便利なことを思い出し(1年生の内容です)ています(予定では…)。そこで,本時では,その経験をより広げ,高めて3位数の構造と表し方に進みたいと思います。

◇しかし,上で(予定で)と書いているのは,実は数を数えるという点で不安な材料があるからです。具体的に言いますと,20個前後のものを数えさせると,実に多くの子が「1,2,3,4,…,22,23」と数えているという実状があるのです。
 1年生の時に「10のかたまり」という学習をしているのですが,そこが十分に落ちていないようです。(今回はこのあたりのことを,ミニ講座で扱います。)

◇主な内容と流れ

主な学習活動 こんなところを見てください
・おうちの方に問題を出すことで,前時の活動を振り返ります。
「100円のマカロニの袋には,どれくらいの数のマカロニが入っているでしょうか。」
・前時,自分たちのした活動を生き生きと思い出すことができるでしょうか。
・予想をお聞きします。ご協力ください。 (予想は,外れた方がいいのです。)
・問題を提示します。
「マカロニの数は,どの袋も同じ数ずつ入っているでしょうか。」
・ 10がたくさんで数えにくいね。
・一番欲しい気付きです。
・10が10で100にすると,数えやすいよ。
・バラでまた10のかたまりができるよ。
・100のかたまり,10のかたまり,バラで整理すると,数がわかるよ。
・ここから,位取りの必然性が感じられているでしょうか。
・教科書18,19ページのひよこを数えてみよう。
・見当を付けてみよう。
・10ずつのかたまりを作り,それをさらに10で100にするといいんだな。

懇談の手引き

◇本日の懇談の内容は,以下の通りです。

・本日の懇談のテーマについて(学校長よりテレビにて)
・今年度の学級役員さんのご紹介 (ありがとうございます!)
 研修委員〜村さん,本さん
 環境委員〜井さん,服さん
 広報委員〜新さん
 20周年ボランティア〜板さん,佐さん
・本日の参観授業について(同時にミニ講座「数量概念の発達」,授業をご覧になっての感想もお聞かせ下さいね。)
・平成13年度年間計画について
・子供たちの様子から (積極的に,不安な点などを話題として提供お願いします。)

ミニ講座「数量概念の発達」テキスト

・ピアジェの「保存」について
〜離れたら増える(初級),しゃがんだら重くなる(中級),はみ出したら? 浮かべたら?(上級)

・数=量を表したものという感覚→具体物〜半具体物〜数図〜数字というプロセスを
 (数え主義の危険性と右脳処理)

・数学的思考の発達と言語(単語族と論理の不足。文章題への階段)

・秋山仁さんの「数学ができる子になるためのアドバイス」

・「どうして?」への対処〜ズバリと論理(つながり)を示す

 メモ


平成13年5月11日(金) 第18号  気持ちよく動く

◇あるお母さんと私の会話です。
母「何をするにも,1回では言うことを聞かないんです。最後には怒鳴ってやっと動きます。歯磨き一つ,着替え一つ,…。どうしたら,ちゃんといろいろやってくれるんでしょう。」
私「言うことを聞かないときって,何をしているんですか?」
母「そうですね,テレビを見ていたり,遊んでいたり,…。」
私「それは,そういうときにさっとお母さんの言うとおりに動いたら,そっちの方が怖くない? それに○○さんの持ち味って,けっこう自分の気に入ったことにはぐっと集中して取り組めるという所でしょう? そこを否定したらダメだよね。良い個性を潰しちゃうかもしれないよね。」
母「そうなんですよ。そこは○○の良いところでもあるんだけど…。だから,つい私も甘くなってしまっているっていうところもあるんですよね。でも,やらなくちゃいけないことはちゃんとやってほしいし,…。でも,学校の様子を見たら,みんなきちんと集中してぱっと動いていますよね。先生の言うことは聞くんですね。私の問題なのかなあ,これは。」

