理科からの発展としての総合的な活動
  福祉の授業〜点字,手話,そして盲導犬へ


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  第1時〜オリエンテーションから調べ学習へ
  第2時〜体の動きを調べる
  第3,4時〜動くところにシールを貼ってみよう
  第5,6時〜人体模型づくり 
  第7,8時〜義手,義足,義足のスポーツマンのビデオ鑑賞
  第9,10時〜感覚器への導入,目について
  第11時〜暗さになれる目,瞳孔の働き
  第12時〜耳の働き
  時間外ー手話ニュースを視聴する
  第13時〜モノ当てゲームから点字へ
  第14時〜加齢体験
  発展〜盲導犬との出会い


 3年生理科「私たちの体をしらべよう」から発展させて,福祉の授業を実践しました。その記録です。

第1時
 予定では,「昆虫やホウセンカの体のつくり」との比較から,導入するはずでしたが,ちょうどこの日はけがをした子と,39度の熱を出し
て早退した子がいましたので,その子たちのことを知らせ,気づかうところから授業を始めました。
「みんなも,けがをしたり,病気をしたりしたことがあるでしょう?どんなけがや病気があるかな?」
子供たちの体験がたくさん出ました。Oー157のことも出ました。 そこで,「その時のけがや病気は,どうなったの?」と問いかけ,体にはけがや病気を治す不思議な力があることを押さえました。次いで,「みんなの体のことで,不思議だと思うことはないかな?」と投げかけますと,まず出てきたのが「どうしておしっこやうんちが出るのか」でした。いくつか出されたところで,「いっぱいありそうだから,カードに書いてみて。」と言いますと,下のような疑問が出されました。

・なんでおじいさんになると声がへんになるの?
・どうして体はあついのか?
・なぜ,いたみをかんじるの体の中にしんけいという糸のようなものがとおっているのか?
・なぜかなしいとなみだがでるの?
・楽しいなとかんじるのはどうして?
・先生みたいにハゲるのはどうしてか?
・人間はなぜ死ぬの?
・どうして人によって大きさがちがうのか?
・人間の体にはいくつほねがあるの?
・体で一番動くところは?
・びっくりするとなぜしんぞうがはやくうごくのか?
・どうして歯がぬけるの?
・どうしてすわったり立ったりできるの?
・大人になるとすねやチンチンに毛が生えるのはどうしてか?
・おなかのまん中におへそがあるのはどうしてか?
・どうして耳で人のことを聞けるのか?
・どうして人は病気になるのか?
・あくびってどうして出るのかな?
・なぜ動物は4本足が多いの?

 まだまだたくさんありました。これを見ると,子供たちの疑問は多岐にわたっていますが,自分の生活実感に近い疑問が多いことがわかります。

体調べの掲示 そこで,「みんなの疑問をこれからの学習の中で,いろいろと調べていこうね。自分で調べられることはないだろうか。」と,調べ学習を呼びかけました。すると,4日後には,右のように掲示板がいっぱいになるほど,いろいろ調べてきました。

 このように,自分から疑問や課題を持ち,自分でいろいろと調べる 活動は,他の教科でもよく取り入れていますが,子供の持ち味を見取 り,生かす上でも有効な方法だと思います。
どのカードにもキラリ光るところがあります。例えば,R子は発言は苦手ですが,このような調べ学習になると, 本領を発揮します。カードに10枚以上,くわしく,自分の興味を持 ったことについて調べてきました。他の子からも「すごい」と言われうれしそうでした。


第2時

  この時間は,体の動きに気づく場面です。また「体の不思議な力」に触れ,「どんな動きができるのかな。」と広げていきました。すぐに立ち上がって動き始める子供たちもいれば,それを見ている子も,そっと腕を回してみる子など,さまざまです。しかし,理科の学習としては, 事象にたっぷりとかかわらせることが大切ですから,「みんなもやって みよう!」と呼びかけ,子供たちの動きを活性化しました。
 その動きを見ていますと,やはり体育の時間の動きが多かったです。 また,ここでもOー157やその他の病気のことを発言した子もいまし た。やはり関心が高いのでしょう。

