アイリス: | えーと、今回はお兄ちゃんにこんな質問がきていまーす。レニ、「ひだりきき」ってなに? |
レニ: | ……人間が筆記、投擲などの動作を行う際、個体により左右の手どちらかで行うことが効率的であるように脳の構造上なっており…… |
アイリス: | ??? |
織姫: | Oh!レ〜二! アイリスにそんな説明の仕方したって馬の耳に念仏でーす。馬耳東風、人間万事塞翁が馬でーす。 |
レニ: | ……。 |
アイリス: | もーっ、織姫も何言ってるかわかんなーい! |
織姫: | ソーリィでーす。左利きっていうのは字を書いたり、オハーシを持ったりするとき、左手でするのが好きな人のことでーす。 |
レニ: | ……好きって…… おおざっぱ過ぎるよ。 |
アイリス: | えーっ? オハシ持つのがちがうひとがいるのぉ? えーと、えーと、たしか右ってdroiteのことでー、左がgaucheだったよね? あれ? 右ってオハシ持つ方の手だから、「ひだりきき」のひとってgaucheが右になっちゃうの? |
織姫: | ……何を言ってるのかさっぱりわからないでーす。 |
アイリス: | でもでも、カンナが「ハシ持つ方の手が右だぜ」って。 |
織姫: | 超カンナさんらしい教え方でーす。 |
アイリス: | だからー、「ひだりきき」のひとは左でオハシ持つんだから左が右になってー、左がgaucheでー……??? |
レニ: | アイリスちがうよ。右がdroiteで左がgauche、これは変わらない。「ひだりきき」は左=gaucheでハシを使うひとのことであって、ハシを使う手によって左と右が逆転するわけでは…… |
アイリス: | ??? |
織姫: | きーっ、そーゆーあたーまのこんぐらかるよーな理屈っぽいハナシはやめてくださーい! こーれだからドイツ人は…… |
レニ: | ……織姫ってつくづく理性より感性のひとだね。 |
織姫: | 私に理性がないとでもゆーのですかー? |
レニ: | そんなことは……言ってない。 |
織姫: | 「……」には「口にだしては」が入るですか?! |
アイリス: | 織姫もレニも仲良くしてよー。もういいや。「ひだりきき」ってmain gaucheでオハシ持つひとのことだよね? |
レニ: | ……そう。 |
織姫: | それで間違いないでーす。 |
アイリス: | アイリス、そんなひと見たことないけどなー。 |
織姫: | 日本人には少ないようですねー。左利きは芸術的才能に恵まれた人に多いっていいまーす。イタリーの誇るレオナルド・ダ・ヴィンチは左利きだったそうでーす。 |
レニ: | 日本の天才彫刻家、ジンゴローという人も左利きだったらしいよ。 |
アイリス: | ふーん。じゃあ、お兄ちゃんも「げーじゅつてきさいのー」があるのかな? |
織姫: | ありえませーん。 |
アイリス: | ぶーっ。いいもん、お兄ちゃんにちょくせつ聞きに行こ! じゃ、花組・年少組、しゅっぱーつ! |
織姫: | ……このメンバー構成はそういうことだったですか?! 華麗なるヨーロッパトリオでなかったですかー?! |
アイリス: | いいじゃない、若いもんは若いもんどうし。 |
織姫: | ……どこでそんな言い方覚えてくるですか……。 |
レニ: | アイリス、その言葉、ちょっと使い方違うよ。 |
アイリス: | そお? あっ、ひょっとして織姫、年少組って名前が気に入らないの? じゃ……花組ジュニア? |
織姫: | ……。 |
アイリス: | 花組カミセン? |
織姫: | ……も、いいでーす。少尉さんとこ、とっとと行きましょう。 |
| |
アイリス: | お・に・い・ちゃん! |
大神: | おっ、アイリス、何か用かい? レニと織姫くんも一緒か。レニはともかく、織姫くんが一緒なのは珍しいね。 |