◇さて,私は基本的に子供の持ち味を大切にしたいと思っています。全員が一律に同じ事をするということよりは,その子その子の思いや願い,気付きや発想を,その子らしく表出することの方が大切だと思っています。「日本の教育は,これまでそろえる教育であった。これからは違える教育が求められる」と言う識者もいます。基本的に賛成です。
 しかし,集団生活,集団学習を成立させるためにはそれと矛盾するようですが,「みんんなと一緒に気持ちよく動く」ことも大切にしたいと思います。これがなければ,社会性が育ちません。人間は社会的な存在ですから,個性オンリーではいけないのです。というか,社会性を欠いた個性はあり得ないのですが。(私の尊敬するある校長は,よく「教育って矛盾する2つのことを同時に実現していく営みなんだ。」とおっしゃいました。)
 さて,上のお母さんが指摘してくださったように,この1か月の間に,子供たちの集中と行動の切り換えはかなり気持ちの良いものになってきているように感じています。どんなことをしているのかを,いくつかご紹介します。少しは上のお母さんのような悩みをお持ちの方に参考になるかもしれません。

◇「やだねったら,やだね」
(著作権:箱根八里の半次郎 松井由利夫 作詞 水森英夫 作曲 氷川きよし 歌)
 教室内で,まずいことが起こります。例えば,整列が遅い,床に給食をこぼしてそれを踏んづけて歩いている,…。そうした場合,私は「♪やだねったら」と歌います。すると,ノリの良い我が2の1の子供たちは「♪やだね〜!」と元気いっぱい返してくれます。
 歌うと,楽しく集中します。そこで,「まだ並んでいない人がいるなあ。」などと言いますと,笑顔で並びます。素早く並べたら「おっ,早い! ♪いいねったら」「♪いいね!」(ただし,これは多用すると飽きますので,1日に限定1〜2回です。)

◇自分がライバル
 漢字練習などの際,ノートに@と書いて「よーい,ドン」で1分間練習をします。1分たったら何個書けたか数を聞きます。すぐにAと書いて同じ事をします。そして聞くのです。「さっきの自分を越せた人?」多くの子が手をぴいんと挙げます。喜びにあふれています。
 他の子との競争なら,いつも早い子が固定化してきます。ゆっくりペースの子は,だんだんやる気を失います。しかし,自分との競争ならいつも勝つ可能性があるわけですし,2回目は早くなるのが普通です。これを繰り返していると,「@」と言っただけで,喜んで集中するようになります。

◇空書き
 漢字を覚える際は,まず指を挙げて空中に書いてみます。私は鏡になって反対向きに書き,子供たちは私のスピードに合わせて書きます。
 1回目は,「カタツムリの速さ」。ユックリ,ユックリと書いていきます。「おれ」「はね」「曲がり」「そり」「次の線が始まる位置」等を確認しながら,ていねいに書いていきます。
 2回目は,「歩く速さ」。ちょっと早めに,でもやはり「おれ」「はね」…は確認します。子供たちの様子によっては2回するときもあります。
 3回目は,「自動車の速さ」。スイスイと指を動かします。これも,通常2回程度。
 最後は,まったくのオマケで「ロケットの速さ」。みんなで「5,4,3,2,1,0!」とカウントダウンして大急ぎで書きます。とてもノリがいいです。
 そこまでしておいてから「じゃあ,ノートに歩く速さで1回書いてご覧。」とします。

◇一時に一事
 指示を出すときは,まず一つのことを指示し,必ずその達成度を確認します。「机の上の準備をしましょう。」で,少し待ちます。できたかどうか,確認をしてから「じゃあ,今日の場面を読むよ。全員起立。」これも,起立を確認してから「☆の問題を1回読んで,意味が分かった人から座りましょう。」とやります。できるたびに,ほめます。
 これを,いっぺんにやるとほとんどの子は,ごちゃごちゃになります。あれも,これもは教育の原則に反します。急がば回れで,ゆっくりと小さく指示をして,できたらほめていくことが結局は,早くなるのだと思います。

◇先日の懇談で,他のお母さんからも「難しいところだったけれど,子供たちの集中がとてもよかった」との感想をいただきました。それは,上のようなことを繰り返してきたということもあるのかなと思いました。今後も集中力,持続力,反応速度を上げることを,個性を伸ばすのと同時に楽しくやっていきたいと思っています。