板書

 子供たちの気づきをまとめた板書です。さまざまな動きが出されたところで,「似ている動きはどれとどれだろう?」と投げかけて,動 く部位や働きをいくつかの類にして色チョークで囲って分けていきま した。例えば,「走る・歩く」と「ける」は,似ていると子供たちは 言います。理由を聞くと「どっちも,足を使うから。」と,体の部位 に着目していきました。このように部位と動きの関連が意識づけることで,キラリの認め合い,高め合いを図りたいと考えたのです。そのうちに「よく動くのは手と足が多いね。」といった気づきも出てきま した。
ここでも,やはり動きながら考える子も,見て考える子もいました。


第3,4時

  前時の活動の中で,子供たちから「手や足を動かすのが多いね。」という声が出ていましたので,すんなりと本時の学習である「体でよく動くところ」を調べる活動に入ることができました。グループでお互いの動きを観察し合ってシールを張っていきます。

 シールの色で,動きに着目させるのはとても有効でしたが,「よく動 く」というのと「きまった向き」とがグループのとらえによって違って いましたので,板書で確認していきました。例えばすねは「動かない」 というようにまとめたグループと,「力を入れると動くよ」というよう に主張する子供がいたりするなどです。ここは,「よく曲がる」「曲が らない」の方がよかったかもしれません。しかし,大体はまとめることができました。
 また,その中で筋肉の動きにも着目していっていました。
「ひじを曲げると,必ず肩も動くよ。」
「力を入れると固くなる」「足首を動かすと,ふくらはぎも動く。」
 こうしたことを動きの中で見つけていきました。
「先生の筋肉出してみて!」というリクエストに応えて,手や足の筋肉 の動きを見せると,爆笑が起こり楽しく学習が進みました。
 このときのカードには,それぞれが強く感じたところが表現されますが,「力を入れると色が変わる」や「ひじを曲げると力こぶが出る」など,自分の動きをよく見つめている様子が伺えました。

第5,6時

 ここでは,教科書の骨格と筋肉の図を見ました。子供たちの反応は,まず「気持ちわる〜い。」でした。が,「こういう骨や筋肉があって,みんなの体はうまく動くんだよね。」と言いますと,素直にうなずいていました。
「気持ち悪い」は,一見するとマイナスの反応とも取れますが,子供 たちの素直な反応であり,そこをまず受容しつつも事実に正対させるこ とが大事な支援だと思います。
 次いで,模型作りに入ります。はとめパンチで手足が動くようにして 作りましたが,できあがるとすぐに手足を動かして遊んだり,ハンカチ をかぶせて服に見立てるなどしていました。そんな遊びの中から「こんな動きできるはずないでしょ!」などと楽しんでいる声を拾い,私の方から「みんなじゃできない動きってどんな?」と投げかけますと,ひじが反対向きに曲がった形や,両足が首の上に上がっている形を作ってはまた笑っていました。本当に楽しそうです。そして,そこには自分たちの体の動きの特徴をしっかりとらえてい ることが見取れました。 

第7,8時
  この時間は,義手や義足を持ち込みました。(義手や義足及びビデオテープは,札幌の野坂義肢製作所からお借りしました。)
 子供たちに「この間,みんなで作った模型,よく動いたね。では,これを見て下さい。」と,まず義足を提示しました。袋から取り出そうとすると,もう子供たちからは「何だ,あれ!」「気味が悪い。」「ロボット?」などの反応がありました。R男が,「事故で足がなくなってしまった人 が着けるものかな?」と発言しましたので,「そうです。これを『義足』といいます。」と言って板書しました。そ して,義足を動かしてみせました。すると,「やっぱりひざがよく動く ね。」「でも,決まった向きにしか動かないよ。」などと,自分たちの 模型作りと結びつけていました。

