第三話 「結集」
一七:〇二 早乙女研究所
右足を損傷したゲッターロボは研究所に帰還し、修理されていた。だが、研究所の空気は重かった。連邦軍が
惨敗する様−早乙女ミチルがコマンドマシンでキャッチした映像−をリアルタイムで見ていたからだった。そし
て、「食事」をすませ、一回りほど大きくなった怪物は、高崎市に向かいはじめていた。
「博士! 今すぐ出撃させてくれ!!」
市街地に向かいはじめた怪物を阻止すべく、竜馬はゲッターの出撃を博士に頼み込んでいた。
「そして、ゲッターを敵に食わせて、敵をより強くしようと言うのかね?」
冷静に現状を指摘する早乙女博士。無論、その程度のことは竜馬にも分かっているが、言わずにはいられない
のだ。
「だが、このままにしておくつもりじゃないでしょう? 博士」
思いは竜馬と同じだが、個人的な感情を殺す術を知っている隼人は、表面上は静かに博士の真意を問いただし
ていた。
「無論だ。取り敢えず、連邦軍に敵を市街地から引き離すように依頼した。恐らく、厚木基地に残った戦力では
奴を倒すのは不可能だろう。だが、奴を足止めするくらいはできるはずだ」
「その後は?」
「今こちらに、連邦軍の第十三独立部隊が急行している。この部隊が厚木基地に到着次第、ミーティングを行う
事になっている。そこでだ、君たちにも作戦に協力してほしい、と極東方面軍かあら正式に要請があった。その
内容に関しては、極東方面軍司令コーウェン少将から直々に作戦の説明がある」
「我々は連邦軍の指揮下に入る、ということですか?」
「そうだ。指揮系統を統一しなければ勝てる相手ではない。その辺については、コーウェン少将と既に協議して
ある」
「他に援軍はないんですか?」
「先刻の戦闘で分かったことだが、あの怪物はどうやら、金属等を摂取することによって成長していくようだ。
しかも、ごく短時間に。長期戦になれば、どのように成長するかも分からないし、そうなれば、被害は爆発的に
増えるだろう。他の連邦軍の戦力も厚木基地の部隊と同程度か、それ以下だ。時間をかけたからといって、多く
は期待できない。それならば、時間をかけず、手持ちの戦力を集中して攻撃を開始すべきだろう。これはコーウ
ェン少将の見解でもあるし、私の意見でもある」
「やるしかないようですね。で、何時までに厚木に行けば良いんですか?」
「もうすぐゲッターの整備が終わる。それまで待機しておいてくれたまえ」
「あのトカゲ野郎、首を洗って待っていやがれぇ」
「今度こそ、ゲッター3の力を見せてやるぜ!」
隼人と博士のやり取りの詳細は理解できない二人だったが、結論だけは分かったようだ。何はともあれ、戦え
るということが分かると、司令室を今にも飛び出さんばかりだった。
(それまでに間に合うと良いんだがな。私にできることはここまでだ。後は頼みますよ、兜博士。)
その様を期待と不安の混じった瞳で見やる早乙女博士に出来ることは、彼らの勝利と無事を祈ることだけだっ
た。
一七:三〇 厚木基地第二会議室
「良く来てくれた、諸君。楽にして聞いてくれたまえ」
コーウェン少将は、そのいかめしい顔とは裏腹に、静かな知性を感じさせる声で会議室に集まった全員に声を
かけた。静かだが、力強さと威厳に溢れたその声は、聞く者を自然と緊張させたが、それと同時に、目標の底知
れない能力に対する恐怖から浮き足立っていたパイロット達は、落ち着きを取り戻していた。
「時間的に余裕がないので、単刀直入に言おう。現在、目標は高崎市南部で第二飛行中隊が釘付けにしている。
市街地に大きな被害はないし、既に市民の避難は完了している。だが、市には確実に近づいてきている。既に説
明を受けていると思うが、目標は金属などを摂取して成長する。目標を高崎市に侵入させた場合、どこまで成長
するか予測できない。そこで諸君の任務だが、目標が市内に侵入する前に捕捉、殲滅することである。その際、
周囲の被害を気にする必要はない」
全員がじっと少将の説明に聞き入っていた。この作戦にかける少将の意気込みが自然と伝わってきたからであ
る。少将は全員が集中していることに手応えを感じながら、表情を変えずに具体的な作戦を説明をはじめた。
「我々の戦力だが、日本地区の地上戦力は展開するには時間がない。そこで、今回参加するのは厚木基地の航空、
MS部隊の全てと第十三独立部隊。それに早乙女研究所から宇宙開発用に開発されたゲッターロボが協力して
くれる。これが、現在準備できる最大の戦力だ。今回の作戦が失敗した場合、これ以上の戦力を整えるには、最
低でも三日はかかる。そうなった場合、被害は甚大なものとなるだろう。そのことを踏まえて作戦にあたってく
