(紅蘭とのデート後、帝劇にて) | |
紅蘭: | 大神はん、堪忍やで。 |
大神: | もういいよ。大丈夫だから。 |
カンナ: | 隊長! どうしたんだ? |
紅蘭: | 今日、ウチの発明した豪快號のテストにつきおうてもろたんやけど、ご覧のとおり、乗り物酔いしたんや。 |
カンナ: | なっさけね〜な〜隊長。あたいが隊長の部屋まで連れってってやるよ。 |
紅蘭: | おおきに。助かるわ。 |
カンナ: | まかせとけって。 |
(そのころ、帝劇の中庭では) | |
かえで: | 加山君。今、大神君がフラフラになって帰ってきたけどあれは? |
加山: | 紅蘭の発明した「暴走列車・豪快號」に乗った後にあの状態になったようです。 |
かえで: | ああ、あの花やしきの新しい乗り物ね。3日前に私も乗ったけど、あれ結構楽しかったわよ。 |
加山: | え? 副司令がですか? |
かえで: | 安全性のチェックのための試乗よ。それより、変なのは大神君ね。轟雷號での出動、轟雷號からの光武・改の射出、空中戰艦ミカサの発射等、ありとあらゆるGに耐えられる大神君がどうしてあんなにフラフラに? |
加山: | 実は紅蘭の発明した「恋愛増強剤」のドーピングテストによる影響だと思われます。帝劇を出る前に飲んだ烏龍茶に混ぜてあったようです。 |
かえで: | 恋愛増強剤? |
加山: | はい。事の起こりは夏休みの旅行の直前、医務室で大神がさくらに「惚れ薬が欲しい」と言ったのを、光武・改の整備が終わってロッカールームに行こうとした紅蘭が立ち聞きしたのが始まりです。 |
かえで: | そう。で、その薬の効果はどうなの? |
加山: | 大神は遊具の故障中に紅蘭とキスをしています。ただ、ドーピングしなくても現在の紅蘭との恋愛度から考えるとキスをする事ぐらいは起こる事も考えられますので、効果があったというのは疑わしいです。 |
かえで: | しかも、この副作用では使い物にならないわね。 |
加山: | おそらく。 |
かえで: | このことを米田司令に報告しても大丈夫かしら。 |
加山: | 米田司令のことだから、薬を欲しがるかもしれません。ここはやはり乗り物酔いで処理した方がいいと思われます。 |
かえで: | 古人曰く、「嘘も方便」ね。 |
加山: | 副司令。それは私のせりふです。 |
(そして、紅蘭の部屋では懲りずに発明が続くのであった・・・) | |
紅蘭: | おっかし〜な〜。もう少し大神はんが大胆になってもいいんやけどな〜。フェロモン抽出物質が足らんかったんやろか〜。それにあの乗り物酔い。そや! 酔い止めにスコポラミン入れてみよ。 |
大神: | やあ、レニに織姫くん、よく来てくれたね。 |
レニ: | ……隊長、何か用? |
織姫: | 少尉さんと違ってわたしは忙しいんでーす。早く用を言ってくださーい。 |
大神: | ……いきなりこの仕打ちか……。 |
マリア: | 隊長、しっかりしてください。 |
織姫: | ? めーずらしいですね、今日はマリアさんが相方なんですかー? |
マリア: | 相方って……あいかわらずどこで仕入れてくるのかわからない日本語を使うわね、織姫。 |
レニ: | ……その単語は紅蘭が使っていた。 |
大神: | ……なるほど。 |
レニ: | ……それで、何か用? |
大神: | ……。 |
マリア: | 隊長、いちいち傷つかないでください。 |
大神: | でも、マリア……。 |
マリア: | わかりました、そのことについては後でゆっくりうかがいますから、今は話を進めましょう。 今日二人を呼んだのは、あなたたちの名前についてちょっと聞いてみようと思ったからなのよ。 |
織姫: | 名前ー? わたしの華麗で優雅な名前についてですかー? |
