テープ起こしのポイント
1.話し言葉と文章は別物
 講演のテープ起こしをして貰うことは大変ありがたい。講演は一回きりで消えてしまうのだが,それを文章化して貰うことによって多くの人にその内容が伝わっていくからである。
 しかし,講演を忠実にそのまま文字化しただけでは読む人に十分にその内容は伝わらない。話し言葉というのは基本的に対面伝達である。表情や語調に助けられて相互の了解効率が高い。これに対して「非対面伝達」を基本とする文字言語は,整然とした脈絡だけを頼りに了解を進めていくものである。だから,文章化する場合には読み手のためを考えて話体を文体に再加工する必要が生ずる。
 そのまま文字にしてもわかるような話し方をすべきだという論もあるが私はそうは思わない。そのまま文字化できるような話は概して面白くない。文章の読み上げと話とは別物だからである。

2.話し言葉の加工ポイント
 不可欠のことに絞って書いてみよう。
(1)主述の整合化=文体加工
 話し言葉の場合は,句点を用いず読点のままで話が続いていくことがある。主述の関係がこれによってわかりにくくなるのだが,話の場合には対面伝達性に助けられて了解し合いながら進行していくことができる。しかし,文章の場合には改めて主述をきちんと整えなければならない。話し方の文体を文章の文体に加工しないといけない。

(2)癖のある話法の除去訂正
 話し方では「ええ」「まあ」「んー」とかという言葉が多用される。間をつないだり間を持たせたりするためである。また「しょがねぇすね」というような訛りや「ほにゃららら」というような流行語,あるいは方言,さらには「ますけどねー」というような話調の独特の表現なども,文章にする場合には共通語表現に改める方が落ち着く。
 話し方の調子を伝えようとしてわざとその通りに書くのは,引用のように短い語句の場合に限るべきである。全文が話調で書かれたら読む方は飽きてしまう。話調そのものを尊重するならばテープかC・Dというメディアの方が効果的である。

(3)小見出しをつけて読み易く
 話し言葉,講義,講演は一般に一続きでなされる。しかし,文章にする場合には章,節,項を明確に区別した方がわかりやすい。小見出しはテープ起こしをする人の判断で効果的につけることが望ましい。このつけ方一つで話がずっとわかりやすくなる。
 また,小見出しには二行分をとったり,形式段落を多めにつけたり,ちょっとしたスペースを空けてカットを入れたりという工夫をすると一段と読み易くなる。
 いずれにせよ肝要なことは文字を読む人のために「読み易く,分かり易く」という工夫,加工をするということである。文章としての明快を保障するために文体の改善改変がぜひ必要である。

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