平成26年度卒業式式辞

 明るい春の日差しも皆さんを祝福しているようです。皆さん、卒業おめでとう。
 今手渡した卒業証書は、小学校のすべての学習を修了した証です。胸を張って、中学校に羽ばたいてください。
 本日の式には、大曲中学校小笠原教頭先生をはじめ、たくさんのご来賓にお越しいただきました。誠にありがとうございます。

 今日は皆さんへのはなむけに、お二人の方を紹介したいと思います。一人目は、小澤輝真さんとおっしゃいます。札幌にある北洋建設株式会社という会社の社長さんです。
 実は、北洋建設では、犯罪を犯してしまい、少年院や刑務所で罪を償った方たちを社員として受け入れ、社会復帰を助ける活動に取り組んでいます。小澤さんは、「うちに来た奴は絶対に見捨てない。」と言い切ります。しかし、入社した人が、皆何の問題も無く勤められるわけではありません。少年院に入っていた人、暴走族にいた人、背中一面に入れ墨を入れている人、いろんな経歴の人がいますが、最初のうちは、なかなか前向きな気持ちになれないことが多いそうです。小澤さんはおっしゃいます。
「そんな人たちに共通しているのは親に心底怒られたことがないこと。つまり愛情に飢えているんです。挨拶もできません。だから、出所してうちに来た時は、まず挨拶から教えます。『お前、挨拶もできないのか!』と真剣に怒ります。そして、良くなったら『すごく良くなってきたなあ。』とほめます。すると、嬉しそうに笑顔で答えます。このように互いの人生をかけて、本気でぶつかり合うことが思いやりある人材を育て、会社の活力に繋がっていくのです。」

 これまで北洋建設に勤めた元受刑者の方は小澤さんのお父様が会社を興してからの43年間で、三百人を超えています。なぜそんなに多いのかというと、仕事をしっかりと身につけたら、独立するように勧めているからです。これまで、多くの方が北洋建設から巣立っていきました。独立した後、結婚し子どもが生まれると、先代の社長である小澤さんのお母様に一番に見せたいと言って来る方もいるそうです。

 実は、そんな小澤さんに三年前難病が襲いかかりました。「脊髄小脳変性症」という病気です。ベストセラー『1リットルの涙』の主人公がかかったのと同じ病気です。そのため、言葉がうまく言えなくなって、歩くのも難しくなってきたりしています。やがて字が書けなくなり、話せなくなり、寝たきりになり、死に至るという病気です。大脳は正常なので、自分に何が起きているのかがはっきりとわかっているだけに辛い病気だと思います。でも、小澤さんは病気にも負けません。小澤さんは若い時やんちゃをして高校を中退しましたが、その後、高校に再入学、二つの大学を卒業し、現在は日本大学、そして放送大学の大学院に通っています。この間(あいだ)、修士論文が合格したとうれしそうに教えてくださいました。そして、「残された人生、いつまでなのかわかりませんが、命ある限り全力で駆け抜けます。」と明るくおっしゃいました。小澤さんの命が、少しでも永らえ、周りの人たちに希望と勇気を与え続ける時間が、少しでも長いことをお祈りすると共に、私も、場は違っても真心を尽くして仕事をすることを誓いたいと思います。
 実は、小澤さんは本日の式に参列してくださる予定でした。しかし、お仕事の関係で参加できませんでした。残念だな、と思っておりましたら、昨日こんなメッセージが届きました。
「ご卒業おめでとうございます。巣立っていくあなた方は輝いています。今後ますます素晴らしい人生を謳歌してください。」このメッセージは、後ほど校長室前に置いておきますので、どうぞご覧ください。

 もう一人御紹介したいと思います。その方は、本日ここにお越し戴いています。皆さんが四年生の時に来校して戴いた車椅子のスポーツマン本間篤史さんです。本間さん、ありがとうございます。在校生の皆さんも詳しく学習したので皆知っていますね。ですから、ここでは多くを語りません。日本を代表するモーグルの選手だった本間さんは、不慮の事故で車椅子の生活を送ることになりました。しかし、小澤さんと同じように障害に負けず、仕事に、スポーツに挑戦し続けている方であることは、皆さんよく知っていることでしょう。本間さんは、アサヒビール北海道工場にお勤めですが、上司の方のお話を伺うと、本間さんに絶大な信頼を寄せていることが伝わってきます。それは身体には障害はあっても、心が前向きでとても健康だからです。

 私は、そんな小澤さんや本間さんの姿を見るたびに、本校の校歌にある「至誠」という言葉を思い出します。この間、六年生にはこの「至誠」の意味を教えましたね。孟子の言葉で、誠に至る、つまり真心ということです。「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」(真心をもって接して、心動かされなかった人はいない)。小澤さんやお母様の真心が、元受刑者の方たちの心を開き、前向きな生き方を引き出しています。本間さんの、「自分でできることは甘えずにしっかりとやる」「会社のために、何ができるのかをいつも考え続ける」という真心が、会社の皆さんからの信頼となって花が咲いています。お二人の「至誠」の姿に学び、大曲小を巣立つ皆さんも、真心を尽くして生きてほしいと願います。
 卒業した後、皆さんの行く手には様々な困難や誘惑が待ち受けていることでしょう。しかし、それらに負けず、自分の真心と向き合い、他の方にも真心で接し、心を尽くす生き方をしてほしいと心から願っています。これからの日本を支えるのは、あなたたちです。がんばってください。

 最後になりましたが、保護者の皆様にお慶びを申し上げます。本日は本当におめでとうございます。これまで本校にお寄せ戴いた御厚情に深く感謝いたします。ありがとうございました。お子さんは人生において最も多感な時期に入ります。しかし、今御紹介した小澤さんのように、叱ること、共に喜ぶことに遠慮しないでください。また、本間さんのように、目の前に現れる困難に負けず、乗り越えて自立していく姿を、どうぞ温かく見守り導いてやってください。いつまでも「子供があこがれる大人」でい続けてください。そんな皆様の立ち姿が子供たちを支えます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

 さあ、卒業生の皆さん。羽ばたきの時です。胸を張って、飛び立ちましょう。でも、時には羽を休めたい時もあるでしょう。そんなときは、いつでもまた大曲小に寄ってくださいね。いつまでも私たちは皆さんを応援しています。

 平成27年3月19日
北広島市立大曲小学校 校長 横藤 雅人

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