生活科の学力とは何か

1 生活科で育てたい力

 生活科で育てたい力は「生活力」である。「生活力」は大きく2つに分けられる。
 

  生活力〜1 きる活力
        2 生活する能


 『生きる活力』とは,環境に働きかける精神的なエネルギーである。生活科はまずこのエネルギーを発揮させることを重視する。
 「ようしやってやる」という子供たちの熱い,またあるときは静かに燃えるエネルギーを十分に引き出したい。
 困難さやトラブルに出会ったときも,「何とかしてやるぞ」と乗り越えていくたくましさを育てたい。がんばって乗り越える過程も心のどこかでは楽しみながら,友達に感謝したり「なんだ,こうすればいいのか!」と気付いたりして,最後には,「自分もなかなかやれるもんだ。」という揺るぎない自信を持たせたい。活動を終えようとするとき,子供たちから「もっとやりたい」「またやろう」 などの声があがれば,その授業はほとんど成功であると言われるのも,この『活力』を引き出しているからである。
 『生活する能力』とは,生活をよりよくするための知識・技能などである。
 生活科では「ウサギはねずみと同じ種類だ」といった図鑑的な知識よりも「ウサギはオオバコよりタンポポの方がずっと好きだ」といった体験的な知識を多く身につけさせたい。図鑑的な知識は生活場面で働くことが少ないが,体験的なそれは生活場面に応用されていきやすいからだ。
 同じように企画力,状況判断力,状況適応力,調査能力,表現力なども生活をよりよくするためには,大事な力である。
 生活科で鍛えられた子供たちは,豊かな発想で自分たちの企画を進めていくことができる。水に浮く乗り物を作る活動では,まず校内放送で全校に「ペットボトルや牛乳パックがあったら,私たちの教室まで届けてください。」と呼びかけ,さらに校区の店を巡って材料を集めたりを,自分たちで進めてしまう。こんな姿に教師の方がびっくりさせられる場合も多い。
 子供本来の『活力』を引き出し,充実した活動の時間を過す過程で,『能力』が高まり,また新たな『活力』が湧いてくる。これが,生活科の学力形成の過程である。
 以下,この過程の中で何をどう評価しているかいくつかの例を述べる。

2 『活力』を見取る
@表情
 活動のイメージや条件について話し合う。教師の話に「ウンウン」と相づちを打つ子がいる。
 もうお尻が浮いている子もいる。離れたところの子と「一緒にやろうね」と目で合図しあっている子がいる。
 かと思うと,伏目がちにじっと下を見たままの子もいる。
 活動が始まる。集中しているとき,子供の視線は一点に集中している。弛緩しているときは,視線は流れる。考え込んでいるときは,子供の口元はきつく閉じられていることが多い。発言したいときは子供の口元はかすかに動く。興奮しているときは子供の鼻の穴やほっぺはふくらむ。このように,子供の表情から「期待観と不安感」「集中と弛緩」「興奮」などが読み取れる。

A動線,スピード
 目的を持っているときに子供の動きは直線的である。また,その動きには勢いがある。目的意識が希薄な子供の動線は,断続的な曲線になりがちである。スピードも緩慢なものになる。動線とそのスピードからは,目的意識が読み取れる。

B誰と一緒か
 その活動を誰としているか。その活動の姿は,依存的かリーダー的かあるいは単に近くにいるだけなのか。誰かとの考えの食い違いをどうしているか。どんな情報をやりとりしているか。こうしたことから,その子の自立度が見えてくる。

3 『能力』を見取る
@質問
 活動の内容を子供たちがそれぞれつくっていくのが生活科の特長である。子供が自分の活動の主役となり,責任者となるためには,動く前に活動の大体を把握してなくてはならない。そういう気構えと構想力のある子は,不明点をよく質問する。

A準備
 あさがおのタネを植える前に,子供たちの持ち物を見た。移植ごてを持ってきている子に混じって,砂場遊びのプラスチックのレーキのようなものを持ってきている子がいる。この子は土と砂の違いを意識していないようだ。このように準備したものやその姿は子供の認識を物語る。

B持続と変化
 活動の持続は,子供の内面で「願いや問い」が持続していることを意味する。また個々の子供の活動を追っていると,ひとまとまりの活動の中で自分で「休憩」を設定しているのに気づく。集中がとぎれ,他の子の活動に目をやったり,手を置いてため息をついたりする。このような「休憩」がどのような頻度で訪れるかを計ると,集中力の育ち具合が分かる。
 たとえば,製作活動では一年生の平均的な持続時間は五分くらいで,それを過ぎたあたりで休憩時間が一分弱ほど取られる。
 また,活動の方向や質がぐんと変化するのも,「休憩」の後であることが多い。

C言語化
 子供は活動しながらいろいろなことをつぶやいている。その子にとってあたり前のことは,あまりつぶやきに表れない。それよりも軽い当惑や興奮,新たな気づきなどがつぶやきに表現されることが多い。
 つぶやきには活動を意識化・明確化し,整理する作用がある。また,聞き手を意識しての発言には,この意識化・明確化・整理がより強く行われる。
 単元の中で,具体的な活動とそれを文章にして記録する活動をワンセットにすることの有効性もここにある。

D困難やトラブルへの対処
 これは『活力』と密接であるが,困難や友達とのトラブルへの対処は,その子の「問題解決能力」を物語る。
 ほとんどの子がニワトリをつかまえられるようになった後も,A子は怖がってつかまえようとはしなかった。ところがある日,ニワトリを見る彼女の立つ位置がいつもよりニワトリに近かった。さわりたがっているのである。そこで,彼女の前にニワトリを差出し「さあ,さわってごらん。」と投げかけた。他の子の応援もあり彼女は見事にニワトリを抱き上げた。このような体験により生活力が育つのである。

4 見取りを子供に返す

@教師の感動を伝える
 子供を育てる一番の主役は,その子の心の中のもう一人の自分である。満足感のある活動で,子供は自分に対する自信をいっそう深めていく。片付ける姿から,ある
 いは友達と肩を並べて教室に向かう姿からこの自己評価を読み取りたい。さらに教師の方から「今日は〜をがんばったね。」と感動をこめて声をかけてもやりたい。

A通知表
 生活科には記述式の通知表がふさわしい。「町探検では,事前の調査を生かして他の子をリードしていく姿が見られました。そして,この日を境に他の教科でも発言量が目立って増えてきました。自分への自信が強まったのでしょう。」などと,活動・変容・自己評価を保護者に知らせたい。

Bとっさの支援
 子供が花や鳥の名前を聞いてくる。名前を教えるのがよいか,名前を付けさせるのがよいか,図鑑で名前を調べさせるのがよいか。この判断は,とっさに行われる。判断の基準はそれまでの見取りと対象の特性によってである。その支援によって,その後の子供の気付きや活動は大きく変わっていく。
 「マツヨイグサ」という名前を教えられたことで,「夕方になったらここに来てみよう。」と夕闇の中に咲く花への期待感をふくらませ,自ら行動を起こそうとする子がいる。
 ビロードモウズイカに,ある子は「フワフワグサ」,別の子は「モウフグサ」と名前を付け合って,楽しみながらまた仲良くなっていく子もいる。
 図鑑の引き方を,野原で覚える子もいる。

 このように生活科においては,見取りと支援は一体化している。

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