ウェビング法による交流の授業


 生活科における飼育栽培活動は,具体的な活動は日常生活時間に行われる。多くの場合,子供たちは登校してきてすぐに自分の育てている動植物のところに行き,新たな発見に目を輝かせている。「ドラマは朝,展開される」のである。
 それなら,教科の時間には何をすればよいのだろうか。
 大きく分けて2つである。
 ・記録(何日かの時間をおいて,あるいは顕著な変化のタイミングをとらえてカードなどに絵と文章で記録する。)
 ・交流(一人一人の気付きや喜びや悩み,悲しみを共有し,広げ,高める。)

 ここでは,2点目の交流について効果的だったと思われる「ウェビング法」を使ったザリガニ飼育(2年生)の実践について紹介する。

メニュー

実践の概要
 1.今年はザリガニ,飼いますか?
 2.授業時間は交流を中心に
 3.ザリガニ名人を呼んでください
 4.再現・ウェビング
 5.S子がザリガニを持てた
指導案
 1.本時の目標・展開
 2.単元について


実践の概要

.今年はザリガニ,飼いますか?                                               
 4月の第1週。年間の生活科のオリエンテーションの時間に,子供たちに「去年の2年生はザリガニを飼っていたんだけれど,今年はどうしますか?」と問いかけた。子供たちの反応はさまざまであった。「絶対飼いたい」という子もいれば「怖いからできれば飼いたくない」という子もいる。それぞれの思いをカードに書かせ,放課後「視→観→察」法(「生活科の見取りと評価」参照)で分析してみた。ほとんどの子は「飼いたい」であったが,S子のカードには次のように書かれていた。

おねえちゃんが,『はさまれたらしぬほどいたい』って言っていたから,Sはまだしにたくないのでかいません。

 S子の様子を思い出すと,授業時の話し合いのときも,回りの子が張り切っているのと対照的に情けない表情であった。(視)         姉の言葉は,かなりの影響力をもってS子の中にあるようだ。普段はよくけんかもしているが,頼りにもしているから『死ぬほど痛い』が大きく感じられるのだろう。しかし,1年生のとき,ウサギを抱っこするときもやや時間がかかったが,抱き上げた後はうれしそうにしていたから,まったく未知のものがダメということはないだろう。(観)
 S子にとって,ザリガニを飼うということはどのような意味をもつのだろう。運動会の全校競技「大玉送り」で,勝敗が決定した後,さいごまでがんばる相手チームに対して,勝った方のチームから大きな声援が沸き起こったことがあった。そのときS子は回りの子が応援する中で,一人黙って他の子を見ていた。まだ自分中心なのである。友達とのつき合いも自分から狭くしている傾向が気になる。マイナスのイメージをもつザリガニをうまく飼うことができたなら,この子の中に「はじめはいやだと思ったけれど,やってみたら楽しかった」という新しい価値観が生まれることが期待できる。また「まだしにたくないから」には,いつものユーモアが表出している。まだ心の余裕はありそうだ。(察)     
  このような見取りの結果,この年も一人1匹ずつのザリガニの飼育に取り組むこととし,子供たちにその旨を伝えた。S子には,「みんなで飼えば大丈夫。先生も毎朝いるからね。」と伝えた。「それならいい。」とS子。
 飼い始めるに当たっての条件として,子供たちが自分の手で毎日水替えやエサやりをすることとした。子供たちはよくがんばり,世話を続けた。
 他の活動として,他の子のザリガニとの 「結婚」など,自由に活動を広げる姿が見られた。そうした中で,S子たちも回りの子たちに助けられながら毎日の世話を続けるようになっていった。
 当然のことながら,生活科においては「昨年やったことだからくり返す」はいけない。子供たちの思いや願いとは別のところで指導計画がすでにあるような展開は避けたい。大切なポイントである。もちろん,生活科においてはぜひとも体験させたい内容はある。しかし,その内容が子供の育ちに結びつくためには,「今年はどうする?」という話し合いが不可欠である。
                         
