心の病と共に生きる

 2016年12月。私の元に1通のメールが届きました。

  こんにちは。
 ○○大学教育学部で特別支援教育を専攻しています。1年生の○○と申します。先生のホームページを拝見して、先生ならわかってくれるのではと、私の話を聴いていただけたらと思ってしまい、メールさせていただきました。宜しかったら、私の、大学に入学してからの日々を聴いてください。

 私は今、過呼吸と不随意運動という症状から学校を休み、寮で休養しています。病名をはっきり言えたらと願い続けていますが、まだ出ていません。
 入寮してから、寮の行事、吹奏楽団、学校、ボランティアと、限界を越えても気づかずに全てを全力でやる日々を送っていました。具体的には、自主練習で毎日吹奏楽団へ行き、寮の行事には全て参加し、団の係、寮の仕事、学校の勉強、たまの休みにボランティアでほとんど休みなしに6月までを過ごしました。全部自分のやりたいことでしたので睡眠時間は受験期より短いくらいでしたが、楽しくて楽しくてしかたありませんでした。団の大きな演奏会が一つ7月の頭に終わり、時間に余裕ができはじめてから私は少しずつ体調を崩していきました。休む時間を増やしていっているはずなのに前と同じように頑張れなくなって、意味もなく泣くことが増え、体を動かすのにどんどん大きな力が必要になっていって、過呼吸も起こすようになり、見かねた周りに病院に行かされ、抗うつ剤を処方されました。それが8月の頭で、無理矢理テストを受けた後のことでした。診断されてなお楽器を吹きに団へ通っていた私でしたが、不随意運動を起こすようになり、楽器が危ないと、団を休むことにやっと決めました。不随意運動とは、自分の意思に関係なく勝手に体が動いてしまう症状です。引っ張られるように、勝手に手足が動き、立てば独楽のように勝手に周り、座っていても倒れ、寝つくまでそんな症状と過呼吸と、鬱に近い症状、そんな状態で寮と実家を行ったりきたりしながらたくさんの人に支えられ、助けられ、10月になって学校が始まってからも1ヶ月ほどは無理矢理学校に通っていました。しかし日常生活もとても送れないほど不随意運動がひどくなっていって、周りのみんなも私を助け続けるのが少し辛くなってきているのを感じたから、学校も休み実家に帰りました。2週間以上を実家で過ごし、少し回復して寮に帰ってきてから今1週間です。

 先生の生活科と総合のページの福祉に関するところを読んで思いました。先生が、体に障害のある方のこと、わかりやすい障害のことはとりあげても、知的障害や自閉症の人たちのことはとりあげないのは、やはりわかりにくいからなのだろうか、と。心の病気や障害をとりあげないのも。
 私は、ほんの少しだけど、心と体を不自由にさせてもらって、助けてもらう側をやりました。私は、今誰がなってもおかしくない心の病気のことも障害のことも、もっと知ってほしいと思いましたし、知りたいと思いました。助けてもらう側の気持ちや願いを知ってほしいと思っているし、助けてくれていた人たちがどんな思いで助けてくれていたのかも知りたいと思っています。偏見をなくしたい、知ってもらって、助けてもらう側も助ける側も楽になったら、私と同じような病気をもらった人が、私と同じようにその経験を宝物だと思えるお手伝いがしたい、それが今の私の夢で、叶える方法を探しています。

 長くなりました。それで先生に、何か伝えられたらと願ったのですが、病気から教わったことは多すぎて、何をどう伝えればいいのかわかりません。もし、私の話に興味をもっていただけたら、返信をください。何が辛かったか、嬉しかったか、なんで私がこんな病気になったと思っているか、もっと詳しくお話します。質問してくださればそれにお答えします。治る病気だけど、心の病気はとても苦しいから、そうなる先生や子どもたちが、少なくなることを願っています。

 最後まで読んでくださりありがとうございました。先生にメールを打つのは不慣れなもので、失礼なことを言ってしまっていたら申し訳ありません。

 一読し、聡明な文章に感心し、自らの病気を受け入れて前に進もうとする強さに感動しました。それから、この方とのやりとりが始まりました。
 ちょうど、このメールを受け取った2週間後に、この方の在住地方面に旅行に行く予定でした。そこで妻と共にこの方に会いに行くことにしました。
 それまで何通かのメールをやりとりして、病気のことを聴いていましたが、より詳しいことを聴かせてもらいたいと思いました。また、私が学び、実践している呼吸法や「ゆる体操」(身体をゆるめるトレーニング)を伝えたいとも思いました。
 文章のように、聡明でステキな方でした。付き添って来られたこの方の恋人もステキな方でした。
 私たちと話している間にも何度も不随意運動に見舞われましたが、終始笑顔で楽しいひとときを過ごせました。呼吸法や「ゆる体操」も一緒にしました。
 その後も、メールのやり取りは続き、もう一度妻と共に会いにも行き、今(2017年6月)に至っています。ときには、強い不安感にとらわれて、泣きながら電話をしてきたこともありました。
 もちろんこの方は通院、服薬していますが、その他に心の病をケアする方にコンタクトしたりするなどして努力しています。
 やがて、この方は、自分の生い立ちや症状を文章に書いて届けてくれるようになりました。
 A4横書きで45枚にもなる『春の庭で』という、心の中に住む妖精たちと会話しながら綴った物語です。右のイラストは、その物語に添えられたものです。

 御本人には、この物語を、ぜひ多くの方に読んでもらいたいという希望があります。
 また、『春の庭で』とは別に、この方が書かれた『病気に関するレポート』と『手紙』という文章もあります。『病気に関するレポート』は、この方が御自身の症状や状況を冷静に報告したものです。『手紙』は、「今、心の病気で苦しむ方へ」「今、心の病を抱えた人を支える人へ」「心の病気の人が近くにいないあなたへ」の3つの文章からなる、すべての方へのメッセージです。これも、御本人は多くの方に知っていただきたいと願っています。もちろん、私もこの文章たちを多くの方に読んでいただきたいと思いました。
 そこで、御本人と相談して、『病気レポート』と『手紙』を、当サイトで公開することとしました。下のリンクから、どうぞ御覧ください。

 本当は、『春の庭で』も公開したいのですが、その中にはこの方のプライバシーに関わることも書かれています。心の病に、今も多くの方が偏見をもっている現在、公開には細心の注意を払わなくてはなりません。
 ですので、その物語を読んでみたいと思われた方は、御本人 kirinosuke@outlook.jp まで「『春の庭で』を希望します。」と、メールで連絡をしてください。多くの心ある方に読んでもらいたいと御本人も私も願っています。

 上の手紙では、病名がはっきりしていないと書かれていますが、2017年5月に「うつ」「転換性障害」との病名がつきました。そのことも、まだまだ一般的になっていない心の病気について情報交換をする後押しをしてくれるものと思います。

 このページが、少しでも心の病への理解を助けるきっかけになればうれしいです。

(2017年6月記す。) 

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