マリア: | ……いろいろ言いたい事はあるけど、とりあえず、そうよ。 |
レニ: | ……それはいいけど、隊長むこうで「一人大富豪」を始めたよ。ほっといていいの? |
マリア: | 今はそっとしておきましょう。 |
織姫: | 問題ナッシングでーす。 |
レニ: | ……そう。 |
マリア: | さて、元星組のあなたたちの名前が、星にちなんだものだって事は有名な話よね。 |
織姫: | そうでーす。レニの姓ミルヒシュトラーセは、わたしが第2話でジキジキに説明しているように、ミルクの道、英語でいうとミルキーウェイ、つまり天の川、銀河ってことでーす。 |
マリア: | そうね、なかなかきれいなファミリーネームだわ。 |
レニ: | ……そう? じゃ、喜んどく。 |
マリア: | 日本の人にはなぜ星の密集してる様を見て、ミルクを連想するかわからないかもしれないわね。おそらくこれは聖書の中の、約束の地を描写する記述、「蜜と乳の流れるところ」というのと関連しているのではないか、と考えられるわ。 |
レニ: | …天…天国…楽園…乳の流れるところ…ミルヒシュトラーセ…ということだね。 |
織姫: | ミルクなんかが流れてたら、なんか臭そうでーす。 |
マリア: | あなた本当にイタリア人? 敬虔なカトリックの多いあの国のスターの発言とは思えないわ……。 |
織姫: | ほっといてくださーい。 |
レニ: | …織姫の名前はそのまま織女星を表している。 |
織姫: | そうでーす。そしてわたしがイヌにつける名前アルタイルは、彦星・牽牛星のヨーロッパでの呼び名でーす。 |
マリア: | で、織女星のヨーロッパでの呼び名は…… |
大神: | ベガっていうんだよなー。よーベガ、こんなところにいてシャドルーは大丈夫なのかい? ボロボロの空手着を着たやつが君を探してたぞ。あ、サイコクラッシャーでケズるのはかんべんしてくれ! |
織姫: | ……いきなり戻ってきて、なに訳わからない事を言ってるですか。 |
大神: | ふっ、いいのさ。どうせ俺はこういう場ではいじめられ役であることは承知してるよ。俺は俺で勝手にやるから気にしないでくれ。 |
マリア: | 屈折した納得の仕方をしてないで、隊長もちゃんと話に加わってください。 |
レニ: | ……まだ話があるの? |
織姫: | そうでーす。終わりじゃないんですかー? |
マリア: | そうね、大抵の名前分析ではここで終わってるわね。でも、私はもう一歩進められると思っているのよ。 |
大神: | うんうん。 |
レニ: | ……どういうこと? |
マリア: | 私たち花組の名前は、姓あるいは名のどちらかだけが花の名前よね。星組も当然そうであろう、と予測されるから、分析するときレニの姓、織姫の名を分析するだけで満足してしまうわね。 |
大神: | そうそう。 |
織姫: | まだなにかあるんですかー? |
マリア: | ええ、あなたたちの場合は姓と名どちらもが星にちなんだものじゃないか、と思うの。つまりレニという名、ソレッタという姓も星にちなんだものだってことよ。 |
大神: | やんややんや。 |
レニ: | …………。 |
織姫: | ……少尉さーん、さっきから調子のいい合いの手しか入れてませんけど…… |
大神: | いいっ?!いや、あの、これは、マ、マリアの邪魔をしちゃ悪いから…… |
織姫: | …ははーん、読めました。 |
大神: | な、なにがだい? |
織姫: | さっきはマリアさんが相方なのかって言いましたけどー、実は今回、少尉さんアシスタントに過ぎませんねー? |
大神: | (ギクッ)な、なんのことだか…… |
織姫: | こういう知的な話のシンコーは少尉さんには務まらないんで、メイン司会から降ろされましたねー? |
