フレームを絞って,広げて楽しい表現活動
〜2年生活科「秋をさがそう」の実践から〜
はじめに
生活科が本格実施され,子供たちは生活科を大歓迎した。一番好きな教科に生活科を挙げる子がたくさんいる。
「低学年は,生活科があっていいなあ。」と上学年の子がうらやましがる。
なぜ,子供たちは生活科を歓迎するのか。一言で言うなら楽しいからである。この「楽しい」ということを,我々はもっともっと大切にし,研究を深めていかなくてはならないと思う。
生活科では表現活動を重視しているが,これもまた子供にとって楽しいものにしたい。子供にとって楽しい表現活動とはどのようなものであろうか。いくつか考えられる条件を挙げてみた。
《表現活動が楽しいものになる条件》 ◇まず体験活動が楽しいこと。そして,その感動を「伝えたい」「残したい」という意欲が心の中に芽生えていること。 ◇表現することで,気づきが一層はっきりしたり自分の世界の広がりを確認できたりすること。 ◇表現を受け止めてくれる人や場があること。 ◇表現方法が体験活動や気づきに合ったものであること。 ◇表現方法が子供の知的好奇心をくすぐるものであること。 ◇表現方法・内容を自分で選択でき,自分らしさを出せること。 ◇時間・場・ものなどの諸条件が保証されていること。 |
まだまだ,条件は考えられるであろう。また,上の条件はそれぞれ重なっていたり,表裏一体であったりする。今後,より明確に整理していきたい。
本稿では,「秋をさがそう」という単元において設定した2つの表現活動について考察してみたい。
1.単元について
本校は,町の中の学校である。間近にビルが立ち並び,市電が走る。
しかし,校地や校区には,四季の移り変わりを感じさせてくれるものが多くある。また,遠足や生活科などで円山公園や藻岩山まで足を延ばしてもいるので,子供たちは結構自然と触れ合い,四季の移り変わりを感じている。
本単元「秋をさがそう」は1年生時にも類似の活動を行っている。そこで,1年生の時よりも距離的・心理的な行動半径を広げ,見方・感じ方・気づきを深め,より楽しい表現活動に結びつけたいと考えた。また,それに対応して表現活動も柔軟に変化させていきたいと考えたのである。
そこで,この単元では2つのタイプの表現活動を採用した。その意図と実際の様子について述べよう。
2.表現活動@〜クイズに絞って表現
これは,校地での秋探しに対応して設定した活動である。校地での秋探しは,1年生の時にもしている。1年生の繰り返しではあまり楽しくない。そこで,2回目は個々の気づきをクイズに表現し,共有できるようにと考えた。これは,この後の円山,藻岩山での気づきの基準にもなるという意図もあった。
クイズ作りは,1年生の時も何度か経験しているが,子供にとっては楽しく自分の気づきを表現でき,さらに友達と交流ができる活動である。
カードを配り,子供たち一人一人にクイズを作らせた。子供たちは張り切って外へ飛び出し,子供らしい発想で様々なクイズを作っていた。
・オンコの実は甘いでしょうか,すっぱいでしょうか。
・こぶしの花がさいたあとは,今何色でしょう。
・タンポポは,今もジャングルジムのあたりにさいているでしょうか。
・今はトンボがとんでいます。チョウはいるかな?