 義足提示
 次に,義手を取り出します。子供たちは,強い興味をもって見ていましたが,鉄のパイプがむき出しになっているのを見て,やはり「うわぁ…」「気持ち悪い…」と先ほどより少し小さめな声で反応していました。ここで,義手の装着の仕方と仕組みを話しました。
その内,最初よりは子供たちの反応も落ち着いて来ていましたので,「今,『気持ち悪い』って言った人が多かったけれど,違うことを思った人はいませんか?」と問いかけました。すると,H子が「それで,体の不自由な人が歩いたりできるなら,いいなと思う。」と発言したのを皮切りに,「誰が作っているのか」「大きさは合うのか」「着けても痛 くないのか」「重くないのか」「固くないのか」など考え始めました。 こういう相手の立場にたって考えるやさしさや,追求の姿もキラリ光 る姿です。
 そこで,子供たちにも触れさせてみましたが,この段階ではもうあま り気持ち悪がることもなく,真剣に見ていました。

 そこで,「では,義足を着けている人の様子をビデオで見てみましょう。」と言い,ビデオを視聴しました。このビデオは,北海道松前高校の体育教師である荒木孝司氏のドキュメンタリー映像です。荒木氏は,2年ほど前に事故で右足を失いましたが,その後も体育の教師として第一線で活躍なさっているすばらしい方です。今回,義足や義手をお借りしようと野坂義肢製作所を訪れた際,幸運にも荒木氏と直接話をする機会に恵まれ,氏のことを子供たちに伝えることが,子供たちの心の成長のためにとてもよいこ とだと確信しました。荒木氏にもその旨を伝えると,全面的に賛同してくださり,このビデオの視聴となったわけです。
ビデオのくわしい内容は避けますが,子供たちの作文から察してくだ さい。

《子供たちの作文より》
・アラキ,だいじょうぶですか。テレビで見ました。さいしょ,ぎ足 を見た時,きもち悪いと思ってたけど,アラキのテレビを見ると気持ちがかわりました。テレビを見ているとなきそうになりました。いつまでもがんばってください。がんばれアラキ! (K・N)
・ぼくはビデオを見る前は,すごくかわいそうだったけど,あとから がんばっているんだなあ,と思った。前にも,右足の使えない人に会ったんだ。なーんだ。足ぐらい使えなくてもいいじゃん,と思っ た。でも今はちがう。いたそうだなあ。かわいそうだなあ。なおしてあげたいなあ,と思った。 (H・S)
・10月19日(土),アラキのビデオをみさせてもらいました。先生にぎ足とぎ手をならい,みさせてもらいました。気もちわるい気がしたけど,かわいそうな気もしました。そしてビデオを見ました。さいしょにアラキが走って,12秒5,と出た時,だれだろうと思いました。そして,ぎ足をつけていることがわかって,「ぎ足をつけているのに,12秒5で走れるなんてすごい。」と思った。
 理由やせつめいをビデオで見ました。そして私はぎ足になれてしまいました。これからも体育の先生がんばってください。水えい,スキー,走り,全部できることはすごいことだと思います。(R・B)
・私は,ぎ足を見て「どうやってつけているのかな。」と思いました。でもアラキのビデオを見て,走っているところや歩いているところや,サッカーをしているところなどを見ると,「本当に足があるんだなあ。」と思いました。それに「足がなくても,いろんなことができるんだ。」と思いました。「すごいな。」とも思いました。ぎ足をつけていなくても,なんとも思わなくて,ふつうの人に思うようになりました。 (M・S)

 これらの作文には,たくさんのキラリ輝くところがありますが,何と言っても「始めは気持ち悪いと思ったけれど,ビデオを見た後は普通に感じるようになった」という,子供たちの心の変化が素直に綴られていることでしょう。子供たちの身障者に対する見方を変えていきたいと考えていましたので,本当にうれしく読みました。

第9,10時キリンの目と猿の目の比較

  この時間から,感覚器の学習に入ります。「みんなの体,いろいろな動きができたけれど,例えばジャンケンをする時は手のほかにどこが働いているのかな?」 と言って,ジャンケンをしかけます。
 子供たちはすぐに応じながら,「目を使っている!」「耳も使ってい るよ!」と言ってきました。
 そこで,「みんなの目はどれぐらい見えるのかな?遠くまで見えるのは,健康診断でやったから,今日は見える広さを調べてみよう。」と呼びかけ 視野を調べるコーナーで,調べ方を説明しました。子供たちはすぐにや り方を知って,グループで協力して調べ始めました。まず両目,次いで眼球を動かさない時,片目と調べていきます。

