ミニネタシリーズ 55
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|☆| 争点をずらす【生活指導?】
             /横藤雅人@日本教育ミニネタ研究会
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冬のある日,1年生のジン(仮名)が,遅れて自家用車で学校にやっ
てきました。とても荒れています。お母さんが力ずくで自動車から
降ろし,玄関の戸から入れようとしますが,大声で泣きわめき,両
手で戸にしがみついてがんばっています。他の先生が,あれこれや
さしい声をかけてもまったく受け付けません。「いやだ!家に帰る!
」の一点張りです。

そこに通りかかった私は,次のように声をかけました。
「ジンくん,家に帰りたいのか。じゃあ,先生と一緒に帰ろうか。
コートを取ってくるから少し待っていてくれる?」この声で,ジン
の暴れ方が急におとなしくなりました。

私は急いでコートを取ってくると,彼と並んで歩き始めました。お
母さんには後ろについてもらいました。彼の家に向かって歩きなが
ら,のんびりと話をしました。
「あの店に,入ったことある?」
「あ,あの木大きいねえ。もう葉っぱはないけれど,秋には葉っぱ
が真っ赤だったよね。」こんな話をのんびりとしながら歩いている
と,彼の身体からだんだんと力が抜けていくのが分かりました。
聞くと,ジンは朝ご飯を食べてから少しおなかが痛くなったような
のでした。そこを働きに出なくてはいけないお母さんが無理に車に
乗せて連れてきたようなのです。そこで,あの大暴れになってしまっ
たようなのです。
家の前に着くと,彼は「上がって遊ぼう」と言います。しかし,こ
こで家の中に入ってしまっては解決が長引くと思いました。
そこで,さらに彼の家の先にある老人ホームの話題を出し,「そっ
ちに行ってみないか」と誘いました。彼は誘いに乗りました。ここ
でお母さんと離れました。
そこからは,彼と二人でまたのんびりと。
途中で少し雪玉をつくって野原に投げっこしたりしているうちに,
彼の表情が生き生きとしてきました。
老人ホームの前で立ち止まり,「おじいちゃんやおばあちゃんもが
んばっているんだよね。」などと話し,回り道をして学校へ。
今度はとても自然に玄関をくぐりました。

子供が怒りに興奮している場合,そこに直接働きかけることは,あ
まりいい結果をもたらさないように思います。力と力のぶつかり合
いは,双方を傷つけます。かといって手をこまねいていたり,譲歩
したりするのでは,結果として子供に「力で押し通せばいいのだ」
ということを教えてしまいます。
時には,このように大人の方がちょっと争点をずらしてやることで,
双方の力が抜け,互いの理解が進むこともあるのです。

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