「スーパーロボット大戦 −The First War−」
第二話「前哨戦」
一六:二三 日本地区群馬県高崎市南部
浅間山の南東部、高崎市のちょうど南にそれは落下した。大音響とともに掘り返された
土砂は、周辺を夕方から夜に変えた。
大方の予想より落下が早かったのは、それ自体が加速したからである。早乙女博士の予
想通りそれは隕石などではなかった。多少視界が開けてきた頃、それは雄叫びをあげて動
き出した。
「ギィヤァオゥー!!」
現場に真っ先に到着したのは、訓練の途中だったゲッターチームであった。彼らが発見
したそれは、隕石などではなく、生物だった。一見、巨大なトカゲのようだが、その胴体
からは節足動物のような足を六本生やしていた。その奇怪な姿に驚愕する三人。
「何だ、ありゃ?」
「まるで怪獣だな」
「どうしますか? 博士」
三者三様の反応を示す。だが、そんな三人の困惑にお構いなく、生物は行動を開始した、
高崎市に向かって。
「まずい! 奴は市街地に向かってる。攻撃許可をくれ、博士」
「その前に呼びかけてみたまえ。何か反応を示すかもしれん」
「了〜解。おい、そこのトカゲ野郎! そっちは地球人の市街地なんだ。攻撃の意志がな
いのなら、そこで止まりやがれ! 止まらねえと攻撃するぞ!!」
竜馬が、イーグル号からマイクで呼びかける。
「おいおい。そんな好戦的な呼びかけだと攻撃してくるかも知れねえぞ」
ため息混じりに隼人が言う。だが、“トカゲ野郎”は呼びかけには何の反応も見せず、
その歩みを止める気配もなかった。もう市街地は、目と鼻の先だった。
「駄目です。何の反応もありません。攻撃許可を、博士!」
「致し方ない。だが、市街地への侵入を防ぐのが目的だ。追っつけ連邦軍もやってくる。
それまで持ちこたえてくれ」
「連邦軍が来る前に片をつけてやるぜ。隼人、武蔵、ゲッター1で攻撃するぞ!」
「待て、リョウ。ゲッター3で止めた方が早い!」
「そんなことを言ってる場合か。敵の力が分からない。まず、ゲッター1で様子見だ」
「ちぇ、了解」
三機のマシンが直列に並び、一瞬のうちにロボットに変形した。無茶とも思える合体、
変形だが、これが、ゲッター合金と呼ばれる一種の記憶形状合金の能力だった。
「こいつはどうだ!」
様子見に、手にしたトマホークを敵に投げつけるゲッター1だったが、硬い表皮にはじ
かれてしまい、ゲッターロボのパワーをもってしても、ほとんどダメージを与えることが
できなかったようだ。だが、怪物はこちらを敵と認識したようだった。
「ちっ、何て堅さだ。ほとんど効いてねえ」
「リョウ、ゲッタービームだ!」
「よおし、ゲッターロボの力を見せてやる。くらえ!!」
ゲッターロボの腹部から、かつて爬虫類を滅ぼし、人類の進化を促した、とも言われる
ゲッター線を使用したビームが照射された。ゲッター1最大の攻撃に、さすがの怪物も大
きなダメージを受けたようだった。硬い表皮は焼けただれ、のたうち回り苦しんでいた。
「よし、効いてるぞ!」
「リョウ、もう一度、ゲッタービームだ!」
「まかせとけ! ゲッタービィ、うわっ!」
再びゲッタービームを使おうとしたその瞬間、怪物はゲッターに向かって、口から怪光
線を吐き出した。かわそうとしたが、ゲッタービームを撃つ体勢だったので、反応がわず
かに遅れ、ゲッターの右足首が吹っ飛ぶ。
「グワッ!」
「大丈夫か? リョウ」
誘爆もせず、飛行に支障はないようだったが、ゲッターは完全に守勢に回ってしまった。
ここぞとばかりに、立て続けに怪光線で攻撃してくる怪物。その時、南方から怪物に向か
って、何本もの火線が走った。
「援軍か!」
「助かったぜ」
それは、早乙女研究所から通報を受けて駆けつけた、連邦軍のモビルスーツと航空機の
混成部隊だった。連邦軍日本地区厚木基地は、連邦軍の中では珍しくMSを一個大隊−G
Mが二十七機−と二個飛行大隊−TINコッド、フライマンタが中心−を擁する日本地区
の防衛の要だった。極東軍は、その中からMS一個中隊と航空部隊二個中隊を派遣してい
た。
「私は厚木基地所属第一飛行大隊々長レムレス少佐だ。早乙女研究所の諸君、ご苦労だっ
た。後は我々に任せてくれ」
最新鋭のセイバーフィッシュから、慇懃だが有無を言わさない口調で通信してくるレム
レス少佐。
「ちっ、偉そうに」
「仕方がない、一度下がれ、リョウ。このままじゃまずい」
「しゃあねぇ。奴は口から光線を吐くぜ、気をつけな」
竜馬は相手の強圧的な言い草に腹を立てつつも、敵の能力を教え、ゲッターロボを後退
させた。だが、忠告された方は、ほとんど気にも止めずに攻撃に移ろうとしていた。
「GM隊はベースジャバーから離脱して、地上に待機。我々が奴の目を引きつけている間
に、隙を見て集中砲火をかけろ。最初の実戦だが、大丈夫だ。何しろ相手は、大昔の特撮