 子供たちが大体調べ終わったところで,集合させ,おおまかに両目の時と片目の時の視野の違いを聞き,板書で確認しました。そして,まずキリンの顔の写真を提示し,「キリンだったらどんなふうに見えるか,考えられますか?」と問いかけました。R男が,「目が横についているから,ぼくたちよりも広く見えるんじゃないかなあ。」M子が,「キリンってあまり強くないでしょ。だから,放し飼いされていると,敵に襲われることが多いから,よく見えるように横についていると思う。」と答え,回りの子も賛成しました。そこで,次にチンパンジーの顔写真を提示し,「じゃあ,チンパンジーの目はどうだろう。」と発問しますと,T男が「木に登って逃げられるから,木登りしやすいように目が前についていると思う。」という発言をしました。そこで,両手を前に出して,両目と片目では遠近感が違うことを確かめました。
 さらに,動物の目の話の続きとして,フクロウは暗いところでもよく 目が見えることに触れ,「みんなはどうかな?」とフラッシュゲームに入りました。この辺りは,教師のリードが強い場面ですが,子供たちは喜んで活動していました。

 まず,明るい教室でフラッシュゲームをします。カードは,「目」「日」「見」「貝」「耳」の5種類を用意しました。ちょっとまぎらわしく,しかし一目で読み取れるからです。子供たちは,得意そうに大きな声で読んでいました。「よく読めるねえ。」と持ち上げておいて,教室を暗くします。しばらく時間をおいて,子供たちの瞳孔が開いたころを見計らって薄明かりの中で,フラッシュゲームを再開します。子供たちはまたも,得意そうに読みます。そこで,また明るくして瞳孔を開き,今度は消灯してすぐにフラッシュゲームを行いました。予定では,ここで「あれ,見えない!」という驚きが出るはずだったのですが,予想に反して子供たちはしっかりと読んでくれました。この日は天気が良く,暗幕からもれる光が事前の実験の時よりも強かったようです。そこで,予定を変更して「暗くなったとき,見え方はどうですか?」と発問しました。すると,M子が「はじめのうちはぼやけていて,だんだんはっきりと見えてきた。」と言い,それにつなげてE男とが「目が慣れたんじゃない?」と発言しました。そこで,「みんなの目も暗いところに慣れるかい?」と聞きますと,ほとんどの子が「うん。」と答えますので,今度はカードをフラッシュさせずにじっと持っておいて,窓際でカーテンを閉めました。すると,子供たちは「あっ,だんだんはっきり見 えてきた!」などと口々に反応していました。そこで,「この次は,この『慣れる』ということを調べてみよう。」としめくくりました。

第11時
 この時間は,まず明るい状態で,前時に使ったカードをもう一度読んでみます。次に,部屋を暗幕で暗くしておいて,読んでみて,やはりよく見えず,だんだん見えてくることを再度確認しました。                 
 そこで,子供たちにどうして「目が慣れる」のか,明るいところと暗いところで調べてみようと呼びかけ,自分で調べる活動に入りました。子供たちは,明るい所を求めて暗幕の下から外に目を向けたり,暗いところを求めてテーブルの下にもぐり込んだりしながら,手鏡で自分の目を観察し始めました。やがて,子供たちは自分の気づきを次々に報告し始めます。                            「目の中の黒いところが動いていた!」「明るいところにいくと,目が小さくなってまぶしい。」などなど,自分の目の働きに驚きを感じていました。教師は,子供たちのその驚きに満ちた発見を受け入れ,「カードに買いてご覧。」と促したり,「どこが動いているの?」などと問い返したりしました。すでに図鑑などで瞳孔のことを知っている子には,「何秒くらいで大きくなったの?」などと問い返し,事象とのふれあいを密にしようと試みました。
 子供たちが,一通り瞳孔の動きに気づいたころを見計らって,板書で瞳孔が動くことをまとめました。このとき,子供たちから「『瞳孔』と『ひとみ』は,どう違うの?」という質問が出ましたので,それについては養護教諭(TTで入っていました)が「同じですよ。」と答えました。         