大神: | ぐっ…… |
織姫: | そしてマリアさんが考えたことを聞いて、意味も分からずうなずく役にまわされましたね?! さあ、どうです少尉さーん!! |
マリア: | ……織姫、あんまり隊長をいじめてはだめよ。 |
織姫: | ふっ、人を悪の組織のボス呼ばわりした罰でーす。 それより話の続きをしましょー。 |
レニ: | ……隊長むこうで泣きながらニンジン切ってるけど、いいの? |
マリア: | あとでボルシチにいれるから、いいわ。 |
レニ: | …そう。 |
織姫: | それより話の続きでーす。なんだかキョーミわいてきましたー。 |
マリア: | そう言ってもらえるとうれしいわ。じゃ、続けましょうか。 今回新たに加わったあなたたち二人は、あらゆる意味で対を成しているんじゃないか、と私は考えているの。 |
レニ: | …対?ボクと織姫が? |
織姫: | なーんか嫌そうですねー、レーニ? |
レニ: | ……別に。 |
マリア: | つまりね、性格的にみればゲルマンの沈毅とラテンの陽気。冷徹と激情。理性と感情に静と動。抱えていた問題も、家族を持たない孤独と家族に対する激しい愛憎。どう? |
織姫: | それは確かにそうかもしれませんねー。 |
レニ: | ……うん。 |
マリア: | そしてあなたたちが私たち元からの花組以上に強調されているのが、イメージカラーね。赤(イタリアン・ローズ)と青(ナイト・ブルー)よ。ここでも対になっているといえるわ。 |
織姫: | ふんふん。 |
マリア: | ここであなたたちがどんな意味での対になっているか、と考えてみると、ぴたりと当てはまる言葉が日本にはあるわ。陰と陽よ。 |
レニ: | ……なるほど。 |
マリア: | 陰と陽という考え方は私たちの敵であった黒鬼会の「五行」とも関係あるんだけど、まあそれはいいわ。陰と陽を具体的なものとして捉えてみるなら、闇と光、夜と昼、そして月と太陽。 |
織姫: | Oh!そーいえばレニの曲は「夜」がテーマでーす。そしてそれ以上にレニのシンボルは…… |
レニ: | …月、だ。 |
マリア: | そう。「ダス・ラインゴルト」のときのシンボル。ユニット行動開始のときの特殊効果。ヒロイン決定前夜、踊るレニの背に輝くもの。すべて月だわ。 |
織姫: | なるほどー。さすがはマリアさんでーす。 ……あれ?レニのシンボルが月だっていうのは納得しましたけど、名前の話をしてたんじゃありませんでしたかー? |
マリア: | そうよ。じゃ、レニのシンボルが月だということを念頭において、「レニ」という名前をよく吟味してみて。なにか思い浮かばないかしら? |
織姫: | レニ、レニ、レニ、レニ……ああ! |
レニ: | ……ルナ、だ。 |
大神: | そう、ルナだ!!ひたいに三日月ハゲのある黒ネコだ!!なに、ちがう?!じゃ「アレース!」「ルーナ!!」これでどうだ?!これもちがうっていうのか?!ガッデーム!邪魔したなっ!! |
マ&織&レ: | …………。 |
マリア: | 隊長……。 |
織姫: | …なんだかキャラが変わってきてまーす。 |
レニ: | ……今度は一人で「こいこい」をやってるよ。あ、ベッドの上でポーズをとっている。どういう意味だろう? |
マリア: | ……機会があったら紅蘭に聞いてみるわ。 とりあえず話を先に進めましょう。 |
織姫: | えーと、レニとルナの関係でしたねー? |
マリア: | そう、Lunaはローマ神話の月の女神であり、ヨーロッパの言語の源流であるラテン語で「月」を表す言葉よ。 さて、レニという名前だけど、これはドイツ語の表記ではLeni。女性の名前Lena(レナ)の愛称らしいわ。ね、この時点でもルナにかなり近いでしょう? |
