物事を見る目を育てるレポート作文(追試編)


■与えた材料
 北海道新聞1月19日の投書。

看護婦に娘おびえる
 怖い看護婦に出会った。三歳の娘が風邪で吐いたりするので,帯広の総合病院の小児科に行った。点滴をすることになったが,突然娘が泣きわめき出した。驚いて治療室に入ると「親は出てください」という。カーテン越しに見ると,仰向けの娘に一人が馬乗りになって片腕を押さえ,もう一人が腕に針を刺そうとしていた。この子は泣かずに点滴をしたことがあるんですよ。札幌で病院に勤める母が一緒でした。「ここの看護婦の態度はひど過ぎる」と吐き捨てたわ。(十勝管内・主婦,30)

■指導の概略(文中〜以下は,実践メモ)

第1時 (意図の説明と題名,文体の説明)
1.教材文(投書)を配布する。
2.起立して一斉音読(教師も一緒に読み,難読漢字の読みを示す。)
  〜まずまず読めた。
3.着席して各自微音読
4.「読んでどう感じましたか?」
 〜口々に,「ひどい看護婦だ」などと言う。批判的な意見は聞かれなかった。普段から,批判的な思考になれていないので,投書の主の論述を素直に受け取る傾向が強い。

5.「今日は,これをあなたがどう読み,考えたかをレポートする作文を書きます。」(レポート作文,と板書)
6.「レポート作文は,題名と次の4つの段落で構成されます。」(板書,説明,子供はノート)
・題名〜主張を端的に
・1段落(発)〜これを読んだきっかけ,第一感(その通り!これは違う!)
・2段落(材)〜教材文の引用(伝聞の文体で)
 ・3段落(析)〜批評(1段落の直感を,論理的に進めます。) 
・4段落(束)〜まとめ(自分の主張を,教材文から広げて)
7.「文体は常体で書きます。」(文末表現により,常体・敬体と分けることことを説明す る。)
8.「では,見本を見てみましょう。」(事例を配布し,読む。段落の数,常体を確認。)
  〜事例があることで,説明がすんなりと通ったようである。(事例は,省略。追試される場合は,下にある私の学級の作文を使用されてもよろしいです。)
9.「では,まず題名を決めましょう。あなたがこの文章を読んで感じたことを題名にしまず。題名を読んだだけで作者の意図がはっきりと伝わるのがよい題名です。この事例は,題名の付け方は,なかなかいいですね。さあ,あなたたちもいくつか書いて,一番よいと思うものを黒板にネームカードを貼って下に書きなさい。」
10.題名を検討する。
  〜主張が明確に示されていない題等,一つ一つ検討していった。
11.「第1段落は,きっかけと第一感を書くのでした。この事例の第1段落は,あまりよくありません。受け身です。では,あなたならどう書きますか。」
12.「文体は常体にするんでしたね。その方が主張がはっきりします。次のような文末表現を使い分けます。第1段落は,事実,疑問の投げかけ,思いの文体が適しています。『思う』等の思いの文,『ではないか』等の疑問の投げかけの文を入れて書くようにしましょう。では,書きましょう。」
  〜この追試の骨子の部分である。文体を限定することで,明解な段落の意図に合った作文が可能になると考えた。ある程度は,この意図はおおむね通じたようだが,かえって難しく感じた子もいたようである。

文末表現と文の働き(画用紙に書いて掲示した)

文末表現 文の働き 備考
〜だ 事実,考えを伝える
〜という,〜そうだ 伝聞
〜である 強い主張
〜らしい,〜ではないか 憶測 できるだけ避けた方がよい
〜だろうか,〜ではないか 疑問の投げかけ
〜と思う 漠然とした思い できるだけ避けた方がよい
〜と考える 考えた結果 「思う」より論理的


第2時 (実作〜ノートに)
1.「第1段落を書いた人は起立して,微音読します。読んでみて,訂正するとよい文になります。」(教師は巡回し,短く評価する)
2.「第2段落は,引用です。伝聞の文体で,大事なところ,必要なところだけまとめながら書きます。ノートに書きましょう。」
3.微音読,評価
4.以下,第4段落まで続ける。
  〜よい出来映えのものは,少し大きめの声で読ませ,他の子にも聞かせるようにした。
  〜ここは,個人差によって1時間で終わらなかった子もいた。

第3時 (清書〜作文用紙に)

1.今,書いた文章をつなげてひとつながりの文章にします。また,字数は400字にまとめます。多すぎたら削ります。まだ書く余裕があれば,自分の経験を盛り込むとぐっとよくなります。字はていねいにね。
2.書いたら,辞書を使ってしっかり点検します。
3.仕上がったらみんなに聞こえる声で音読します。音読しても間違いがなかったら提出しましょう。

