主題の探し方 《後編》
3.主題を探す方法

(1) 主人公は誰か,を読みとる。
  稀に主人公を特定できない場合もあり,二人が主人公という場合もある。あるいは村人たちというような複数が主人公ということもある。しかし,いずれにせよその物語の中で中心的に活躍し,主要な役割を担っているのが主人公である。

(2) 主人公は何を考え,何を求めているか
  主人公は,希望,願い,信念,意思を持って作品に登場する。そして,様々な事件や場面で,その自分の思いを遂げようとする。そのめに言葉を発したり,行動したりする。
 その過程で,主人公自身が大きく変化を遂げていくこともある。いずれにせよ作者は「主題」を「主人公」の「言動」に託して読者に訴えていくことに間違いはない。
  主人公の言動に注意を払うことが「主題」を探るポイントである。

・なぜこんなことをしたか。
  ・なぜ,ここでこんなことを言うのか。
  ・なぜ,主人公はこういう行動をとったか。

 というようなことを考えれば「主題」を探ることができる。つまり,それは,

 (3) 主人公の言動の理由,根拠を考えるということである。

 (4) 「主題」を「文」に表す。
  頭の中でもやもやと考えていただけではいけない。「考え」は「文」や「言葉」という「形」に表して初めて「思想」となる。形を持ってこそ,検討や吟味の「対象」となる。「主題」はずばりと一言で言い表してみることが大切だ。
  例えば,「ごんぎつね」の「主題」は,「ごんが兵十に傾け続けた一途な愛」ということになる。

 (5) 「主題」は「点」ではなく「面」だ
  主題を文として書かせた場合にぴたりと複数読者の表現が一致することは考えられない。「主題」は「点」ではないからだ。「主題」は「面」である。ただし,その面は狭いほどいい。Aは的確な主題把握であるが,Bはやや曖昧だし,Cになると雑物が入りすぎて「核」がぼやけてくる。ずばりと中核をとらえた「主題」の方が上等である。

 (6) 「主題」は「作品」にある。
  主題は読者側にある,という考えがある。だから,主題の数は読者の数だけ存在する,という人もある。しかし,この考え方を初等教育や中等教育の中にとり入れると「教育」や「授業」は成立しなくなる。
  望ましい読解の手続きを踏めば,ほぼ大多数の人々の読みとりの一致が得られる,と考えるべきだ。その「望ましい手続き」をとるように導くのが「読解指導」である。

 (7)  「主題」は「山場」を中心に探る
  クライマックス(山場)は作者が作るものである。読者を強く引きつけ,魂を揺さぶり,心を高ぶらせる。そして,情理両面から主人公に共感させ,あるいは反発させ,強いインパクトを与え,そのことを以て主題への接近,同化を図ろうとする。
  山場における主人公の言動は,一般に強く主題を体現していることが多い。山場の読みとりの適否,巧拙が主題の読みとりの成否を決めると言っても過言ではないだろう。

  以上「主題の読みとり」についての大筋を示した。具体的な実践を引いていないので伝わりにくさがあるかもしれないが,筆者の文学教材の読解指導実践例はいろいろな本に紹介してあるので,それらを参照して貰えれば理解はいっそう具体的になるだろう。

  小稿は,大韓民国の畏敬の師,韓炯植先生からのご質問に急いでお答えし たものである。不備,不十分な文章のままであることを申し訳なく思ってい る。すこしでもお役に立てれば光栄この上ないことである。

韓 炯植 先生

   残暑お見舞い申し上げます。

  ご丁寧なお便りを有難うございました。例年通りこの夏も,在宅は四日だけで,あとは連日国内を廻り続けて先生方の勉強会に出講しています。
  先生のお便りは家内から福岡のホテルにFAXで届けられ,拝読いたしました。心より有難く,深く感謝申し上げます。お便りをくわしく書きたいのですが,これから北海道へ飛び,札幌で三日を過ごした後は,最南端の宮崎に飛ぶというハードな日程ですので,お許しを戴いてとりあえず送信を致します。
  どうぞ,お元気でご活躍下さい。

                       福岡県博多市のホテルで
                          ‘02 8/4
                           野口 芳宏

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