織姫: | ……どうせ年少さんでーす……そのうちすみれさんも入れてやるでーす……。 |
大神: | (ア、アイリス、なんか織姫くん様子がおかしいけど……) |
アイリス: | アイリスしらなーい。 |
大神: | そ、そうか。で、何か用なのかな? |
アイリス: | うん! アイリス聞きたいことがあるの。お兄ちゃんって「ひだりきき」なの? |
大神: | えっ、ちがうよ。右利きだよ。 |
アイリス: | ……。 |
織姫: | ……。 |
レニ: | ……任務完了。 |
大神: | な、なんでみんなそんな目で見るの? |
織姫: | 今までの長いマエフリはなんだったですかー?! 話がちっともふくらまないじゃないですかー。 |
レニ: | ……織姫こそそんな言いまわしどこで覚えてくるの。 |
大神: | そ、そんなこと言われても……。だいたい、俺が左利きだなんて、どこからそんな話がでてきたんだい? 拳銃を撃つときも、カンナとメシを食うときも、全部右手じゃないか。 |
アイリス: | そういえばそうだよね。なんでこんな質問が来たのかなあ? |
レニ: | ……Erster…サクラ1での再訓練中、左で拳銃を撃っている。……Zweiter…サクラ2終盤のアイキャッチで右手に刀のさやを持って
いる。 |
織姫: | さすがレーニ。ちゃんと情報を把握してまーす。 |
大神: | ああ、そういう理由か。まず一つ目だけどあれはわざと左で撃ってたんだ。 |
アイリス: | ? なんで? |
レニ: | ……バリケードの右側から撃つ場合、左手ならほぼ全身を隠したまま撃つことができる。左と右どちらでも撃てた方が戦術的に有利だ。 |
大神: | そういう話を聞いたことはある。たしかアメリカ市警察で叩き込まれる防御射撃法で、バリケード・ポジションっていうらしいね。ただ、俺が左手で撃ってたのは、一種のコンセントレーション訓練だ。 |
アイリス: | こんせんとれーしょん? |
大神: | うん、集中力のこと。だいたいさ、俺の霊子甲冑の装備は刀だよ? 射撃の訓練は技術的にはあまり意味がないんだ。 |
レニ: | そういえばそうだね。 |
大神: | だから、あれはあくまでも霊力を研ぎ澄ますための訓練だったんだ。で、霊力っていうのは多分に右脳の支配下にある能力だから、左手を使ったコンセントレーション訓練が効果的なんだ。 |
織姫: | 思ったよりいろいろ考えてるですねー。見直しましたー。 |
大神: | そ、そうかい?(ちくしょう、海軍士官学校主席卒業を捕まえてなんて言い草だ。) |
アイリス: | じゃあ、刀のさやの話は? |
大神: | あの左手で画面右上を指しているポーズのことだね。あれを左手にさやを持って、右手で指したら、後ろ向きになるか、顔が肩越しになっちゃうじゃないか。 |
織姫: | ……それだけですかー? |
レニ: | ……それは左上を指差すか、ポーズ自体を変えればすむことじゃない? |
大神: | な、な、なんてことをいうんだ! あの右上を指し示すポーズは我が海軍士官学校志願者募集ポスター伝統
のポーズなんだぞ! |
織&ア&レ: | ……は? |
大神: | 海軍士官学校の卒業生にとって、あのポスターにあのポーズでのることは一大名誉! 右上に燦然と輝く「来れ若人」の力強いレタリング! ああ、まさに全海兵憧れの的! |
織&ア&レ: | ……。 |
大神: | いやあ、うれしかったなあ、あの撮影は。あのポスターにあのポーズで写ることを夢見て士官学校に入ったのに、配属が秘密部隊だろう? 表には立てない立場だから、もうチャンスはないものとあきらめていたんだ。ポスターは無理だったけど、思わぬところで夢がかなったよ! はっはっはっはっ。 |
