「気付きと知的な気付きはどうちがうのですか?」

T先生からの第1信

拝啓
突然のメールすみません。
私は、島根県で勤務していますTといいます。生活科のホームページを見て感心しメールをいたしました。
本校では、生活科の研究を行っていますがいくつもの悩みがあります。ヨコさんの実践からいくつかの悩みが解消されました。助かりました。しかし、まだわからないことがあり、校内で協議いたしていますが解決できません。参考意見をぜひお聞かせ下さい。

「気付き」と「知的な気付き」の違いです。
生活科の学習の中で、児童はいくつもの気付きをします。それが、次の学習に役立つと思います。例えば、先日、近くで芹をつみました。「芹は水のあるところにあるんだ」と言いました。この気付きは、次に児童が芹をつむのに役立ちます。水場を探せばいいからです。だから、この気付きは知的な気付きと言えます。だから、気付きは、知的な気付きと違いは無いと思います。もし、両者に違いがあるのなら、教えて下さい。
また、児童が大切に育てていただんご虫がしんでしまいました。そこで教師は次の飼育のためと「次に飼うときはどうする。」と問いかけ、飼うために必要な条件を誘導してしまいました。しかし、問いかけないと知的な気付きは児童から、出ないと思います。困っています。知的な気付きを生じさせるてだてなどあるものでしょうか。意見をお聞かせ下さい。
生活科についての勉強不足を露呈していまして恥ずかしいですが、本校の研究へのご助言を頂きたくメールいたしました。ご迷惑をおかけします。なにとぞよろしくお願いいたします。

返信
Tさん,メールをありがとうございました。札幌の横藤(ヨコさん)です。

> 生活科のホームページを見て感心しメールをいたしました。
> 本校では、生活科の研究を行っていますが いくつもの悩みがあります。
> ヨコさんの実践からいくつかの悩みが解消されました。助かりました。

生活科は,従来教科とは違う枠組みの教科ですから,実践する上で,悩みも多いと思います。まず生活科の趣旨を理解することが第一に求められる教科だと,要領にも書かれていますね。私も,生活科の趣旨をまだまだ勉強しなくてはならないと思っています。そんな私の拙文が,いくらかでもお役に立ったのであれば,うれしいです。今後も,私でよければ何なりとご相談ください。喜んで,一緒に考えさせていただきますので。

> しかし、まだわからないことがあり、 校内で協議いたしていますが解決できません。
> 参考意見をぜひお聞かせ下さい。 「気付き」と「知的な気付き」の違いです。
(中略)
> もし、両者に違いがあるのなら、教えて下さい。

具体的な例で,M小学校さんが悩んでいる点がよく分かりました。結論から申しますと,私は「知的でない気付きはない」と考えています。では,なぜことさらに「知的な」を付けたのか。それは,おそらく「気付き」をより子供の生き生きとした活動の所産として,より豊かなものにしましょうということを強調するためだと思います。
そして,より豊かなものにする鍵は「言語活動」にあると私は考えています。

例えば,子供たちが,活動に「没頭」している場面では,内面に様々な気付きが生じています。「あっ,そうか。」「やっぱり!」「よし,じゃあ…」こんなことをつぶやきながら子供たちは活動に没頭しています。これは,「知的」な姿です。
しかし,こうしたつぶやきは,時間が経つと忘れられやすいものでもあります。それは,つぶやきは無意識的な言語活動だからです。ところが,これが,意識的な言語活動(みんなの前で発表し,拍手をもらうとか,作文や紙芝居等に書くなど)を通しますと,時間が経っても子供たちはかなり記憶に留めています。これは,言語のもつ「思考の自己認識作用・整理構造化作用・定着作用」が,意識的な言語活動では強くなるからだと思われます。(これらの作用は,実は私の造語です。専門家が見たら,吹き出すかもしれません。でも,言葉は変でも作用としては,確かにあると考えています。)

言語活動を通すと「気付き」はより確かで,レベルが高いものになります。無意識的,一時的,散発的,個人的な「気付き」に留まらず,意識的,時系列的,構造的,共有的なニュアンスの強い「気付き」に高めたいという意志が「知的な気付き」という言葉に込められていると,私は捉えています。

>しかし、問いかけないと 知的な気付きは児童から、出ないと思います。
> 困っています。知的な気付きを生じさせるてだてなどあるものでしょうか。意見をお聞かせ下さい。

これは,実践的な方法論の問題ですね。
生活科では,3つのHを十分に働かせるように活動を仕組みます。まずHeart(心情面)から入ります。悲しみ,がっかりしている子供たちの気持ちをくみ取ることです。「死んじゃったねえ…」と,教師もがっかりし,子供たちと一緒にため息をつくような時間が,長い目で見れば,子供たちには貴重な時間になることでしょう。小さな子供の活動は,素直な心情から始まるものですから,まずHeartを大切に,時間をかけたいと思います。

次に,Hand(具体的な活動)をどうするか,話し合います。「ねえ,このだんご虫さん達,どうしてあげたらいいのかな?」と問えば,「お墓を作ってあげよう」「お花も飾ってあげよう」「もと棲んでいた場所に埋めてあげよう」などと,子供らしいアイディアが出てくることと思います。そして,実際にお墓を作る活動に入るのです。ここで,「お手紙も書いてあげよう」などと,書く言語活動のアイディアが出れば,みんなで書くことも意義深いでしょうね。