平成13年5月21日(月) 第19号  ステップ・バイ・ステップ

◇「教育とはステップを持った文化である」と言った人がいます。ステップをきちんと通すことによって,楽しい学習が成立します。
 算数「1000までの数」に,次のような例題があります。(教科書21ページです。)

(2)数字で 書きましょう。
 @ 100を7こと,1を 9こ あわせた数
 A 100を9こと,10を2こと,1を 1こ あわせた数
 B 八百二 五百八十 六百七十四

(3)つぎの 数を よみましょう
205  426  999

 先日,参観授業でご覧いただいたところからの発展です。
 数量感覚を重視して,数の仕組みを学習してきてはいますが,上の問題を「さあ,やってごらん」では,多くの子が「???」となってしまうでしょう。ステップがとんでいるからです。では,どのようにすればよいのでしょうか。次のようにしました。
◇まず,この問題の例題を生かして,右のような図をかいて,これがいくつかを書かせました。
これには,約半数の子が正解。
そこで,この問題の答え合わせを行い,間違えていた子には正解を写させます。ここで,間違えていた子のさらに半数は,「どのように考えればよいのか」を把握できます。理解できた子のためにも,まだ理解があやふやな子のためにも,同じレベルの問題を出題します。子供たちの表情に,集中と喜びが生まれてきます。

◇3題繰り返して,全員が正解できるようになったところで,ゆさぶりをかけます。
3題目は私の方から,「正解」を板書します。
右の問題に,「3005」と書きます。
子供たちの中から「ちが〜う!」という声があがります。黒板の前に走ってきて,消そうとする子もいます。「先生,頭悪いね。」と言う子もいます。「あれなら三千八でしょ!」とお隣さんと確認しあっている子もいます。
そこで,こう書いたらどうしてダメなのかを問います。しかし,なかなか位取りの原理を使って説明することができません。数人の子の断片的な主張を拾って,位取りの原理で確認します。

◇ここまでは,すべてストローの図を使います。そこで「ははあ,ストローだったから分かったんでしょ。じゃあ,これならどうだ。」と,今度は似た問題を折り紙で出題です。これは,ほとんどの子がクリア。次いで,お金などだんだん抽象的なものにしていきます。しかし,これらもできます。予想通りです。
 そこで,「じゃあ,もっと意地悪な問題を出すよ。言葉だけならどうだ。」と,

100が3こと,10が5こと,1が7このかずは?

 と板書。ここまで順調に問題の解き方を把握してきた子供たちは,「できる!」と喜んで取り組んでいました。そして,これも数題繰り返す中で,ほとんど全員ができるようになりました。
 この後,「数字→漢数字」「漢数字→数字」の問題がもう一苦労するのですが,これはまた後日。
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おまけ
・先週は風邪をこじらせてしまい,2日欠勤してしまいました。申し訳ありません。この土,日でまずまず治りました。
・家庭学習をして,持ってくる子が増えてきました。もし取り組まれましたら,どうぞ私に見せてください。一言励ましを書いた
りもできます。(忙しい日は,はんこだけということもあります。)その際は,右のように「日付」「学習」「私宛の簡単な手紙(あるいは日記)」の3点セットでお願いします。手紙への返事が励ましメッセージの一番自然な形だと思っております。
 また,計算や漢字などにおうちの方も丸をつけてくださると,助かります。保護者の方からの一言などもいただけるとうれしいです。
前任校で1,2年生を担任しているとき,これを子供,保護者,そして私の三者の交換日記として継続した家庭がけっこうありました。その中で,私もいろいろなことを学ばせていただきました。そんなお付き合いをこの家庭学習を通じてもさせていただければうれしいです。今,数名の方からお手紙やeメールをいただいたりしています。また,懇談会では,必ず皆さんに参観授業の感想や,帰宅後の生活から気になることや疑問に感じることを出していただくようにしています。しかし,もっと日常的にお子さんに密着したやりとりをする場として,この家庭学習+日記方式はなかなか良いと思っています。無理のない範囲で,よろしければ取り組んでみませんか?


