連載 子供が育つ総合的な学習 第6回・9月

「早く形を決めないで(3)」

■認知地図のプリントをもとに,私は話しました。
「子供たちの地図は認知地図なのです。町探検をした心象を表したものなのです。心象の濃いところは大きく,長くなります。心象の薄いところは小さくなります。生活科や総合で地図をかかせるときに配慮しなくてはならないのは,『子供に沿う』ということです。いえ,すべての表現活動で,子供に沿うということは教育の大原則ですね。特に,空間認識は教師(大人)のものとは別物です。単に距離や方向の感覚が未発達であるということではありません。一つ一つの具体的な事象がとても新鮮で生き生きしていることにより,断片化,デフォルメ化が大きく作用しているということなのです。」
「今日の子供たちの『違うと思う』『いや,いいと思う』は,子供たちからのその訴えだったのです。子供たちが描いた認知地図が生き生きとしていればしているほど,客観的な地図との違和感が大きくなります。そこを子供たちが指摘していたのです。それを,教師が自分の認識レベルを前提として,子供の気付きを客観的な地図に知らず知らずに当てはめていこうとすることは,ある意味で子供の知的作業を取り上げてしまっているのですね…。」

■低学年児童がおうちの人や友達の絵を描くと,必ず顔を大きく描きます。顔に,新鮮で生き生きとした感動があるのです。それを,正確な比率で描くように要求する教師はいないでしょうが,地図に関してはかなり多くの教師が無自覚に校舎あるいは校区マップを提示してしまっているように思います。

■それなら,探検活動のまとめを地図に表すことは意味のないことかというと,そうではありません。地図に表すことで,子供たちは断片化,デフォルメ化した気付きを自然につないでいくことができます。地図づくりは,とても有効な教育方法です。
 では,どのように扱えばよいのでしょうか。

■私は,個々の子供たちの地図を床いっぱいに広げ,それをつなぎ合わせていくという活動を取り入れています。つなぎ合わせていくと,当然のことうまくつながりません。そこで,子供たちはいろいろ言い始めます。
「ここ,本当は向きが違う。」
「この道,本当はもっと長いんじゃないの?」
「ここに,本当は病院があるの。」
 この「本当は」というところがポイントです。論争が始まり,地図を片手に再度確かめに行ったりという活動が生まれます。こうした活動を,生活科の校舎の探検,校地の探検,そして町探検などで繰り返してきて初めて,3年生以上の総合的な学習でもある程度客観的な地図を使えるようになるのですが,教師がそれらの活動場面で早々と正確な地図を与えてしまうと,子供たちの空間認識が育たないままに進んでしまいます。注意したいものです。

■生活科が誕生したころ,それを多くの心理学者は生活科発足に賛成の意を示しました。最新の認知心理学の研究成果は,子供の学びに具体的な活動が必要なことや,新たな認知スタイルがあることを明らかにしつづけています。そうした成果を取り入れて誕生した生活科に,期待したのでしょう。
(私のサイトに,この辺りのことを載せたページがあります。よろしければ,ご覧ください。http://www3.plala.or.jp/yokosan/sinrigaku.htm)
 総合的な学習も,子供の学びをより注意深く見つめ,細部まで見直しをかけていくことが求められています。
 大きな地図を提示すること一つ,枠のはっきりしたカードを与えること一つ,…。
 子供に学びながら,子供と共に創る総合でなくてはならないと思っています。


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