.授業時間は,交流を中心に
 飼育活動は,長い期間に渡る。また,毎日の世話や観察は主に時間外に行われる。生活科の時間は,子供たちのザリガニへの思いや願いを交流し,位置付け,また日常の世話や観察に返していく「節」と位置付けた。
 そこで,子供たちの内面の思いや願いを引き出し,それをウェブ図で位置付けていくこととした。
 「今のあなたのザリガニは?」という問いかけをすると子供たちは口々に,自分のザリガニの様子や今の悩みを話し始める。教師はそれらをすべて受け入れ,大きく色別にくくりながら,位置付けていくのである。下はその一例である。ウェビングは,回を追うごとに子供たちの思いや願いがふくらみ,より結びついていくようすがはっきりとわかる。                  
  
. ザリガニ名人をよんでください
  こうしたことを繰り返していくうちに,子供たちは自分の悩みが自分だけのものではなく,他の子の悩みであることにも気付いたり,反対に自分にとって当たり前と思っていたことが他の子にとっては「すごいこと」だと気付いたりする。 
 そこに自然な交流が生まれる。ザリガニがエサを食べないという悩みの子たちは,よく食べるという子に「そのエサなら食べるのかなあ。」などと問いかける。すると,「少しあげるから,ザリガニにやってみたら?」とくれるといった具合である。
 また,そのような自然な交流では解決しない問題も浮き彫りになってくる。「土管から出てこない」「持とうとするとはさみを振り上げて,全然慣れない」「体に,もわもわした白いものがついている」などである。こうした悩みは,日がたつにつれ深刻度を増していく。本で調べたり,3年生に聞いたり,教師に聞きにいったりしても,いまひとつはっきりした解決に至らない。飼い始めて1か月ごろたったある日,子供たちから「先生,このザリガニを育ててくれた人に,話を聞くことはできないかなあ。」との打診があった。そこで,ザリガニを購入した業者さん(子供たちにはザリガニの名人と紹介した)に,自分たちの悩みを手紙に書いて送った。S子はこう書いた。

わたしのザリちゃんは,とってもきょうぼうです。わたし がせいかつかしつにはいると,遠くからにらみます。もとう とすると,はさみをあげておこります。おこりすぎて,ひっくりかえることもあります。え〜ん,もてるようになりたいよ〜。 SOS〜!               S子 

 このような声に応えて,業者さんが学校に来てくれた。

.再現・ウェビング
ザリガニWeb図@まず,「この頃のみんなのザリガニの調子はどうですか?」と投げかける。
Aまず「バッチリ!」「脱皮したんだよ!」という声が上がった。そこで,それを適当な位置に色を変えて書く。
B次いで「あのね,…」と困ったことが報告された。それを赤で書く。ここでは,「逃げる」「土管からでない」「はさみを振り上げる」「おとなしすぎる」「エサを食べない」「体にできものができている」「体にもあもあっとしたものが付いている」などが出された。
Cそれを聞いた「バッチリ」の子たちから,「持ったらおとなしくなるんだよ」「うん,僕のも」などと情報が寄せられた。それをバッチリから派生させて位置づけていく。エサを食べないという子たちには,「私のエサはよく食べるよ」との情報が寄せられた。
Dこうして,子供たちの思いや気付きを左のように位置づけていった。「結婚させたい」というような希望も出た。
E意見が大体出たところで,「今のあなたのうれしさや悩みがあるところに自分の名前を書いてください。」と指示。子供たちが書き終えたところで,「この悩みの人が多いんだね。」「〜君は,この前は〜だったけれど,今はバッチリなんだね。おめでとう。」などと概観した。
Fそして,「では,みんなのザリガニの様子について,名人にいろいろアドバイスをいただきましょう。」と言って,教師側でいくつかの類に分けて「おとなしいので病気かもと,〜君,〜さんが心配しているんですけど,どうなんですか?」のように質問していった。

.S子がザリガニを持てた

 ザリガニ名人は,ウェビングを興味深そうに見守ってくれた。そして,子供たちの質問に,じつに適切に答えてくれた。
「数ある中で,死ぬことはしかたないことです。命あるものはいつか死ぬからね。」
 こんな話に,子供たちはじっと身を乗り出して聞いていた。
 名人は薬をプレゼントしてくれたりもした。(事前にザリガニの様子を連絡しておいたから出ある。)
 その後,ザリガニを置いてある生活科室へと移動した。そしてこの日,ついにS子は名人の励ましのもと,ザリガニをつかまえることができたのである。S子は書いた。

