小咄



其の五 『……なんだ、バランサーがいかれているのか?』(シーマ艦隊の一パイロット)

 実の所、結局はゲームデザイナー側のリアリティというものも、ある意味ではブラウン管の中の存

在同様の『幻想』なのであり、本物の戦場を演出出来ているわけではない。ただ、ゲーム世界では、

ブラウン管の中でやっているものとは違う演出の仕方が存在するのであり、こちらではそれを追求さ

せていただこうというのがこのシステムでの基本的な発想にあるわけである。

 偉そうなことを書いているが、もちろん、実際に出しているルールやデータがそれに見合うだけの

リアリティを醸し出しているとまでは自惚れているわけではない。リアリティを追求するには、ゲー

ムバランスの調整やプレイアビリティの調整などという恐ろしく手間のかかる作業が要求されるので

あり、現実にそれを行うだけの時間を投入しているわけではない以上、何とも言えないところである。

 ここにはブラウン管とゲーム世界との間で生じるギャップとはまた異なる問題が存在しており、こ

れの退治はこのゲームに限らず、およそゲームと名の付くものには全てつきまとってくる問題であり、

今の所、退治方法はとにかく手間暇を掛けてやることだけなのである。



其の六 『……戦艦の主砲並か!』(シャア=アズナブル)

 ゲームバランス問題の一例として、ビームライフルを挙げよう。

 この武器は戦艦の主砲並の威力があるという設定がある。故にこれを装備したガンダムが異様に強

いわけであり、ある意味ではガンダム世界を支えている根幹の設定の一つであるとも言える。

 さて、「0083」でGP01が、シーマのゲルググのビームライフルを何発も直撃を喰らうシー

ンがある。シーマ様の「落ちないんだよっ」で有名なシーンである。

 では、GP01は戦艦の主砲を何発も喰らったことになるのか?

 イエスと答えるしかあるまい。ノーと言ったのでは世界が崩壊する。ビームマシンガンの連射だっ

たから威力が弱かったとか、実はあれは直撃ではなかったとかいう言い訳は通用しないのである。ま

あ、戦艦の主砲を第二次大戦頃の40cmや46cmのあれと同一視するから問題が生じるのであって、

この世界では、相対的にそれほど威力がないと考えればいい。威力がないといっても、腐っても鯛で

ある。直撃を受けてクリティカルでもすれば、ザクの一機や二機は灰になる。

 そのようにして、ガンダムのビームライフルの威力を中心に、武器のダメージの評価を行えばいい。

基本的に実体弾兵器も同様にして算出できる。

 しかし、そうすると次の問題が生じるのである。シールドと装甲だ。



其の七 『ばりあーっ!』(勢い良く、松本保典調で)

 ガンダム世界におけるシールドの扱いは、そう立派なものではない。MGならともかく、バズーカ

クラスになるとシャレ程度の防御力しか示さず、BRクラスになると紙も同然の有様である。装甲に

ついても同様で、重装甲であるはずのドムもBR相手では一撃で成仏している。BRでその程度なの

で、戦艦の主砲を喰らったMSが耐えられるはずもないということは容易に納得が出来るだろう。主

役のMSが丈夫であるのはTV世界ではお約束だが、それでも戦艦の主砲の直撃を受けても大丈夫と

いうことはない。つまり、直撃を受けないようにするのが主人公特権ということである。


其の八 『大前提「青い空」・小前提「白い雲」・結論「そのうち何とかなるだろう」』

 このことは先程に述べたGP01の耐久力と比べるとはなはだ矛盾を感じさせる。そもそもシール

ドにはまともな防御効果はあるのか?それを設定するとGP01の防御力についてもとりあえずの説

明は付く。つまり、設定に矛盾があるということである。簡単な三段論法を考えるとよい。

一つ目は「ビーム兵器の威力は大きい」・「シールドの効果はビーム兵器を防御できない」・「シールドは無意味」。
二つ目は「GP01の装甲はビームライフルの直撃に耐えた」・「シールドと装甲はほぼ同素材である」・「シールドは有効」。

さて、どちらが正しい?

 この論法で、前者の方が抽象的であることに気付かれたことだろう(気付かなかった?じゃ、今気

付いてもらえばいい)。

 では前者がおかしいかと言うとそうも言い切れない。設定はそうなっているし、現にガンダムのビ

ームライフルは一撃でザコMSを葬っている。要するに矛盾しているわけだ。完全に一貫した論理の

中で成立している話ではない以上、やむを得ないことである。では、その矛盾を切り捨てるか、それ

とも取り込むか?

 切り捨てるのはもったいないだろう。貧乏性のデザイナーゆえ、ここでは後者を選ぶことにする。


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