次に,お墓を作ったことの作文,あるいはだんご虫へのお手紙,おうちの人に知らせる日記などという形で,自分たちの心情やその後取った具体的な活動を,言語活動によってより意識化,構造化させていきます。

そして3つ目のH=Head(認識)へは,これまでの子供たちの話し合いや書いたものを題材に迫っていきます。心情を掘り起こされ,自分たちが考え,納得した具体的な活動を経験した子供たちは,必ずいろいろなことを表現してきます。「また,飼いたい」「先生,今度こそ長生きさせようよ」と言い出すかもしれません。「もっとよくだんご虫のことを調べればよかった」「霧吹きが足りなかったのかな」と,書くかもしれません。
こうした声を教師は,子供たちに紹介し,位置づけていくことが大切だと思います。(私の実践では,ザリガニへの思いや気付きをウェビングの手法で位置づけたのを,HPにアップしてあります。ご参考になれば。「生活科・総合のページ」から「ウェビング法による生活科の交流学習」へとお入りください。)

> 生活科についての勉強不足を露呈していまして恥ずかしいですが、本校の研究へのご助言を頂きたくメールいたしました。ご迷惑をおかけします。なにとぞよろしくお願いいたします。

いえいえ,とんでもない。生活科,そして子供たちへの真摯な取り組みに敬意を表します。いくらかでも,参考になりましたでしょうか?またご不明な点があれば,どうぞ!


T先生からの第2信

M小学校のTです。さっそくに回答をいただきました。わからなくて、もやもやしていた気分が晴れてすっきりしました。本当にありがとうございました。「共に育つ」のホームページも見ました。実践例や教案が豊富に載っていて、これからの実践の参考にさせていただきます。本校では環境で「共に生きる」をテーマに生活科を中心に研究を進めています。共に生きるには、(知的な)気付きが必要だから、気付きに焦点を当てています。気付きが意識され、整理され、共有されたものを知的な気付きと考え、知的にまで高める手だてが、言語活動を含む表現活動であると考えて研究を進めます。
3つのHのこと、なるほどと思います。さっそく実践します。

もう少しお聞きしたい点が1つあります。
授業中に夢中で取り組み、いろいろな気付きをする児童が、活動の後や後日、何かの方法で書かせると、気付きとは別のことを書くことです。そんなときは、気付きを引き出すようにすべきなのでしょうか。また、書かせる方法で、何かいい方法があればお聞かせ願えませんでしょうか。

実は、今年の秋に研究発表会が迫っています。授業研究をするたびに、このようにいろいろな課題が生じています。
先生にはご迷惑をおかけいたしますが、今後もいろいろと教えていただければ喜びます。

返信

鳥谷様,
舌足らずな文章から私の意図をくみ取っていただき,ありがとうございました。

> もう少しお聞きしたい点が1つあります。
> 授業中に夢中で取り組み、いろいろな気付きをする児童が、活動の後や後日、何かの方法で書かせると、気付きとは別のことを書くことです。
> そんなときは、気付きを引き出すようにすべきなのでしょうか。
> また、書かせる方法で、何かいい方法があればお聞かせ願えませ
んでしょうか。

はい,「引き出すべき」だと考えています。
子供は,よく書く段になるとつぶやきとは違うことを書きます。これは,話し言葉と書き言葉が別のレベルの思考を要求しているからだと思われます。書き言葉の持つ論理構造に,活動の中での直感をうまくあてはめて表現していけないのでしょう。
また,時間が経過することで,その時の気付きが風化し,一般的な言葉に置き換えてしまわれやすくなるということもあるでしょう。

そこで,話し言葉の中から,教師がぜひ書きとめておいてほしい言葉があった場合は,積極的に「〜君,さっき活動しているときに〜って言ったよね。覚えてる?あの言葉は,すばらしいなあ。書いておいてよ。」などと,言ってよいと考えています。こういうことは,何も悪いことでなく,むしろ話し言葉と書き言葉を融合させる教師の支援の一つだと考えて良いでしょう。また,どんなことを書くのがよいことなのか,具体的に示す一つの指導場面でもあります。


T先生からの第3信

横藤 雅人先生
丁寧に質問に答えていただきました。書き留めることの大切さがよくわかりました。お陰様で、研究に少し自信がもてました。
本当にありがとうございました。6月に授業研究で、研究を深める予定です。また、お知らせいたします。
なお、教育専門検索サイトを利用させていただきます。ありがとうございました。

返信

鳥谷先生,
私の考えが,いくらかでも貴校の研究のお役に立てば,とてもうれしいことです。
6月の授業研究,どうぞ実り多いものになりますよう,お祈りしております。

授業研究は,私も,5月に自分のが1本。総合で。あと,授業づくりにかかわって指導案などをつくるのが校外も入れて4本(生活科2本,総合2本)抱えています。現在,同時進行で5本の指導案づくりをしています。学級通信も毎日発行していますし,けっこう忙しくて疲れますが,それでも楽しくて仕方ありません。それは,研究すればするほど,子供たちや先生達の笑顔が増え,書けば書くほど人の役に立ち,自分の心の財産が殖えるからです。

お互い,子供たちの目が輝く時間づくり,楽しくがんばりましょう!
これからも,私でよければいつでもどうぞ。

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