黄金の時間

2012年3月23日発行 学校便り「ひつじがおか」巻頭言

 私が教師になろうと決意したのは、次の詩に出合ったことがきっかけでした。

     鹿
          村野 四郎
鹿は森のはずれの夕日の中に
じっと立っていた
彼は知っていた
小さな額がねらわれているのを
けれども彼にどうすることができただろう
彼はすんなり立って村の方を見ていた
生きる時間が黄金のように光る
彼の棲家である
大きな森の入口を背景にして

まるで名画の前に立っているかのような鮮やかな感動。猟師の鉄砲の前に絶体絶命の危機にありながら、美しい鹿の姿。しかし、そうした絵画的な美しさよりも、私は「生きる時間が黄金のように光る」という言葉に強烈に引きつけられました。
 ちょうど教育実習が終わったころでした。自分にとって、黄金の時間は、子供たちと共にある時間なのだと思えました。子供たちと時間を共にし、その時間を輝かせることこそが、かけがえのないことであると思い、私は教師になったのです。

 その時から、30年以上の歳月が流れました。ご縁があって、羊丘小学校に3年お世話になりました。この3年間、私はたくさんの黄金の時間に包まれました。
 登校途中の交差点で、子供たちが地域の方に落ち着いて挨拶する姿を見ると、朝の景色がパッと明るくなりました。暗い顔をしていた子が友達と交わしている笑顔を見て、急いで校長室に戻り一人でガッツポーズをしたこともありました。教室を回っているときに、そっと自分の考えを書いたノートを見せてくれた子には、思わず頭をなでてしまいました。

 本当に幸せな時間を与えてくださった子供たちに、保護者の皆様に、地域の皆様に、そして職員に感謝します。心から、ありがとうございました。
 4月からは、新たな校長の下、新たな体制での教育が始まります。これからも、羊丘小学校をどうぞよろしくお願いいたします。 

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