第12時

 ここから,耳の学習に入ります。音楽室で実施しました。まず,子供たちを正面向きに座らせておいて,背後から鈴・タンバリン・ハンドベル・マラカス・カスタネットなどの楽器を鳴らして,何の音かを当てるゲームをしました。普段からよく耳にしている楽器の音のせいか,子供たち,よく当てます。そこで,「じゃあ,うんと離れてやってみるよ。」と言いますと,手を耳のところに持っていった子がいました。「どうして,そうするの?」と問いますと,「こうすると,よく聞こえるんだよ。」と答えました。他の子もまねをしだしましたので,背後から小さく音を出します。すると,手を当てていた子供たちから「あっ,本当によく聞こえる。」と,驚きの声が出ました。そこで,「動物の耳で,よく聞こえそうなのは,どんな耳かな?」と発問しますと,すぐにウサギ・ゾウと反応がありました。そこで,「みんなの耳は?」と聞きますと「少しは音が集まるようになっている。」とのこと。今度は,子供たちの前と後ろで楽器を鳴らしてみます。そうして,人間の耳の形も集音の役目があることに気づきました。ここで,養護教諭にバトンタッチしました。「もっと小さな音,例えば心臓の音を聞くにはどうしたらよいでしょう?」と問いかけますと,子供たちは「耳を付ければいい。」と答え,すぐにやってみました。
  「お医者さんは,聴診器を使うよ。」と発言した子もいましたので,保健室から聴診器を持ってきて,子供たちに提示しました。
  「こんな,小さな音でも聞こえる耳ってすばらしいね。ところが,この耳も病気になることがあるんですよ。」と,保健指導に入ります。 

 手話ニュース
 この活動は計画では第12時に実施する予定だったのですが,時間が足りなくなったため,翌日の朝の会の中で臨時に行いました。「昨日,耳の働きについて勉強したね。みんなの耳は,よく聞こえていいね。でもね,世の中には耳が不自由な人もいるんですよね。」 と投げかけますと,子供たちから「知ってる。手話っていうもので,話ができるんだよ。」と反応がありました。そこで,NHKの手話ニュースを録画したVTRを視聴しました。手話ニュースの女性アナウンサーが,顔の表情も豊かに,手を大きく動かしてニュースを伝えているのを見て,クスクスと笑った子がいました。そこで,「何がおかしいの?」と問いかけますと,「あの人,なんだかおかしい顔でしゃべっている。」と言います。そこで,「そう。おかしく見える?他の人もそうですか?」と切り返してやりました。すると,他の子からは「耳が聞こえない人のために,大きく動かしているんじゃないの?」「『星の金貨』っていうテレビで見たんだけど,口を動かしているのを見て,話していることがわかるんだって。だから,口もはっきりと動かしていると思う。」などと発言する子もいました。          
 そこで,「耳の聞こえない人にとっては,どのようにこのニュースが見えているのだろうね。」と言いながら,ボリュームをどんどん下げていきました。サイレントの状態で見る手話ニュースでは,アナウンサーの表情や動きが,コミュニケーションの大切な要素であることがよりはっきりとします。笑っていた子供たちも,ここでは真剣に見入っていました。
 この後,「ありがとう」と「ごめんなさい」の手話を子供たちに伝えて,「耳の不自由な人も,みんなと同じように心と心を通わせたいと願っているんだね。みんなも今覚えた『ありがとう』と『ごめんなさい』をいつか使えるといいね。でも,このアナウンサーの人みたいに,一生懸命に心を伝えようとすることが何より大切なことだよね。」としめくくりました。 

第13時
 この時間は,皮膚の働きを調べました。「みんなで,回りの様子を感じるいろいろなところを調べてきたけれど,いよいよ最後はみんなの手を調べよう。」と言って学習に入りました。
 まず,段ボール箱の側面をくりぬいたブラックボックスを提示し,「見なくても,中に何があるか当てられるかな?」と誘いますと,ほぼ全員の手が「ハーイ!」と元気に挙がりました。まず,一人の子に後ろを向いていてもらい,他の子には入れるものを見せて,当ててもらいましたが,当てる子はもちろん,回りで見ている子もとても楽しそうです。教師側では,5種類のものを用意したのですが,5人の子がやり終っても,他の子もやりたいと言いますので,教室内にあるもので,急きょ続きを行いました。その結果,教師が持ち込んだ「砂時計」や「ハンドモップ」などは,すべて正解。子供たちが探した「地球儀」「国語辞典」などもほとんど正解で,わずかに「作文用紙」や「スティック糊のふた」などが当たらなかったくらいでした。点字を読む