映画に出てきそうな怪獣だ。我々の敵じゃない。びびるなよ!」
だが、少佐の考えは甘かった。敵はセイバーフィッシュやフライマンタの対地ミサイル
も、GMのビームスプレーガンも全く問題にしていなかった。それどころか、焦って突出
した一機にタイミングを合わせて光線を発射、撃墜した。
その時、そこにいた全ての人間が己の目を疑うような光景が展開された。敵は、その口
で撃墜したフライマンタを食べはじめたのだ。まるで肉食獣が草食獣を食べるように。そ
して、全て食べ終わった敵は、多少大きくなったように見えた。
「ば、馬鹿な…」
「嘘だろ、あの化け物、何か大きくなってないか?」
「GM隊、ハイパーバズーカの使用を許可する。奴を倒せ!!」
全く想像もしなかった光景を見て呆然としている兵士に命令を与えるレムレス少佐。我
に返った兵士達は、命令通り攻撃を再開する。だが、GM隊と飛行部隊の集中攻撃も敵を
足止めすることはできなかった。浮き足だった兵士達が大きく狙いを外すようになったか
らである。
元来、バズーカはビームライフルと比較して、安価で信頼性が高く、威力は大きい。そ
の反面、発射時の反動が強いので命中率が低く、装弾数が少ない。使い所を間違えなけれ
ば、強力な武装である。だが、今は状況が悪かった。GM隊は、明らかにハイパーバズー
カを持て余していた。
連係のないちぐはぐな攻撃によって、バズーカの弾丸はすぐに撃ち尽くされ、訓練では
スムーズにできた弾倉の交換も、必要以上にもたついていた。その結果、怪物に対する攻
撃はかなり散漫な物となっていた。だが、それも仕方ないだろう。平常心を失いつつある
彼らに訓練のそれと同じ速さを求めるのは、あまりに酷だった。
そんな散発的な攻撃では、怪物の足を止めることはできなかった。心なしか動きの早く
なった敵は、攻撃をかいくぐってGM隊に襲いかかった。一機が光線で足を吹き飛ばされ、
一機が敵の尻尾に倒された。手負いの敵は後にとっておくつもりなのか、怪物は倒れたG
Mから食べ始めた。ハッチを開き、走って逃げるパイロット。その様は、兵士達の戦意を
奪うのに十分な光景だった。
そんな中、少佐は最後の賭に出た。パイロンに残されたミサイルを全弾発射したのだ。
怪物ではなく、GMに向かって。十年ほど前に開発され、地球上でもっとも硬いと言われ
る超合金Z、それをも凌ぐ硬度の外皮を持つ怪物と言えども、至近距離でGMが爆発すれ
ば、倒せないまでもダメージを与えられると踏んだのだ。目論見通り、これでダメージを
与えることができれば部下の士気は持ち、何とか態勢を立て直すこともできるだろう。
だが、これでもダメージを与えられなかったら、実戦経験のほとんどない部下達が組織
だった攻撃をするのは無理だろう。それどころか、部隊が四散する可能性すらあった。
しかし、それも当然であろう。創建当初から連邦軍は地球圏最大の武力集団であり、そ
の武威を犯す敵は存在しなかった。最近になって、サイド3コロニーによる新兵器モビル
スーツの開発、地中海のバードス島で発見された謎のロボットがその調査団ともども行方
不明になるなど、今までにない事態が起きつつある。だが、それを感じ取っているのは連
邦軍の一部であり、その大多数は、長年の平和から弛みきっていた。今回出撃した兵士も、
その例外ではなく、いきなり実戦で使い物になるはずがなかった。
「すまん、マスダ」
少佐が巻き添えになるGMのパイロットに謝った直後、凄まじい爆発がGMを中心に起
こった。その爆発は脱出したパイロットと怪物を包み込んだ。全員がじっと爆発がおさま
るのを待っていた。怪物の死を信じて。
どのくらい時間がたっただろうか。彼らには十秒が十分にも感じられただろう。やがて、
煙が風に流されだした頃、叫びが聞こえた。
「グッギャアォ〜!!」
それは痛みよりも、怒りをあらわしているように聞こえた。そして、それは突然起こっ
た。残った煙を引き裂くように、光線がGMや航空機を狙って発射されたのだった。しか
も、それまでとはうって変わって、正確な照準で。その光は、半瞬で部隊の半数以上を撃
墜、若しくは行動不能にしていた。その瞬間に大勢は決した。
もはやレムレスには、いや、誰にも彼らを止めることは出来なかっただろう。彼らは仲
間を見捨てて、逃げ出すことしかできなかったのだ。完璧な敗北だった。それに対して、
勝者は敗者には見向きもせずに、「食事」を再開した。
怪物が動き出して、わずか三十分ほどの間の出来事だった。
予告
奇怪な生物の前に惨敗を喫した連邦軍
すぐに戦力の再編にかかるコーウェン少将
だが、MSを食らうほどの怪物を倒すことが出来るのだろうか?
次回、第三話「結集」
第一話
第三話
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