}-->


















早朝、人気もまばらな道路をゆったりと歩く後ろ姿。

まだ寒いのに、そんなに足を出して大丈夫ですか!?と心配になる、あの姿!

コートを着ていても解る、身体のライン。まるでCGで作られたような見事な脚線。



朝から溢れる色気、というか隠しきれていない…否、隠す気が微塵もない色気!!


間違いない!私の探し人だ!!


疲れきり、身体の芯まで冷え切った身体を無理矢理動かし、私は走った。



「さッ…しゃ…さッ阪野、しゃッ…阪野ッさんッ!」



サ行もまともに言えなくなった口を必死に開き、私は叫んだ。



私の声が届いていないのか、阪野さんの後姿はなかなか近付いて来ないし、止まる気配も無い。


無視されているのかもしれない。

手を掴んで、引き止めなくちゃ。



「はぁ…はあッ…はあっ…阪…っ!」


手を伸ばそうにも、上手く動かない。

疲れのせいか、寒さのせいか…。

もしも、社であのまま寝ていたら、本当に凍死してたんじゃないだろうか…!?



そう、思ったらなんだか腹が立ってきた。




(・・・なんだよ・・・!)



足だって走り続けて疲れてんのに。



(・・・放置、してんじゃないわよ・・・ッ!)




こんなボロボロのふざけた衣装で、凄く寒いのに。





(・・・私の事、助けに来てくれたクセに・・・ッ!!)





目が覚めたら”いつも通りの一人”だった。

ジャケットだけ被された状態で放っておかれた。


そこに不満があった。


阪野さんが、私をそういう状態のまま放っておくなんて、と思っただけで不満を感じた。




(私の事、少しでも好きなら、あのまま放置していくんじゃ・・・ないわよッ!!)



いつも会社でチラ見していた後ろ姿。

男性社員からは欲望の眼差しを向けられ、女子社員からは嫉妬と嫌悪の視線を向けられていた阪野さん。

彼女は、それはそれで良しとしていた。

いや、どんな目で見られようと強く自分を保っていた。


でも、本当は無理をしていた。

初めて阪野さんと話をした時、彼女は泣いていた。




『…人間、見た目9割って言うでしょ?…私達、見た目も仕事も10割なのよね。

 私、それは当然だと思ってたし、誇りだった…。

 でも…自分が思ってるほど、周囲はちゃんと見てはくれないのよね…』




私だって、そうだった。

いや、私の方が…周囲の人間より、貴女の事をちゃんと見ていなかったし、見るべきだったのだ。

理解者を求めていた貴女を、ずっとずっと遠ざけていた。

・・・それは、近くにいたら肉体的に危険だったからという言い訳もさせて欲しいのだが。


とにもかくにも、戦い終わり倒れた私にジャケットをかけたのは、間違いなく彼女なのだ。

私が、彼女を引き止める立派な理由だ。



「阪野ッさ……」



これまでずっと…ずっと、私は…彼女に見られているばかりで、捕まえてもらってばかりで…!

助けてもらってばかりで…!



今ココで、彼女を引き止められなければ、もうこれからずっと彼女を呼ぶ資格なんか無い。




「―――阪野ッ詩織ッ・・・・・・さんッ!!」

 ※注 根が小心者なので、呼び捨てようとしてもなかなか出来ない。




私の声は、出入り口のシャッターが閉まったビルの壁に反響した。

阪野さんらしき後姿がぴたりと止まり、動かなくなった。

振り返る事をしない彼女を見て、私は一気に距離を詰めた。


僅かに肩が震えているように見えたが、構わず私は倒れこむように両手で彼女の両肩を掴んだ。




「…ホンっト…足長いんだから…追いつけないじゃないですか…やっと追いついた…!」


もしも、阪野さんが走ってしまったら、私は絶対に追いつけなかっただろう。

阪野さんが立ち止まってくれたから…追いつけたのだ。

それだけ、私の身体の疲労は限界に達していた。


「何言ってるのよ…水島さん」



そう言って、阪野さんは私の手にそっと触れた。




「・・・貴女の方が足が早いんだから、捕まえてくれなきゃ。」



阪野さんの表情は、いつもの微笑みとは違っていて、力が入ってなくて安心感でいっぱいの緩い微笑だった。





・・・エロく、ない・・・!?






「…どうかしたの?水島さん。」



阪野さんがエロくない事なんてなかったので、思わず違和感を感じた、とは言えないが…。








 → 「いやぁ…なんかエロくないと阪野さんって感じしませんよね〜偽物かと思いました。」と正直に言う


 → 「い、いえ、な、なんでも無いです!」と本音を無理矢理隠す。


 → 「そんな事より、ジャケットを返しに来たのですが」と本題に入る。