平成13年5月23日(水) 第20号  消しゴムの教育学

◇4月当初から気になっていたことの一つが,子供たちの消しゴムの件です。大きく分けて,形状と使用方法の2点に気になる点があります。まず形状から。
・とてもカラフルで,匂い付きの消しゴム。文字はあまりよく消えません。
・可愛いキャラクターものの小さな消しゴム。大きさは,7mmくらいかな?まず文字は 消せません。

◇次に,使い方。
・名前を付けるように再三言っていますが,なかなか徹底しません。
・消しゴムをちぎって遊ぶ子がいます。何度注意しても,ついしてしまうようです。
・クレヨンなども消しゴムで消そうとしたりする。
・例えば,算数の答え合わせをしていて,自分の答えが間違えていた場合,多くの子が間 違えを消して,正しい答えを鉛筆で書きます。赤ペンで別の場所に直すように言っても なかなか徹底しません。

◇他にも,消しゴムを巡る小さな問題はありますが,上の点がとても気になります。特に私が気になるのは,一番最後のことです。つまり,子供たちにが「間違え」を「消すべきもの」と感じ,それが習慣化しているということです。
 私が,間違えた問題を指さして,「この横に,もう一度書いて持っておいで。」と言うと,困った顔をする子がたくさんいます。
「間違えたところから,賢くなるんだよ。だから,間違えは消さないで残しておくの。そして,家に帰ったらその間違えと,正しい答えをもう一度比べて見なさい。すると,ぐんと賢くなるから。」
 こんな話を4月から,数十回繰り返して話して聞かせても,やはり子供たちにとって,間違えは恥ずかしいもので,いけないことで,痕跡を残さずにリセットをかけたいものなのでしょう。私が問題に感じるのは,ここなのです。

◇間違えを恐れる子,間違えをして困った経験をあまり持っていない子は,伸びません。間違えに無神経で「がさつな生き方」なのも困りますが,「見た目きれい」な生き方をしようと,間違えを隠蔽しようとする態度を育てたくありません。どこかにウソがあります。 間違えを素直に認め,明るく受け入れ,たくましく乗り越えていく力をこそ育てたいと思うのです。リセットでなく,リカバリー能力をこそ育てたいのです。
◇この「リセット」要求は,別のところでも表れます。例えば絵を描いていると,必ず
「失敗したので,もう1枚画用紙をください。」
と言ってくる子がいます。子供たちの好きなテレビゲームの影響もあるのかもしれませんね。

◇さて,消しゴムです。何度言っても間違えを消してしまう子が多いので,次のようにすることにしました。
・全員の消しゴムに名前を付けて私が預かる。預かった消しゴムは,教卓の近くに保管し ておく。
・ノートや作文などに書き間違えをしてしまったら,基本的には二本線で消し(間違えが 見えるように),横に書き直す。
・どうしても消したくなったら,ノートなどを持ってきて,「ここを消したいのですが, いいですか?」と相談をする。

◇子供たちから回収すると,どの子もとても不安そうな顔をしました。
「先生,それいつ返してくれるの?」(あのー,取ったんじゃないんだけれど)
「間違えたら,どうするの?」(だからね,…)
という声に混じって,
「間違えたら,お母さんに怒られる。」
という子もいましたので,
「大丈夫。お母さんもわかってくれるから。」
と言っておきました。どうぞ,今回のことの趣旨をご理解いただきたいと思います。

◇消しゴム一つにも,教育学があるのだと思います。
 ・どんな消しゴムを与えるのか。
 ・どのように使わせるのか。
 こんな何気ないことの裏には,
 ・学習というものをどうとらえているのか。
 ・間違えを回避させるのか,程良く経験させるのか。
 ・間違えをどのように認めさせるのか。
 ・間違えからどのように前進させるのか。
 そんな思想が横たわっているのではないでしょうか。
 文字のリセットは,比較的容易ですが,人間関係のリセットはできません。自らの非を認め,心から「ごめんなさい。」を言い,誠意を込めて失敗をリカバリーし,明るくたくましく生きていく力を育てるためにも,小さな消しゴムにこだわってみたいと思うのです。
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おまけ
・生活科で,ミニトマト(矮性で草丈は大きくなりません。実はしっかり付きます。)とポップコーンとうもろこし,エダマメのたねをまきました。少しずつ芽生えが見られるようになりました。ほとんどの子が登校後,自発的に水やりをしています。立派!


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