わたしにもザリちゃんがもてた。じぶんでじぶんがしんじられなかった。名人が「大じょうぶだって」って言ってくれたから,やってみた。ザリちゃんはちょっとあばれたけれど,でももたせてくれた。もったら,とってもとってもかわいくなった。このまま家につれてかえりたくなった。明日も,あさってもザリちゃんをもつんだ。先生,名人をよんでくれてありがとう!

 名人に子供たちの感想を届けた。名人は,「子供たちのかかわりがすごいですね。感動しました。」と言ってくれた。  


指導案


.本時の目標・展開
@本時の目標
・ザリガニの様子や成長,世話の仕方に関心をもち,「名人」へ相談するなど,自分ごととしてよりよいかかわりをしようとする。
・ザリガニの様子やザリガニへの思いや願いを言葉や動作などで表現しようとする。
・友達の喜びや悩みを素直に受け止めたり,「名人」への親しみをもったりする。
A展開

子供の活動と願うキラリ 見取りと支援
前時まで
 ザリガニを飼い始めて1か月。つかめるようになったり,脱皮に成功したりなどの喜びと死んでしまった悲しみや餌を食べないなどの悩みを感じながら,毎日の世話を続けている。それぞれの思いや願いをウェビングの手法で位置付け,交流する中から,「名人」にザリガニのことを相談したいということになった。
今のみんなのザリガニの調子はどうですか?

(教室)
 ・脱皮に 成功したよ 
 ・餌を 食べないの
 ・元気が ないの
 ・ やっぱりつかめない …

  ウェブ図に子供たちの喜びや悩みを位置づけていく。
  (順序は,「喜び」→「悩み」となることが予想される。)
  位置づけられた思いを類にして,随時子供たちの具体的な意見を取り上げていく。
「名人」の馬場さんを紹介します。みんなの悩みをまとめて聞いてみようね。

・あえて,自分のザリガニを目の前に置かないで話し合うが,後半はザリガニがいる生活科室に移動するようになることが予想される。
(教室〜生活科室)
 ・本当かなあ?
 ・へえ! なるほど! いろいろ分かったよ。
 ・また, 大事にお世話していこう!





ザリガニの調子を問うことで,かかわりの様子を引き出したい。


・ウェブ図をもとに,子供たちの相談ごとをいくつか の類に分けていく。
◇「名人」の説明を驚きをもって受け止めることができたか。
◇よりよき生活者としての意欲の高まりが見られたか。
◇自分ごととして切実なものになっているか。
◇友達の喜びや悩みを素直に受け止めることができるか。


.単元について
@単元と子供
・1年生のときのアサガオの栽培では,豊かに感情を移入して栽培する姿が多くの子に見られた。
・ザリガニの飼育については,飼育前の調査では約半数の子が「怖くてつかめないかも しれない」という不安感をもっていた。しかし,「飼おうか,やめようか」という事前の話し合いの結果,3名を残して「責任をもって飼う」という意志を確認できた。 その後の世話は,ほとんど忘れることなくしている。
(3名のうち,1名は「怖いから,自信がない」。しかし,飼い始めてからは一生懸命に世話をしている。もう1名は「どっちでもいい」。その後の世話は,そつ無く している。もう1名は,情緒に障害の疑いのある子。ザリガニへのかかわりが攻撃的である。世話は他の子や母親,担任がしている。)

・視点1「キラリが表出する単元構成」
(1) 「飼うor飼わない?」からスタート〜責任を持たせる
単元開始の前に,「去年の2年生はザリガニを飼っていたけれど,みんなはどうしますか?」と投げかけた。この投げかけによって,意欲を喚起するとともに,自分で 飼うことを決めて,責任をもって飼い始めることができると考えた。