織&ア&レ: | ………。 |
レニ: | ……よかったね、隊長……。 |
織姫: | ……やっぱり免許皆伝級のノーテンキ男でーす。 |
アイリス: | アイリス、お部屋でお昼寝しようかな……。 |
大神: | ? どうしたんだい、みんな。急に気力が下がったようだけど。 |
織姫: | なんでもないでーす。少尉さんこそ長生きしてくださーい。 |
大神: | ありがとう。 |
レニ: | …隊長、ボクたちはこれで。 |
大神: | あ、ちょっと待って。もちろん俺は左利きの要素がないわけじゃないんだよ。 |
アイリス: | え? そーなの? |
大神: | いやだなあ、みんな俺の戦闘スタイルをよく考えてみてくれよ。 |
レニ: | ……そうか。 |
織姫: | そういえば、そうですねー。 |
アイリス: | なになに、アイリスわかんなーい。 |
レニ: | 隊長は刀を1本ずつ、右と左に持つ戦闘スタイルだ。 |
織姫: | 左を右に近いくらい器用に使いこなせる能力無しには、できないスタイルでーす。 |
大神: | そういうこと。 |
アイリス: | あーっ、アイリス聞いたことある。お兄ちゃんみたいにかたな2本持って戦うひとのことなんていうんだったかなあ……えーっと…えーっと… |
大神: | ああ、二刀りゅ…… |
アイリス: | 思い出した! 「りょうとうづかい」っていうんだよねー。 |
大神: | いいっ?! |
アイリス: | ? ちがうの? |
大神: | い、いや、合ってはいるんだけど……そのなんというか……それだけではすまないような…… (どどどうしよう、その言葉にはもう一つ下品な意味もあると教えるべきなんだろうか? ……でもどうやって説明すれば……? ) |
織姫: | へーっ、私もその言葉聞くの初めてでーす。アイリスけっこう勉強してるでーす。 |
レニ: | アイリス、やるね。 |
アイリス: | えへへー。 |
大神: | (ああっ、こうしている間にも事態は修正のきかないところまで……。) あの、アイリスさん? その言葉は一体どこで……? |
アイリス: | んーとね、バラ組のおにいさんたち! あれ、おねえさんかな? |
大神: | ぐわーん!(ぱっぱらぱっぱっぱー) |
アイリス: | お兄ちゃんのお話してるときに、斧彦さんが目キラキラさせながら教えてくれたんだよー。 |
織姫: | あの人たちはけっこーインテリかもしれませんねー。 |
大神: | (まままずい。なにがまずいんだかよく分からないけど、このまま事態を推移させると非常にまずいことになる予感が、俺の全霊力にビンビンと感じられるっ) あああのね、アイリス(いかん、思わず栃木なまりがでてしまった。なにを動揺してる落ち着け大神一郎!) そういう時は、その、両刀使いじゃなくて二刀りゅ……。 |
アイリス: | あーっ、さくらたちだあーっ。おかえりーっ。 |
大神: | いいっ?!(まままままずい、なぜだかわからないがとってもまずい気がするっ) |
さくら: | うふふ、ただいま。 |
カンナ: | お、アイリスにレニに織姫。おや隊長まで一緒かい。 |
紅蘭: | なんや、楽しそうやなー。 |
すみれ: | おそろいで何の話をしてらしたんですの? |
大神: | い、いや、たいしたことじゃないんだ。ちょっとアイリスたちがひだりき…… |
アイリス: | んーとねー、お兄ちゃんが「りょーとーづかい」だってバラ組のおにいさんたちが言ってたってはなしー!! |
さ&カ& 紅&す: | ……!!! |
大神: | なっ、ちょっ、まっ、ちがっ!! |
アイリス: | ? …なんでさくらたち赤くなってんの? へんなのー? |
さくら: | ☆○%〜#¥?! |
カンナ: | 隊長……。 |
紅蘭: | 大神はん……。 |