 そこで,ちょっと意地悪をしてボールペンをさわらせておいて,「何色かわかるかい?」と問いかけますと,「色はわからないよ。」とのこ とでした。そこで,「手でわかるものはどんなことだろう。」と問いますと,「固さ」「大きさ」「温かさ」「でこぼこ」などと発言がありました。そこで,「みんなは,どれぐらい『でこぼこ』がわかるかな?」と,点字のカレンダーを提示しました。(このカレンダーは,本校の校区にあるニッセン指圧鍼灸治療院の堀畑正人氏から寄贈していただきました。)  
 子供たちは,カレンダーを見るとすぐに,「なんだかでこぼこしている。」「これ,点字っていうんだよね。」などと反応していました。そこで,点字について簡単に説明し,「目をつぶって指の先でさわってご覧。でこぼこがはっきりわかるかな?」と投げかけました。子供たちは興味深そうにさわっていましたが,「よくわからないな。」「これでわかるなんて,目の見えない人はすごいな。」などとつぶやいていまし た。
 そこで,ここでも「目が見えない人も,みんなと同じように字を読んだり書いたりしたいと願っているんだね。そこで,こういう点字を読む練習をして,字を読めるようになっているんだよ。」と,障害をもった方も同じ心をもっていること,そしてがんばっていることを強調しました。

第14時
 いよいよ予定した単元の最終時になりました。 「みんなの体は,とてもすばらしい働きをもっていることがわかったね。体の不自由な人も,その不自由なところを,別のところで補って,がんばっていることもわかったね。ところで,年をとると,そのすばらしい働きも,だんだんと弱くなることがあります。みんなのおじいちゃんやおばあちゃんの中に体の働きが弱くなっている方はいませんか?」と投げかけますと,子供たちからは「うちのおばあちゃんは耳が遠くなって,電話ではあまり話せない。」「うちのおばあちゃんは,耳に機械(補聴器)を入れている。」「ぼくのおじいちゃん,階段から落ちて骨を折った。」「歯も弱くなって,全部入れ歯の人もいるんだよ。」などと,発表が続きました。そこで,加齢体験の装備(札幌市福祉センターから4セットお借りしました)を提示し,「これは,お年寄りになるとどんな感じで回りの様子を感じるのかが体験できるものです。今日はこれをみんなで付けて,学校を一周してみましょう。」と投げかけ,さっそくグループで協力して装着し,学校一周の体験をし始めました。子供たちは,おもしろがっていましたが,実際に動いてみると思っていたよりも動きづらかったようで,そこからお年寄りの気持ちになって考え始めた子供たちがたくさんいたことが,子供たちのつぶやきやカードから推察できました。

