野口論文「伝え合う力」を語るvol.8ー2000年11月
「紙の活字と画面の活字」 |
北海道教育大学函館校教授 野口 芳宏 |
1.「伝え合い」の難しさ 「伝える」のは一方的な行為である。「伝えました」という言い方には「伝える側の私の仕事は終わりましたよ」というニュアンスがつきまとう。その結果についてまでは責任が持てませんがという感じさえする。 雑誌や単行本の原稿執筆はどうしても「伝える」ことに終わりがちだ。そのことについての反応があることは中々期待できない。初めて論文を雑誌に書いたり,単著を出したりすると自分でも少し興奮してかなりの反響があるのではないかと考えたりしがちだが,まもなくその期待は裏切られる。 そういう無反応に慣れてくると,その評価者は他ならぬ自分であることに気づく。自分自身が厳しい目で自分の論考を見つめ,自省し,まあまあというところか,と区切りをつける。この時に「もう一人の自分」を厳しくしつけておかないと,いつの間にか原稿の依頼は来なくなり,単行本の売れ行きも捗らなくなる。慢心は最大の敵である。 一方的な「伝え」になりがちな活字の発信には「もう一人の自分」との冷静にして厳しい「伝え合い」が不可欠である。自戒をこめていつもそう思う。 2.「教室ドットコム」への反響 専ら横藤先生にお手数をおかけしてなんとか息をつないでいる私の唯一のインターネット論文「教室ドットコム」は,活字論文とはかなりの異なった事態を生んでびっくりしている。 ここに載せた論考には必ずと言っていいほどの「反応」がある。「反響」と言うべきかもしれない。感想であったり,「国語人」の申し込みであったり,意見であったりと多様である。横藤先生は,そのいちいちを必ず私にファックスで送信して下さる。それは私にとってずいぶん楽しみなことである。活字の論文は「伝え合い」になりにくいのにインターネットの世界では「伝え合い」がかなり成立するということである。双方向性による交信,つまり「伝え合い」が成立する新しい情報メディアが生まれたということになる。 3.紙活字に代わる画面活字 若者や子どもの「活字離れ」「本離れ」が進行する中で,パソコンの売り上げやインターネットの利用者数は激増している。ということは「紙の活字」からは離れているが,「画面の活字」はぐんぐん人々を引きつけているということになる。 大切なことは「活字を読む」という一点であり,その活字の舞台が「紙か画面か」ということは問題ではない。夥しい画面活字情報が紙活字に代わって読まれているとしたら,「活字離れ」はさほど心配にはならないことなのかもしれない。この考え方と言える妥当なのだろうか。 少なくとも,双方向的に「伝え合う」ためには,従来の「紙活字」よりも,「画面活字」の方がどうもすぐれているようにも思われて,私の中に新しい動揺が兆している。 |
感想・ご意見のコーナー
■ 横山験也 (kyositu.com代表)
いつも,kyositu.comへ御論文をお送りくださり,ありがとうございます。今回は,目頭を熱くしながら読ませていただきました。
kyositu.comが野口先生のご活動のお役にたてていることを実感できたからです。
また,本や雑誌の原稿の「もう一人の自分」を厳しくしつけること,強い反省をさせられました。原稿依頼が来たことが自分の実力と過信し,努力を怠りやすくなることがあります。ひどいときは,どうだと言わんばかりにうぬぼれてしまうこともあります。
昔の自分がそうでした。
今は,かなり自戒をしつつ,日々を送っておりますが,いつ,うぬぼれるか分かりません。
そうならないためにも,先生のお言葉を大切に心に残していきたいと思いました。
これからも,どうぞよろしくお願いいたします。
■ 山根 徹 (島根県大田市立久手小学校)
はじめまして。島根県で小学校の教員をしております山根徹といいます。
教員生活21年目です。そのうち普通学級担任が11年です。後の10年のうち6年間が特殊学級担任,現在4年続けて専科をしております。その関係で,ここ10年間は教科での国語の授業をほとんどしておりません。
ですが,普通学級担任をしていた12年前頃から,ずっと先生の”ファン”でした。先生の著書で,今本立てにある本をざっと見ますと,「国語教室の活性化 小学校編」「授業で鍛える」「続・授業で鍛える」「学級づくりで鍛える」「子どもが動く授業の技術20+α」「作文で鍛える(上)(下)」「話し言葉で鍛える」「言葉で子供がこんなに変わる」「優しく鍛える 自立をめざす子育て」「子育て・こだわると面白い」があります。
今年になって,kyositu.comのご縁から,野口先生の論文を読ませていただく機会を得て,毎回とても楽しみにしております。今回の論文の,インターネットを活用した双方向的の「伝え合い」の大きな可能性を,このメールを書きながら実感しております。これからも,よろしくお願いいたします。