などなど,教師もハッとさせられるようなものも多かった。
その後,これらの中から子供たちが五感を使って,確かめの活動ができそうなものを教師側で選び,印刷して配布し,クイズ大会を実施した。
クイズ大会では,出題者の子供に教師のインタビュー形式でヒントを出してもらった。
2人の子がオンコの味を顔で表現すると,見ている子供たちは,爆笑していた。
2人の子供の表情は違う。一人は「オンコは甘くておいしい」と感じ,もう一人は「苦くてしびれるようだ」と感じているからである。このような気づきの違いを問題にすることで,子供たちの知的好奇心がくすぐられ,追求の意欲が芽生える。
実際に確かめの活動では,他の全員がオンコの実を食べたが,「甘い」「苦い」でちょっとした論争が起こった。
このように,出題者を登場させ,ヒントを出しながら,予想の交流などしたが,どのクイズでも子供たちの予想は大きく割れた。そして,それが「早く確かめたい」という意欲の高まりにつながっていった。
子供たちにとって,校地は身近すぎて,「あれども見えず」の状態になりがちである。そういう子供に「よく見なさい」などと言っても,豊かな気づきは引き出せない。ところが,気づきをクイズに仕立てるという表現を設定すると,「他の子が気づかない」ものを,という意識が芽生えるのである。
これは,クイズという活動に絞り込むことで,楽しい表現を実現した例である。
3.表現活動A〜藻岩山探険を自由に表現
その3週間後,電車に乗って藻岩山へと出かけた。快晴で,さわやかな日であった。
藻岩山へ行くのは春に続いて2回目である。春の活動の下地があるので,子供たちは行く前から様々に自分の活動へのイメージをふくらませていた。
春に,池でサンショウウオの卵を採取してきた子は,
「うちで飼っていたサンショウウオは,この間全滅しちゃったけど,山のはどうなっているだろう。見たいな。でも,もう採らないよ。かわいそうだから。」と言う。「かわいそうだから」に,この子の世界の広がり(相手意識の成長)が見て取れる。
春の草花を摘んで,押し花や花束を作った子は
「今度は,空のお弁当箱を持って行って,秋のお弁当を作るの。秋はきれいなものがたくさんあるから。」と言う。
これは,今年度の1年生が生活科で取り組んだ活動で,その展示を見てやってみたいと思ったのであろう。
このように,子供たちのイメージが豊かな広がりを見せていったので,ここでは活動もできるだけ幅広く認め,豊かな自然の中で思いきり活動させてやろうと考えた。(生活科の活動構成の最大要素は,子供の内面の思いや願いである。)
このように先行経験のある活動は,子供たちの思いや願いがひとりでにふくらむようだ。生活科において,繰り返しの活動が有効な所以である。
そして,それは具体的な活動に限ったことではない。
藻岩山から帰ってくると,ある子が
「先生,ぼく藻岩山の作文が書きたい。作文用紙をください。」と言いに来た。活動が楽しかったので,それを留めておきたくなったのである。
すると,それを聞いた他の子が
「先生,私たちはカルタを作ってもいい?」と言う。
1年生のときにカルタ作りをしたのを思い出したのだろう。
そこで,全体にどんな表現をしたいかと投げかけた。(全体に投げかけるタイミングは,まったく自発的な要求が2,3人の子から出たときが良いように重う。)
すると,次のような活動が挙げられた。
・作文 ・絵本づくり ・紙芝居 ・クイズ ・秋のお弁当 ・すごろく ・図鑑づくり ・新聞づくり ・カルタ ・葉っぱの張り絵 |
子供たちの表現活動に対する意欲も広がりを見せていたので,ここではクイズのように絞り込まず,個々に自由に取り組ませることとした。子供たちは,それぞれ自分の表現方法を決めて,取り組み始めた。取り組みのいくつかを紹介しよう。
《秋のお弁当箱》 | 《秋新聞》 | 《秋のカルタ》 |
ススキ・ノブドウや紅葉したアサダ・ヌルデなどの葉を弁当箱に詰め込むと,カラフルな「お弁当箱」のでき上がり。 | 「キツネノチャブクロというきのこが生えていたんだよ。おすとけむりが出てくるよ。先生に聞いたら『ほうし』っていうんだって。そのけむりは少し茶色いよ。きのこはキツネ色だよ。」(W.Yさんの『秋さがし新聞』より) | 写真のように,小さなカードで読み札と取り札を作っていった。「きれいな色のノブドウ」等微笑ましいものが多く見られた。 |
《秋クイズ》
校地でのクイズ作りが楽しかったので,藻岩山を舞台にしたクイズを作った子供たちもいた。
「オオウバユリという花のたねをおとしたら,どんなふうにおちるでしょう。(答ーひらひらおちるかんじ」(I.Mさん作)
これらは,表現方法を限定せず,広げることによって楽しい表現活動を実現した例である。
おわりに
この表現活動の4,5日後,お弁当箱づくりに取り組んでいた子供たちが,「先生,お弁当箱の絵を描くから,画用紙をください。」と言って来た。
宝石のような色合いだったノブドウが,だんだん茶色に変色してきたので,絵でその鮮やかな色を残しておきたいのだと言う。
休み時間には,カルタやすごろくで遊ぶ子もいた。新聞の続編を書いて見せに来る子,その新聞を取り囲む子供たちもいた。それは活動が生活に返っている姿だと思う。
授業時の表現活動が日常生活につながり,更に深まっていく。生活科における表現活動は,新たな気づきや活動を促す節目の活動である。子供にとって楽しく,生活を豊かにする表現活動を今後も探っていきたい。