そして3学期〜盲導犬につながった盲導犬登場
 この単元は,一応「加齢体験」までの構想でした。しかし,R・Bという女の子が2学期の終業式も近いある日,朝のニュースで日記を読み上げ,次のように話したことから,この単元の続編につながったのです。こんな話でした。
 「昨日,地下鉄の中に盲導犬が乗ってきました。もちろん,日の見えない人が一緒でした。盲導犬は,飼い主に空いている席を教えると,その人の足の下にもぐってじっとしていました。飼い主は,どこも手探りせずにまるで目が見えるように座りました。2人はすぐに地下鉄から降りていきましたが,ちやんと階段の方へ迷わずに向かっていました。私はびっくりしました。盲導犬って,駅の中のことをよく覚えているなあ。どこで覚えたんだろう。」
 ここで,私の方から「盲導犬が階段を探しているのではないんだよ」などと教えるのは簡単なことですが,せっかくの子供の問題意識を大切にしたいと思いました。そこで,「盲導犬のこと,また義手や点字のように勉強してみようか?」と投げかけますと,子供たちは大いに乗り気になりました。さらに,冬休み中に盲導犬協会の仕事をくわしく知る機会に恵まれましたので,3学期,本格的に学習を進めてみようと思いました。そこで,さっそく北海道盲導犬協会と連絡を取り,どんなことが可能か探ってみました。また,3学期に入ると子供たちが本やパンフレットなどで調べ学習を始めました。(体のことを自由に調べたのと同じパターンです。)私も,盲導犬協会に出向き,ユーザーの方とお会いするなどして準備を進めました。
 そして,ついにユーザーの方とその盲導犬,それに盲導犬協会の方とデモンストレーション犬を教室に招き,お話を聞いたり,体験歩行をさせていただくことになりました。そして,この授業は参観日に実施することにしました。先に述べた通り,子供たちの自己中心的な見方や差別意識を共生的なものに転化させるには,おうちの方も巻き込んで実施することが有効だと思ったからです。
 さて,明日はいよいよ盲導犬が学校にやってくるという前の日,自己中心的な見方が濃く,友達とのトラブルが絶えないT・Nという男の子が,パンフレットで盲導犬の一生を調べていた時に,ぽっりと「盲導犬ってかわいそうだな。」とつぶやきました。私は「そうか。Tは,盲導犬がかわいそうだと思うか。他の人はどうだ?」と,そばにいた子供たち数人に聞いてみました。そこにいた子供たちの意見は,まっぷたつに割れました。
 教室に戻って,全員がいるところで聞いてみても,やはりまっぷたつでした。放っておいても話し合いが切れないほど関心が高まっていました。まだ見ぬ盲導犬に,子供たちは強く親しみをもち,だからこそ「かわいそうだ」「いや,幸せだ」と言い合うのです。上質の「問い」が生まれてきたと感じました。そこで,次の日,盲導犬協会の方や参観のお母さんたちにも聞いてみようと思いました。

 当日は,盲導犬協会の方のお話,ユーザーのお話,そしてデモンストレーションと体験歩行という盛りだくさんの内容でした。ユーザーの方が,「盲導犬に出会う前は,白い杖でぶつからないように歩くだけだったけれど,今はこの子と一緒に風を切って走ることができます。」と話してくれました。体験歩行では,アイマスクを付けると,思ったよりも歩けないこと,ハーネスからよく盲導犬の動きが伝わること,でもすごく怖いことなど,貴重な経験ができました。
 いよいよ最後に「盲導犬は,かわいそうかどうかという話で,教室は割れているのですが,どうお考えですか?」と,盲導犬協会の方やユーザーの方に聞いてみました。おうちの方にも聞いてみました。
 盲導犬協会の方〜「かわいそうかどうかは,犬に聞かなくては分からない。でも,人間だって思うようには生きられないものでは。犬は,仕事が大好きです。少なくても仕事をしているときに犬は幸せでしょう。」
 ユーザーの方〜「かわいそうと思うこともある。でも,かけがえのなさから言えば,こんなに大切に思われる存在は,そうないのでは。」
 顧問の先生〜「外につながれてほえまくっている犬や捨てられた野良犬に比べれば,問題にならないくらい幸せ。」
 おうちの方からは,「幸せかどうかは,自信をもって言えないけれど,尊い,すばらしい生き方だと思います。」と返ってきました。さらに,家に帰ってからも家族で話し合ってくれたところも多く,手応えのある活動でした。

 最後に,子供の作文とおうちの方からの手紙を紹介します。
・ぼくは,点字や手話,もうどう犬のことをはじめて知りました。はじめは体の不自由な人の気持ちがわからなかったけれど,今は少しわかります。そして,体が不自由なのにがんばっている人のことをすごいと思います。ぼくたちも負けてはいられません。(T男)
・今回の盲導犬の授業は,子供たちにも私たち父母にも一生忘れられない授業だったと思います。(中略)先生が最後に子供たちと父母に向けて質問された「盲導犬は幸せだと思いますか?」には,帰宅した父親も含めて,家族みんなで考えさせられました。答えは,その人の生き方によるのでしょう。簡単には答えられない問いだと思いました。本当に貴重な体験の場をありがとうございました。(Kの母)

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