『風の谷のナウシカ』のエンディングテーマは、「鳥の人」というタイトルです。
『ハウルの動く城』DVDまもなく発売記念ということで。買わないけど。
衛(えい)という国に、懿公(いこう。諡)という君主がいました。
この人、鶴がとっても大好きでした。
ただ、どうも度が過ぎていたようです。
どれくらい鶴が好きだったかというと、大臣クラスの貴族しか乗ることの許されない馬車に鶴を乗せていたくらいです。
年中、愛鳥週間かよッ! とりあえず突っ込んでおきましょう。
あるとき、衛の国に、敵が攻め込んできました。
衛国は、徴兵して、敵軍を迎え撃つ準備を進めます。懿公も自ら前線に赴きます。
国の危機にも、鶴と戯れているような人だったわけではありませんから、暗君ではなかったんですね。
前線に出た懿公は、兵士たちの士気が一向に上がっていないことに気づきました。
疑問に思った懿公でしたが、ふと耳にした兵士の言葉で、その謎が解けました。
「鶴のヤツらはあんなに立派な待遇を受けている。さぞや、うまいものも食っていることだろうよ。ヤツらは、国から大きな恩恵を受けているのだから、それに比例して、大きな責任を果たす義務があるのだ。何も我らが戦うことはあるまい。鶴を最前線で戦わせればよいのだ!」
懿公は、自分の行動が、どのように他人の目に映っているのかに思いをいたすべきでした。
大臣用の馬車に乗る鶴を、国民がどのような目で見ていたかを考えるべきでした。
衛軍は大敗しました。懿公は戦死しました。
今回の話はここまでです。以下は蛇足。
私は、衛軍の兵士が言ったような、皮肉のきいた言葉が好きです。ただの悪口では何のおもしろみもないですからね。私の性格の悪さがよくわかっていただけると思います。
このような、皮肉のきいた、嫌味を内包した、粋なセリフを吐かれると、私は感心してしまい、是非とも、皮肉のきいた言葉で応酬したくなるわけです。
「言うではないか。だが、なるほど、もっともな言葉だ。お前よりはよほど鶴の方が役に立ちそうだ。鶴を最前線で戦わせよう」
というわけで、鶴を最前線で戦わせて、勝利する方策を考えてみることにしますか。
まず必要なのは、優秀な戦闘指揮官です。
「一匹の獅子に率いられた羊の群れは、一匹の羊に率いられた獅子の群れを駆逐する(うろおぼえ)」(銀河帝国、エルネスト・メックリンガー)
やる気のない兵士たち(羊の群れ)でも、優秀な指揮官(獅子)が率いれば、なんとか戦えるはずです。
また、士気があがっていないとはいえ、兵力はそろっています。一戦して勝利をおさめれば、士気が回復する可能性もあります。
この時代、重耳(ちょうじ。後の文公)とその部下が、晋(しん)の国でくすぶっています。彼らの中で、最も戦術家タイプの武人と思われる先軫(せんしん)を指揮官に起用しましょう。先軫には、FA宣言でもしてもらって、一時的でいいので、晋から衛に来ていただくことにします。
唐(とう)の時代の武将、李克用(りこくよう)は、黒鴉軍(こくあぐん)を率いていたといいます。兵士も馬も、全身がカラスのような黒づくめだったらしいです。
これに対抗して、先軫には、白鶴軍を率いてもらいましょう。なんか、日本酒の名前っぽく感じるのは、目をつぶることにします。
鶴を使うのだから、その長所は一点、機動力です。これを使わない手はない。
航空戦力によって、大艦巨砲主義の時代を終焉せしめた第2次世界大戦を思い起こしましょう。
陣形は、シャレをきかせて、鶴翼の陣( V の形の陣形。中央が鶴の首で、両側が鶴の左右の翼)で。
敵軍を、鶴の首の部分(中央部)に引き込みましょう。そのために、士気のあがらない見方の軍をおとりに使います。
「お前ら、何もしないで役に立てるなんて、ラッキーだな」
戦闘が始まったら、白鶴軍は、空に飛び上がります。
まぁ、敵からしたら、最前線に鶴がいたことの意味すらわからないでしょうが。
当然、逃げていったと、味方も敵も思うでしょう。
と、見せかけて、白鶴軍は、敵の後方と左右に回りこんでおきます。
やる気のない衛軍は、やがて退却をはじめます。ただ、これはあくまで、退却と見せかけるだけ。V字の形を保ったまま、うまく退く必要があります。退却戦は、非常に難しい(やったことないですが)ので、ここらへんの手腕は、先軫に期待。
退きつつも、敵を、V字の中央部に引きずり込みます。
そこで、白鶴軍の出番。
敵軍の後方と左右で、埃を巻き上げさせます。
『孫子』にこんな記述があります。
「塵高而鋭者、車来也、卑而廣者、徒来也」(埃が高くあがり前方のとがっている時は、兵車が攻めて来る。低くたれて広がっている時は、歩兵が攻めて来る)
伏兵によって、衛軍に包囲されることを恐れて敵軍は、撤退することでしょう。てか、してくれ。いや、してください。ついでに、雨も降らないでね。
戦争に、希望的観測を持ち込むのは厳禁ですが、すでに鶴なんかを持ち込んでるんだから、小さなことは気にしなくていいか。
今回は、やる気のない兵士を率いているという不利な状況にあります。
敵を撤退させただけで、十分勝利と呼べるでしょう。
さぁ、作戦は立てた。優秀な指揮官も用意した。
あとは――鶴、ガンバッ!
蛇の足が長くなりすぎました。鶴の首といい勝負だな、こりゃ。
春秋時代のお話です。
最近、春秋時代にはまってるので、この時代のお話ばかりです。
なんか、「うぎゃーーーーーっ」(←日本語であえて言うならば、しっちゃかめっちゃか?)って感じが好きなので。
それにしても、甚だしいかな、我の話が脱線するや。私が電車の運転手じゃなくてよかった。
ま、「本文」は短いので、特に、補足説明を書くところもないんですが。
衛に侵攻してきたのは、北に住む異民族(中原に住むの人々と異なる人々という意味で)、狄(てき)です。
今回初めて知ったのですが、鶴軒(かくけん)って、言葉があるんですね。とはいえ、『広辞苑』に載っていないので、マイナー用語みたいですが。軒というのは軒車、すなわち大夫(大臣)用の馬車のことです。
懿、という字は「よい」とか「うつくしい」とも読みます。
また、この字は、温厚な性格の君主に贈られる諡ということです。懿公の業績は知りませんが、ただの鶴好きではなかったようですね。少なくとも、鶴にとっては、いい飼い主だったですしね。