平成21年度卒業式式辞

 春の気配が感じられる頃となりました。本日巣立ちの日を迎えた113名の皆さん、卒業おめでとう。

 本日の式に際しましては、東月寒中学校橋根俊夫校長先生はじめ、たくさんのご来賓の皆様にご来校頂きました。誠にありがとうございます。

 今、卒業生の皆さんに手渡した卒業証書は、小学校の全ての学習を修了したという証です。自信をもって、それぞれの夢に向かって羽ばたいてください。

 しかし、夢をかなえるのは、そう簡単なことではありません。
 そこで、皆さんが困難に出逢ったときに思い出して欲しいひとりの方のお話をします。

 東京の銀座に、小十という小さな和食料理の店があります。とてもおいしいお店ということで、『ミシュランガイド』という本に、3年連続三ツ星の店として紹介されました。ミシュランでの連続受賞は、大変珍しいことです。
 この店のご主人は、奥田透さんといいます。奥田さんは、中学時代は野球の選手を夢見て、朝から晩まで泥まみれで練習しましたが、体も小さく、怪我をしたことで夢をあきらめ、新しい夢、教師を目指して高校に進みました。しかし、途中から勉強についていけなくなり、教師の夢もあきらめます。

 その頃、アルバイト先の居酒屋で目にしたのが、料理人さんたちの姿です。
 料理には学歴も体格も関係ない。二本の腕と努力があれば必ず道はひらける。
 奥田さんはそう思い、高校を出るとすぐに和食のお店で働き出しました。奥田さんの最初の仕事はお客様の靴を揃える下足番でした。奥田さんは、お客様の顔を覚え、靴をさっと出せるようにがんばりました。しかし、いつまでたっても料理はさせてもらえません。

 同じ頃に店に入った人は皆料理の修業をしており、悔しく思いましたが、「教えてもらえないなら自分でやってみよう」と、本を読み、店が終わった後、誰もいない調理場で傷だらけになりながら料理を覚えていきました。

 こうして何年もがんばって、ようやく小十という店を開いたのです。
 しかし、お客様がまったく来ません。2か月で貯めたお金がなくなりました。家賃も給料も払えません。
 もうダメだと何度も思いましたが、「いつか夢は叶う。」と自分に言い聞かせ、心を込めて料理をつくり続けるうちに、少しずつお客様が増え、数年後には三ツ星をいただくようなお店にできたのです。

 奥田さんはおっしゃいます。
「これまで私が経験したささやかな成功の裏には、必ず大きな挫折や失敗がありました。人は辛い時、それが一生続くかのように考えがちです。しかし、失敗の中には必ずチャンスがあり、成功につながるのではないかと思います。」

 卒業生の皆さんも、夢に向かう中で、奥田さんのように、挫折や失敗に苦しむことがあると思います。しかし、挫折や失敗は、神様からのプレゼントです。辛いときでも夢を忘れず、自分を信じ、挫折や失敗に耐えて、豊かな人になっていってください。
 でも、一人では辛さに負けそうなときには、いつでもまた羊丘小学校に羽を休めにきてくださいね。

 最後になりましたが、保護者の皆様にお慶びを申し上げます。本日は本当におめでとうございます。
 お子さんは人生において最も多感な時期に入ります。楽しみの多い反面、保護者として悩むことも多いかと存じます。しかし、皆様の前向きに生きる姿が、必ずお子さんを勇気づけ、良い方向に向けていきます。お子さんの夢を、夢に向かう姿を、どうぞ温かく見守り導いてください。

 これまでいただきましたご厚情に深く感謝いたしますと共に、今後ともよろしくお願い申し上げ、式辞といたします。

 平成22年3月19日
札幌市立羊丘小学校 校長 横藤雅人

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