織姫: | ふむふむ。 |
マリア: | で、Lenaという名前だけど、これもさらにほかの名前の愛称なんだそうよ。一般的にはHellenaやMagdalenaの略称ってことね。つまり、最後の部分をとってるわけ。「若草物語」の三女、エリザベスがベスと呼ばれているのと同じね。 |
レニ: | …じゃあボクの名前も何かを略したものなの? |
マリア: | 恐らくは。ここで考えられるのは、ローマ神話としばしば同一視されるギリシャ神話における月の女神Selene。つまりLunaとほぼ同じ女神様ね。レニの正式な名前はこの女神様と同じ名前のSelene、あるいは派生した名前Selenaなんじゃないかっていうのが私の仮説よ。 |
織姫: | ふーん、Selena、セレナですかー。かわいい名前ですねー。ねーセレナー? |
レニ: | ……やめてよ。 |
織姫: | あっ、レニ、赤くなってるでーす。面白いでーす。あとでみんなにも教えて、セレナって呼ぶようにさせましょー。 |
マリア: | ……織姫、あなた、ひょっとしていじめっ子? |
織姫: | 「イジメッコ」?なんですか?その言葉わかりませーん。 |
マリア: | ほんとかしら。 まあいいわ。つぎは織姫、あなたのファミリーネームである「ソレッタ」について、ね。 |
織姫: | Oh! すっかり忘れてましたー。 |
マリア: | レニとあなたが陰と陽をなし、レニが月をシンボルに持つのであれば、当然あなたのシンボルは…… |
レニ: | …太陽、だね。 |
マリア: | その通り。織姫、あなたイタリア音楽界では「太陽の娘」って呼ばれてたわね。そして太陽を表すイタリア語は…… |
織姫: | なるほど! Soleですねー? |
マリア: | そう、Sole。これもLunaと同じく元はラテン語で、Solはローマ神話における太陽の神のことよ。ちなみに「太陽の」を表すのはsolare。英語でいえばソーラー。ソーラー発電、ソーラー電池でおなじみね。 織姫の姓「Soletta」はこのSoleを語源とする姓だ、と私は考えているのよ。イメージカラーの赤ともぴったり符合するわ。 |
織姫: | イタリアで華麗で優美な「赤い貴族」として名高い我がソレッタ家は、つーまり「太陽の一族」というわけですねー? |
マリア: | ……いろいろ言いたい事はあるけど、とりあえず、そうよ。 |
織姫: | ふーむ、さすが花組の学級委員かつ図書委員のマリアさんでーす。博学ですねー。 |
マリア: | …だれが図書委員よ。 まとめてみるとレニの名前は月を、織姫の姓ソレッタは太陽を表し、二人の姓・名はどちらも星にちなんだものになるってことね。 |
織姫: | いやー、感心しましたー。さすが、ルノワールを「軟派だ」なんて言い切る少尉さんとはちがいまーす。ねー、少尉さん? …少尉さん? あれ?いつのまにかいなくなってるでーす。どーこいっちゃったんでしょー? |
マリア: | ほんとだわ。どうしたのかしら。 |
レニ: | …隊長なら中庭で、刀持ってカラスと死闘を演じてるよ。見る? |
マリア: | ……やめとくわ。 久しぶりに長々としゃべって、喉がかわいてしまったわ。ふたりともお茶でも飲まない? |
織姫: | 賛成でーす。 |
レニ: | …了解。 |
| |
中庭にて | |
カラス: | カアーッ!カアーッ!カアーッ! |
大神: | 狼虎滅却…… |
カラス: | ガアーッ!ガアーッ!ガアーッ! |
大神: | いでっ!いでででっ! んのやろーっ!!! 快刀乱麻! 無双天威! 天地一矢! 三刃成虎! 天狼転化ーっ! |
カラス: | グガアーッ!グガアーッ!グガアーッ! |
大神: | くぬやろ、くぬやろ、くぬやろーっ! メイン司会は俺だーっ!!! |