(2) 一人に1匹のザリガニで愛着と切実さを
「自分の」ザリガニという意識をもたせ,名前をつけるなどの活動から,かかわりを深め,愛着と切実さを高めたいと考えた。

(3) 期待感・喜び・悩み・悲しみを共有し合う活動を節目に
日常の世話と並行して,主に教科の時間に交流の活動をもつこととした。それが節目となり,ザリガニへのかかわりや気付きがより深まり,他の子とのかかわりも深まるからである。

・視点2「キラリを認め合い,高め合う交流の場づくり
(1) 毎朝,担任は生活科室へ
日常の世話が大きい活動である。そこで,毎朝担任は生活科室で子供たちを迎えるようにしている。そこでの小さなドラマの共有が話し合い活動にもつながる。

(2) ウェビングの手法で,一人一人の喜びや悩みを位置付ける
話し合いなどの交流では,個々の喜びや悩みを位置付け,関連させるための一つの方法としてウェビングを採用した。これにより,子供たちは自分と同じ悩みをもっている子がいることを知ったり,悩みを解決できそうな見通しを得たりすることができる。
また,一定期間の後にウェブ図を並べてみると,自分のザリガニへの思いや願いが変化してきたこともよく分かると考えた。

(3) 自由にかく観察カード
観察のカードは,あえて全くの白紙として,かく枚数も時間もそれぞれの子供にまかせた。かけたカードは,教室背面の掲示ファイルに自分で入れる。教師は,時折それを全員の前で取り上げて賞賛したり,励ましたりする。
A単元の目標
・ザリガニに親しみをもち,大切に育てようとする。(がんばりのキラリ)
・ザリガニの特徴や成長,変化の様子など気付いたことを動作や絵,文章などで表現す
 る。(ひらめきのキラリ)
・友達の喜びや悩みを共感的に受け止め,助け合って活動しようとする。(思いやりのキラリ)

B展開

目標 子供の活動と願うキラリ 見取りと支援
期待感と不安感をもちながら,ザリガニを飼う決意をし,飼育の情報を集める。(1時間) ・ぼくでも飼えるだろうか
・どうやって飼うのかな?
☆楽しみだなあ
☆自分でケースを用意するよ
☆飼い方を図鑑で調べるよ
☆○○君に飼い方を教えてもらおう
・飼うかどうか問う・安心させたり,情報を得るための助言を したりする
◇ザリガニに対する意識や飼育への意欲はどうか
ザリガニを受け入れて,親しみをもって飼い始める。 (2時間) ・自分の手で一人1匹ずつのザリガニをつかまえて入れる
・世話の仕方や時間などについて話し合う
☆私は,メスがいいな
☆名前をつけたよ  
☆やった!持てたぞ!
☆世話の仕方が分かったよ
◇世話の仕方や用具は適切か
◇1日の生活の中にお世話のリズムはできたか
一人一人の思いや願いを受け止め,記録化と交流を図る。 (8時間)

(本時4時間目)
・ザリガニの様子について交流する
☆えさを喜んで食べるよ!  
☆脱皮したよ  
☆体が大きくなったよ
☆動きが鈍いなあ
☆怖くて持てないよ
☆脚がとれちゃったけど大丈夫かな?
☆今度は〜してあげよう  
☆ますますかわいくなってきたよ
・ウェブ図に子供たちの思いや願いを位置付けていく
◇自分の思いや願いを素直に表現できたか
◇友達の思いや願いを共感的に受け止めたり,アドバイスを素直に受け入れたりす ることができたか
脱皮,けが,死,交尾,産卵などを通して生命の尊さに気付き,育て続けた自分への自信をもつ。(2時間) ・夏休みの世話や2学期の計画について話し合う
☆夏休みも世話を続けるよ
☆自由研究はザリガニの観察だ
☆赤ちゃんを産ませてみたいな
☆2学期もみんなと飼いたいな
☆ぼくも,やればできるんだな  
・夏休みや2学期の計画を問う
・ウェブ図を並べて,1学期の振り返りをする
・家庭への協力を依頼する
◇振り返りは自信に結びついたか
◇夏休みの計画,意欲が継続するか

 バック  生活科・総合のトップページへ