第4時以降 (1回15分程度を7回くらい)

1.2〜4名の作文を縮小印刷したものを題材に,論旨,表現の不適切なところを各自赤を入れる。
2.教師と一緒に,その指摘を確認する。
〜今後実践予定。


■子供の作文(私のコメント)
(1)  なぜ親を入れないんだ  O・H(女子)
 先生が新聞にのった投書をもって来た。読んでみると,私はいくつかぎ問があがった。
 投書には,点滴をすることになったが,突然娘が泣きわめき出した。驚いて治療室に入ると「親は出てください」という。カーテン越しに見ると,仰向けの娘に一人が馬乗りになって片腕を押さえ,もう一人が腕に針を刺そうとしていた。と,書いてある。
 私は,この三才の子が点滴の針を見た瞬間じたばた動いたために,馬乗りになったと思う。しかし,なぜ親を入れちゃいけないのだ。誰だって自分の子が泣きわめき出すと,心配だ。なのに治療室に入ると「親は出てください」という。確かにひどい。もし私がその三才の子の親だとしたら「親は出てください」と言われて,治療室から出ると,娘に何をされるか心配だ。
 このように,治療室に入ると看護婦が「親は出てください」というけど,私はやっぱり看護婦は悪いと思う。


(このレベルの作文がほとんどであった。このような作文を書くのが初めてであるので,まずは書いたことを認め,今後の指導につなげたい。この作文で直して行くべきところは,次の点である。
・先生が新聞にのった投書をもって来た。→「にのった」のような無駄な言葉を省く。
・いくつかぎ問があがった→「いくつかぎ問」と書いておきながら,疑問は「なぜ親を入れちゃいけないのだ」だけである。
・「投書には」の文末が「出した。」→主述を一致させる。もしくは「投書によると」くらいにする。
・じたばた動いた→憶測を論拠にしてはいけない。
・心配だから入ってもよいという論理→弱い。)


(2)  じょうきょうを考えて  R・K(男子)
 ぼくは,先生がくばった投書を見て「えっ」と思った。看護婦が馬乗り!
 主婦はじょうきょうを考えて,子供が泣いているので入ろうとしたら,母親は出てくださいとは,看護婦はひどいと思う。
 母親はしんぱいでしょうがないけど入れない。でも無理して入ればいいと思うけど看護婦は入れてくれない。これはひどい。看護婦は自分がどうゆう立場でそうゆう馬乗りをして点滴をしているのだろう。子供が泣いたからって馬乗りをして点滴をうたなくても,なぐさめたり,だっこしたりして点滴をさせればいいと思う。
 このように3才の子供に馬乗りなんかをしてささないで,もっとやさしくさせばいいと思うのである。他にも違う子供に暴れたら,また馬乗りになってももう一人が点滴をさすのだろうか。その馬乗りだけはやめてほしいと思うのである。

(作文をとても苦手にしている子である。しかし,第1段落の発意,また最後の一文は何かユーモアがただようようで味がある。ただし,直すべきところはたくさんある。
・第2段落の「主婦はじょうきょうを考えて」が題名にも使われているが,説明不足であり,また文がねじれているために伝わらない。
・また,ここでも,(1)の子と同じく「母親はしんぱいでしょうがないけど入れない。でも無理して入ればいいと思うけど看護婦は入れてくれない。これはひどい。」の論理は弱い。
・「他にも違う子供に暴れたら」は,「別の子が暴れたら」くらいにスッキリ書かせたい。)

(3)  言葉不足がまねいた結果  A・K(女子)
 先生が投書を持ってきた。それを読んでつい一週間ほど前,私の弟がかぜで病院に行ったときのことを思い出した。
 私の弟も,三才で点滴をしたのだが,手に板してバンソウコウで固定し,動かないように2時間も泣かずにがんばっていたそうだ。うでに針をさした時も泣かなかったのに,お医者さんが「アーンして」といって口を開けさした時に大泣きしたそうだ。
 この人の子供も前に点滴したとあるが,これくらいの小さな子供はいつ泣き出して暴れるかわからない。まして,点滴は針をさすので暴れると大変危険なので看護婦が馬乗りになって押さえたというのは,わかる。けれども弟の病院のように手だけを固定するやり方だってあっただろう。
 看護婦ももっと説明があってもよかったと思うし,この主婦も看護婦と話し合って,子供の手をにぎってあげるとかうったえれば,こんな投書はしなかっただろうと思う。お互いに言葉が足りなかった結果だと思う。


(作文の好きなA・Kの作品。一番論理的な考え方ができ,自分の体験と主張をうまくつなげている。投書の問題をずばり「言葉不足」と指摘するあたり,なかなかである。第1回としては,合格点を付けたいと思うのだが,どうだろうか。)

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