すみれ: | 少尉……。 |
大神: | ちちち、ちょっとまっ…… |
紅蘭: | な、なあ、アイリス? その、り、両刀使いいうんは…… |
アイリス: | うん、お兄ちゃんってdroiteでもgaucheでも大丈夫なんだってーっ。どっちでするのも好きなんだってーっ。すごいよねー。 |
大神: | なっ、なんで肝心の部分がフランス語……!! |
さくら: | (泥板とゴザ? 泥板とゴザ? た、たぶん一方が「おんな」で、もう一方が「おとこ」ってことねっ。ああっ、なんてことっ!!) |
カ&紅&す: | …………。 |
大神: | ききき君たちは、なななななにか、ごごごご誤解を…… |
アイリス: | お兄ちゃんどっちもおんなじように上手にできるんだよねーっ。アイリスたちにはできないもん、そんけーしちゃう!! |
織姫: | ひょっとすると少尉さんには、芸術的才能が隠されてるのかもしれませんねー。 |
レニ: | ……両方可能なら、いざというとき役にたつだろうね。 |
さ&カ& 紅&す: | …………!! |
さくら: | (そうなの? ヨーロッパってそうなのっ?!) |
すみれ: | あ、あなたがたヨーロッパの方はなんとも思わないのかもしれませんけど、ににに日本では、そその、両方なさるというのは、ああ、あまり感心なことでは、あ、ありませんわっ。 |
織姫: | そーなんですかー?ハッ、そんなこと言ってるから日本には偉大な芸術家が育たないでーす。 |
カンナ: | た、たしかに芸術家にはその、なんだ、い、いろんなことが必要かもしれないけどよ、隊長は戦術指揮官だ、そ、そんなの必要ないだろ? |
レニ: | ……いや、どちらにも対応できた方が戦術的にも有利だ。 |
紅蘭: | ……レニまであんなこと言うとる……西洋と東洋の間にはこないに大きな壁があったんか……ウチ、ショックや……カルチャーショックや……。 |
ア&レ&織: | ??? |
カンナ: | 隊長……。 |
紅蘭: | 大神はん……。 |
すみれ: | 少尉……。 |
大神: | ま、待て、待ってくれ君たち、勝手にモーソーだけを突っ走らせないでくれ! |
紅蘭: | ……そういや、思い当たる節がないでもないなあ…… |
大神: | 人の言ってることを聞いてるかっ?! |
紅蘭: | ……大神はん……最近妙に薔薇組の部屋に出入りしてはりましたなあ……。 |
大神: | ちょっと待て! |
カンナ: | 男っぽい女が好き、なんて言ってたよなあ……あれはどっちでもいいってことだったのか……。 |
大神: | 待ってくれ! |
すみれ: | ……夜、少尉の部屋から殿方との話し声が聞こえてくることがございましたわ……。 |
大神: | 待てというのにっ! |
さくら: | ……大神さん。 |
大神: | はっ、さくらくん?! (しまった!そういえばさっきから妙に静かだった! この娘は静かな時が一番危ないんだったっ!) |
さくら: | 大神さん、レニが女の子って知る前から、いっつも「かばう」かけてた…… |
大神: | いや、レニは序盤信頼度を上げにくいから……ってそういう問題じゃなくて! 待て! 話せば分かるさくらくん! |
さくら: | あたしの方が直接攻撃ユニットなのに……あたしの方が防御力低いのにぃーっ!!!!あーん!!!(ち
ゃきっ) |
大神: | わーっ、さくらくん、おちついてくれーっ! あっ、(ちゃきっ)ってなんだ、(ちゃきっ)って! や、やめるんださくらくん! 君と俺とはいっしょに二剣二刀の儀式をした仲じゃないか! |
さくら: | 破邪剣征…… |
大神: | どわーっ! なんで何とかしてくれそうなマリアだけここにいないんだーっ! |
その頃マリアは書庫で「両刀使い」の裏の意味を調べ、ひとり赤面していた。 |