■ 塚田直樹 (群馬県太田市沢野小学校)
野口先生の原稿,毎月楽しみにしております。月1回の配信が待ち切れません。
さて,野口先生は言われています。
> ・・・唯一のインターネット論文「教室ドットコム」は,活字論文とはかなりの異なった事態を生んでびっくりしている。
> ここに載せた論考には必ずと言っていいほどの「反応」がある。
「反響」と言うべきかもしれない。感想であったり,「国語人」の申し込みであったり,意見であったりと多様である。
> ・・・活字の論文は「伝え合い」になりにくいのにインターネットの世界では「伝え合い」がかなり成立するということである。双方向性による交信,つまり「伝え合い」が成立する新しい情報メディアが生まれたということになる。
正に,野口先生が言われている通りではないでしょうか。インターネットの世界の良さは,この「伝え合い」の成立にあると感じています。野口先生が書かれた原稿に感想を送ろうとすると,今までは,筆・便せん・封筒・切手等を用意し,時候のあいさつなどを考えてから文章を綴らなくてはならなかったのですが,その手間が要らなくなりました。
すぐに,感想や意見を送ることが可能になったのです。
速達郵便と比較にならないほどのスピードで,多量の情報をやりとりすることが可能となりました。
素晴らしい情報技術の革命です。
> 少なくとも,双方向的に「伝え合う」ためには,従来の「紙活字」よりも,「画面活字」の方がどうもすぐれているようにも思われて,私の中に新しい動揺が兆している。
野口先生に,「動揺」と言わしめた「画面活字」の「教室ドットコム」の活動に,編集部員として更に邁進して参りたいと思います。野口先生,強力な応援メールに対し,お礼申し上げます。
(^0^)/~~
■ 嶋田雄一 (宮崎県)
宮崎県の嶋田と申します。
夏の「鍛える国語教室宮崎」ではお世話になりました。このようなページがあることに、びっくりし、とても喜んでいます。
画面でも紙でも活字に変わりはない、というお話、興味深く読ませていただきました。
私たちのサークルではメーリングリストで自分たちの意見をメールで全員に発信できるというものをやっています。
それに対して、鈴木先生から「そのような情報は価値の低いものが多い。そんな情報に付き合うひまがあったら、本を読みたい。」との意見が出ています。現在の所、メーリングリストは下火です。
本を出すということは、力のある方がかかれているのだから有益な情報が多いと思うのですが、修行という意味で、メールで自分の意見を発信し、それを見てもらうこともまた有益じゃないかと思うのです。
先生の御論文をこれからも楽しみにしております。
国語人申し込みします。
■ 香月 卓也 (佐賀県)
佐賀県の小学校に勤務しています。10年前に養護学校から小学校に転勤したとき野口先生の本を読み、先生に不躾ながらハガキを出したところ、即座に返事をいただいて以来、先生の実践の万分の1もできればと本を読ませていただいております。
メール通信で先生の講演や指導されたことなどが見ることができるのを毎回楽しみにしております。
全集を購入した折りに頂いた、「虚往実帰」という言葉を座右の銘として微力ながら勉強を続けているところです。
「手遅れの四十代」ですが、まずは自分自身との「向上的変容」を目指していきたいと思います。
よろしくお願いします。
■ 深澤 久 (「道徳教育改革集団」代表)
新生マルドウ=「道徳教育改革集団」代表の深澤です。
野口先生が、「紙文化」よりも「画面文化」の方が優れているように思われて、と書かれたとは、凄いことです。さすが、未来志向というか・向上的変容というか、キチッと「時代」を見ていらっしゃる点に感銘いたしました。
「リアルタイム」の玉稿をお寄せ下さる野口先生には、教育者としての凄み≠感じますかつて私は「魂の伝道師」と野口先生のことを呼ばせていただきました。その通りです。勇気付けられます。「もっと勉強せい」と硬派の指導≠感じます。
これからも「教育者としての魂」を私たちに発信し続けてください。もちろん、先生の力量に近づくべく、私も精進していく決意です。
■ 横藤 雅人 (札幌市立北野平小学校)
多くのご著書を出版されておられる野口先生から「大切なことは『活字を読む』という一点であり,その活字の舞台が『紙か画面か』ということは問題ではない。」と力強いご指摘をいただきました。物事の本質,時代の流れを透徹した視点で見つめられる先生ならではのご指摘と大変うれしく受け取らせていただきました。
このコーナーを通じて,野口先生のすばらしい論考とお人柄を少しでも広めることができればと思い,取り組んでまいりました。「インターネットで野口先生のことを知り,本も読むようになりました。」という声も聞いております。今後も「紙活字」「画面活字」両方で野口先生の魅力を知っていただければ,と思います。『国語人』のお申し込みもお待ちしています。