連載 子供が育つ総合的な学習 第9回・12月


    「放す前のポイント」

■総合の授業をするとき,見るとき,私は「子供を放す前」に着目します。
 教師が,何ごとかを話して「では,始めましょう」などと言って,子供たちがそれぞれ動き始めるというのが総合の授業の一つのパターンです。その子供たちが動き出す瞬間を私は「放し」と呼んでいるのですが,この「放し」の前で活動の良し悪しは8割以上決まるというのが実感です。

■「放す前」が次の5つのポイントを満たすとき,まずその活動は成功するように思います。
(1)文脈がつながっている
(2)笑いと集中がある
(3)明快なフレームが示される
(4)質問や子供発信のメッセージがある
(5)しかも短い

■(1)文脈がつながっている
 その活動に,それぞれの子の思いや願いがあり,物語があるかどうか。これは総合の授業の成否を握る最大のポイントです。放す前の教師の話は,子供の物語の文脈に沿い,よりふくらませる働きをするものでなければなりません。文脈を断ちきったり,強引にねじ曲げたりするものであってはなりません。子供の中に,自然につながってきている文脈を支えていくのが基本です。

■(2)笑いと集中がある
 子供たちや教師に,ゆとりと開放的な雰囲気がある時に,温かくのびのびとした笑いが生じます。笑いのある学習集団には,子供の自然でリラックスした姿があります。そうであってはじめて思考も柔軟に展開します。
 リラックスしていながら,対象への知的好奇心や活動への意欲が,その子その子の身体を制御し,その学習集団の集中を生み出します。学習の場に,シンとした静寂の時間が訪れた後の活動は,反対に勢いのあるものになることが多いと感じています。子供たちの目線が,話をする教師や友達に集中していなければ,そもそもその活動は子供達にとって必然的・魅力的なものではなかったのです。

■(3)明快なフレームが示される
 活動の枠組み(私はこれをフレームと呼びます)がどの子にも明快に示されていなければ,本当に自由な活動・知的興奮のある活動は展開されません。許容される活動,条件等を知ってこそ子供は自分の活動の主人公になれるのです。時間・空間・ルール・道具・チーム等がある意味で「動かない」とき,子供たちはその中で自由に「動ける」のです。

■(4)質問や子供発信のメッセージがある
 活動が自分事になっていれば,子供は自ら教師の説明に食いついていきます。もし,まったく質問がないとしたら,そもそもその教師の話に新たな情報がなかったのかもしれません。特に研究授業等では,教師が形式的に子供たちの前で話をすることも多いようです。子供の活動同様,教師の話にも必然性と魅力が必要です。
 そのような構成なら,子供発信のメッセージ(「先生,こうしたら?」など)が表出してくるのも自然なことです。

■(5)しかも短い
 以上述べた要素を満たしながら,全体として時間は短いことが大切です。この「短い」は,単純に物理的に何分以内,とは決められません。心理的に「さっと活動に入ったなあ」と感じられるということです。
 
■以上をすべて満たすのは,けっこう難しいことだと感じています。最後に私が描く「よい放し」のイメージを描写してみます。
 
 教師が,子供たちの横に立つと,子供達がさあっと集中する。教室はシンと静寂に包まれる。しかし,どの子の顔にも今日したいことへの期待が感じられ,エネルギーが感じられる。子供達は思い思いの姿勢をとっているが,そのどれもが美しい。
 教師は,子供たちの顔を見回す。目と目が合うと,子供達がにこっとする。「することは決まっていますか?」と静かに問う。多くの子供達から「はい。」と引き締まった答えが返ってくる。数人が手を挙げて,質問したり,他の子にメッセージを送ったりする。教師は明快に答え,またユーモアを交えて応じる。教室にさわやかな笑いがあふれる。
 「では,始めましょう!」
 子供たちがさっと動き始める…。ここまで,時間にしてわずか3分。

■いつかこんな授業ができたら,という私の夢のイメージです。
 次回は,「放した後のポイント」を述べようと思います。

 それでは,皆様良い21世紀をお迎えください。


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