身辺想片抄(1)   優先順位

      

野口芳宏    
 1 恥ずかしい限りです
 とうに〆切をすぎているというのに中々仕事が手につかない。遅れに遅れてようやく手をつける。大幅に遅れて多大のご迷惑をかける結果になってしまう。遅れてもとにかくその任を果たせればよいのだが、時にはとうとう約束が果たせないままにとんだ迷惑をかけてしまうということもある。信用は一遍に失墜してしまう。当然のことだ。
 わかっているのにそれを繰り返してしまう。繰り返し続けている。面目なく、自分の不甲斐なさを恥じるばかりだ。
 横山先生から「身辺雑記でもいいから毎月何かを書くように」と下命されながら、右のような体たらくでとうとう一年が過ぎようとしている。何とも何とも申し訳がない。という訳でようやく書くことに心を決めた。

 2 つまりは優先順位の問題
 書けなかったのは「時間がない」からだと、ついそれを言い訳にしたくなるのだが、本当はそうではない。「時間がない」なんてことはないのである。時間は厳然として存在している。誰にでも平等に二十四時間が保障されている。こればかりは完全に平等だ。
 問題はその使い方にある。とりわけ「優先順位」が大きく結果を左右する。当面の約束事をその第一位にすればよいのだが、ついつい目先の些事に目を奪われてそれを優先してしまう。次もまたその伝を繰り返していく。かくていつまで経っても第一にすべき事が後送りにされてしまうという訳だ。
 私の場合も結局はそうなのである。つまり、私の中では私によるそれなりの優先順位がつけられているということなのだ。二十四時間がみんなしっかり詰まっていて空白がない。ということは、何らかの行動を常に選択しては実行しているということである。何をこそ第一優先にすべきかと問うことは、実は大変に大きな問題なのだ。

 3 自戒を込めて思うこと
 徒然草の一八八段に面白い話が出ている。ある人が子どもを法師にしようと考えた。子どももそれを了としてまずは「馬に乗り習ひけり」とある。偉くなって導師として馬で迎えられた時に、馬に乗れないのでは情けないと考えたからである。次に、宴会に招かれた時に歌の一つもできなくてはこれも恥ずかしいことと考えて「早歌といふことを習ひけり」とある。この二つを習って段々深みにはまっていく内にとうとう「説経習ふべき隙(いとま)なくて、年よりにけり」ということになる。
 兼好はこれに続けて「この法師のみにあらず、世間の人、なべてこの事あり」と述べている。また「まずさしあたりたる目の前のことにのみまぎれて月日を送れば、ことごとなす事なくして身は老いぬ」と述懐している。全くその通りである。
 所詮人生有限である。何を優先してやっていくかという覚悟がすべてを決めそうに思われる。些事を捨てて、努めて大事に就くようにと思う昨今である。

感想のご紹介

■横藤雅人(札幌市立北野平小学校)

 ついに,野口先生の連載第2弾が開始されました。多くの方にお読みいただけると思うと,とてもうれしいです。

 さて,今回の「優先順位」です。私も言ってしまってから「しまった」と思うことが多いのですが,「時間がない」「忙しい」というのが口癖になってしまっています。睡眠時間も不足しがちです。しかし,一方で「これは時間の無駄だったな」と思われるような仕事をたくさんやってもいます。

 しかし,自分の要領の悪さに舌打ちしながらも,どう改善すれば良いのかは,あまり真剣に考えませんでした。今回の野口先生の「何を優先してやっていくかという覚悟」ということばに,ハッとさせられました。そうなんです。要するに覚悟がしっかりしていないというところが問題なのですよね。

 新たな視野が開けてきました。ありがとうございました。


■山下 文廣

 福岡県の山下と申します。
 「野口先生情報」を届けていただき、ありがとうございました。野口先生の「身辺想片抄」(何て読むのか…)楽しく拝見させていただきました。
 徒然草が(しかも一八八段が)引用として出てくるあたり、さすが野口先生と感じました。次回も楽しみです。
 その他、情報てんこ盛り、どれも魅力的な情報です。「新年度がんばろう会」は特にすごいですね。
 これからもメールが届くのを楽しみにしております。
 ありがとうございました。    !(^^)! 

◆「新年度がんばろう会」はとても魅力的です。お時間があれば,是非出席してみて下さい。野口先生とお酒を飲みながら,教育について語る。実践を斬って頂く。贅沢の極みです。(中嶋局長より)


■平藤 幸男

 野口先生情報、ありがとうございました。
 今回の「徒然草」の話、とても印象的でした。
 そういえば、「海外旅行で鍛える」の中にも徒然草が出てきました。
 人生の対局を考えなら優先順位を決めていく。とても大切なことを学びました。
 徒然草をもう一度読んでみようと思います。
 4月からの連載(?)がとても楽しみです。
 これからもよろしくお願いします。


■山中 伸之

 栃木の山中伸之です。
 野口先生の最新の御論考、拝読させていただきました。
 野口先生にして、時間の使い方になお反省すべき点がおありだということを知り、私などもっともっと自分を戒めて臨まねば、気がついたら定年退職ということにもなりかねない、と尻に火のついた思いでおります。
 今後の御論考が楽しみです。             
                            
◆野口先生の御論文への反響がすごいです。事務局もとても勉強になりました。
 次回の論文をお楽しみに。(中嶋局長より)


■玉置 崇(小牧市立小牧中学校)

 はじめまして。愛知県小牧市立小牧中学校教頭の玉置崇と申します。
 このたび、教員150名ほどの有志の会が立ち上げり、「授業力アップセミナー」を開催することになりました。年間8回ほどの会合を考えていますが、その会合のいずれかの日に野口先生に講演をいただきたいと考えました。
 そこで、野口先生へ直接お願いをしたいと思い、インターネットで探していたところ、中嶋様のお名前を知ることとなったのです。

 「野口先生情報提供事務局」が協力させて頂きます。ご一報下さい。の文面を見て、さっそく中嶋様にご連絡をした次第です。野口先生への連絡方法について、お教えいただければ幸いです。
 よろしくお願いします。

◆ありがとうございます。野口先生の情報事務局としては,このように,「頼り」にして頂けたことが光栄です。会員の皆さんも,野口先生をお呼びしての講座を企画される場合には,どんどん事務局を使って下さい。調子にのって仕事をさせて頂きます。
 野口芳宏先生に関する講座の紹介も,会員の皆様への有益な情報として,配信させて頂きます。事務局へ情報をお願い致します。→ nikuo@kcn.ne.jp

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