れたまえ。では、作戦内容を説明しよう」
覚悟ができているのか、開き直っているのか、少将は現在おかれている最悪の状況をさらりと説明した。その
自然な自信にあふれた姿は、実戦経験の少ないパイロット達にとって非常に頼もしいものだった。
「この作戦では、部隊を大きく二つに分ける。レムレス少佐が指揮を取る厚木の第一、三飛行中隊と第二飛行大
隊、第一、二、三MS中隊で一部隊とし、ブライト・ノア大尉が指揮を取る第四飛行中隊と第十三独立部隊とゲ
ッターロボから成る混成部隊の二つだ。レムレス隊は目標を迂回、北方から目標を攻撃する。だが、その目的は
目標の殲滅ではなく、目標を高崎市から引き離し、南方に待機するブライト隊と挟撃することにある。くれぐれ
も言っておくが、目標の装甲はこちらの想像を超えている。そのため、GMと航空機の装備では致命傷を与える
のは難しいだろう。そこで今回の決め手となるのは、ブライト隊のホワイトベースの艦砲とゲッターロボのゲッ
タービームだ。他の航空機とMSは、これらを活用するための援護に徹してほしい。総指揮は指揮機から私が直
接取る。何か質問はないか?」
少将は、そこで話を一区切りし、全員を見回して告げた。下士官が一人挙手した。
「第十三独立部隊のアムロ・レイ曹長です。我が隊のガンキャノン、ガンタンクは目標にも通用する十分な火力
を有していると思われます。それを活用しない手はないと思いますが?」
その率直な言い様は曹長の若さゆえだが、不遜でもある。少なくとも厚木のパイロット達はそう感じたし、ブ
ライト達も顔をしかめていた。だが、言われた当の本人はその率直さを好ましい物と思ったようだ。しばらく沈
思した後、付け加えた。
「曹長の意見はもっともだ。その件については私も考えないではなかった。だが、この二機をWベースと別行動
にすると、こちらの援護も分散せざるを得なくなる。それでなくともブライト隊のMSは少ない。それでは各個
撃破される可能性がある。戦力を分散するよりもむしろ集中して、Wベースの艦砲を有効に活用できる状況を作
り出すべきだ。私はそう考えたのだが、この説明では不服かな?」
コーウェン少将は、必要以上に丁寧にアムロの質問に答えた。
「いえ、十分です。私の考えが足りませんでした」
「いや、恐縮する必要はない。君の言うことにも一理ある。それに作戦への疑問を抱えたままでは、戦闘に支障
を来すおそれがある。そうなってからでは遅い。他の者も疑問点があれば遠慮なく質問してくれたまえ」
それに触発されたのか、何人かが挙手し、質問していく。コーウェン少将は、それによどみなく答えていく。
短いが熱心なやり取りが行われたが、作戦に変更はなかった。時間的、地理的条件の制約が非常に大きく、変更
の余地がなかったからだった。だが、このブリーフィングで指揮官との意志疎通ができたパイロット達は、迷い
が吹っ切れたようだった。
「では、諸君の健闘を祈る。生きてまた会おう」
一七:五六 科学要塞研究所
「所長! 連邦軍のブリーフィングが終わったそうです。早乙女博士から一刻も早い援軍を頼む、とのことです」
小麦色に近い肌の色をした少女が勢い込んで室内に入ってくるなり、白衣の男にそう告げた。
「そうか。了解した、と博士にお伝えしてくれ、ジュン。作業を急ぐぞ、諸君!」
大きな傷跡を顔に残した男は振り返りもせずに返事をした。その目は、隣の工場にある黒いロボットを鋭く見
据えていた。
「でも、所長。鉄也はマジンガーZのテストからまだ帰ってきていないし、グレートの再調整もまだかかるんじ
ゃないですか?」
普段なら勝ち気な少女の顔には、平素絶対に見せないであろう気弱な表情が浮かんでいた。その懸念が伝わっ
たのか、白衣の男は少女を顧みた。
「大丈夫だ。確かに時間はかかるが、鉄也君もグレートも必ず間に合う。だから、君は司令室で戦況をモニター
し、異変があれば私に教えてくれ」
彼の言葉と真摯なまなざしは、決してその場しのぎのものではなく、少女を安心させるのに十分だった。一転
して、明るい笑みを浮かべた少女は「ハイ!」と勢い良く返事をした後、司令室まで駆けていった。男はその少
女らしい仕草に笑みを浮かべながらも、次の瞬間には厳しい表情で作業を監督していた。
(こちらの作業ももうすぐ終わる。早く戻ってきてくれ、鉄也君。)
白衣の男−兜剣造−は、一ヶ月ほど会っていないグレート・マジンガーのパイロット、剣鉄也の帰還を心待ち
にしていた。
予告
宇宙生物を倒すための合同作戦が発動される
果たして、現有戦力で未知の怪物に一矢を報いることは出来るのか?
次回、「逆撃への布石」