ザルで水を汲む

2011年7月25日発行 学校便り「ひつじがおか」巻頭言

 駆け出しの頃、担任していた学級で靴かくしが続いたことがありました。
 若かった私は、毎日みけんにしわを寄せていました。
 ある日の夕方、一人の保護者(お母さん)が教室を訪れて、次のようにおっしゃいました。

「先生、悩んでいるでしょう? でも、『子育てはザルで水を汲むようなものだ』って聞いたことがあって、私はとても楽になったんですよ。子供という水は、大人がどんなに一生懸命に取り組んでも、水がザルの目を通り抜けるように逃げていく。でも、少なくとも水を汲みつづけているザルにはごみは溜まらない。私たち親は、先生が一生懸命にやっていること、よく分かっていますよ。それはいつか必ず子供たちに通じます。だから、あきらめないでがんばって。私たち親もザルですけれど、お互いザルを重ねていきましょうよ。」

 この日の帰り道、景色がぼやけて何度も車を停めたことを、今でも思い出します。

 私は、職員にもよくこの話をします。「一人でがんばっても、汲むことのできる子供の可能性はそう多くはない。だから、お互いの仕事に線を引いて口や手を出さないというのではなく、ザルを重ねるように口と手を出し合って、少しでもたくさんの子供の可能性を汲もう」と。
 先週行われた教育実践発表会も、学年チームがザルを重ね合い、子供の可能性を少しでも多く汲むことを目指して取り組んだものでした。発表会を終えて、さまざまな課題が見えてきました。これからも、保護者や地域の皆様と力を合わせてがんばっていきたいと思っております。また、特に今回の発表会に際しましてはPTAの皆様に強力なお力添えをいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 明日からの夏休み、ご家庭にお子さんをお返しします。
 地域の行事へも参加するなかで、家族のきずなや地域とのかかわりを深めてほしいと思います。
 もしかすると、家庭だけでは子供という水をなかなか汲めないと感じることもあるかもしれません。そんなときには、どうぞ遠慮なく学校にもご相談ください。子供たちは休みですが、私たちは勤務しておりますし、休み中も家庭や地域との重なりやつながりを大事にしたいと思っています。 

  校長実践のページへ           トップページへ