マリア: | あらさくら、こんな場所で何をしているの? |
さくら: | マリアさん。えーと、かえでさんに呼ばれたんです。 |
マリア: | あらそうなの、私もよ。いったい何かしら? (コンコン) |
マリア: | マリア・タチバナ、真宮寺さくら、入ります。 |
かえで: | どうぞ。ふたりとも掛けてちょうだい。 |
マリア: | ありがとうございます。 ……副司令、今日はなんのご用でしょうか? |
かえで: | まあ、そんなに固くならないで。ちょっとした茶飲みばなしでもしようと思って呼んだだけよ。 |
さくら: | …茶飲みばなし、ですか? (前から思ってたんだけど、藤枝姉妹って、そろっておばさんくさいわ。) |
かえで: | さくら、なにかよからぬことを考えていない? |
さくら: | い、いえ、とんでもありません! |
かえで: | そう?ならいいわ。(にっこり) ……さて。マリア、あなた前にレニと織姫が陰と陽の対を成しているっていう話をしてたわね。 |
マリア: | お耳に届いていましたか。恐縮です。 |
かえで: | ええ、なかなか面白い話だったわ。でね、その話を聞いて思い付いたことがあったものだから、あなたたちに聞いてもらおうと思ったのよ。 |
マリア: | なんでしょう? |
かえで: | 結論からいうとね、サクラ1においては、あなたたち二人がペアになってるんじゃないかっていうことよ。 |
さくら: | ええっ、あたしとマリアさんが? |
かえで: | そうよ。 |
さくら: | そんな、あたしとマリアさんはそんな妖しい関係じゃ……。確かに「愛ゆえに」でも「シンデレラ」でも「第三天国」でも「マイ・フェア・レディ」でもマリアさんが相手役ですけど、ファンの方が噂するような関係じゃ……そりゃちょっとは興味あるけど…… |
マリア: | ……ちょっとさくら…… |
さくら: | ああっ、でもだめっ!マリアさんの気持ちははうれしいですけど、あたしはやっぱりノーマルですし、大神さんを裏切るわけには…… |
マリア: | そこっ!(スパーン!) |
さくら: | ハッ!あたしなにか言ってました? |
かえで: | ……マリア、そのスリッパどこから出したの? |
マリア: | 武人のたしなみです。それより話を元に戻しましょう。 |
かえで: | そうね。あなたたち二人がペアになってるって話なんだけど…… |
さくら: | そんなっ、たしかにマリアさんは舞台が壊れたとき、あたしを抱いて逃げてくれたけどっ…… |
マリア: | (スパーン!) ……さくら、テンドンは勘弁してちょうだい。※1 |
注※1 テンドン:【お笑い用語】同じことを繰り返すことによって笑いをとること。 | |
さくら: | きゅうぅぅ〜 |
かえで: | ……まあ、2回目まではOKよ。 |
マリア: | 話がさっぱり進んでないじゃありませんか。さ、副司令。 |
かえで: | そうね。まずちょっと考えてほしいんだけど、1からの花組メンバーの中で、マリア、あなただけが名ではなくて姓の方が花の名前なのよね。 |
マリア: | そういえば、そうですね。 |
かえで: | それはいったいなぜなのか?私はこの「タチバナ」っていう姓自体に意味があるからじゃないかと思うのよ。 |
マリア: | どういうことです? |
かえで: | つまりね、スタッフは「タチバナ」という名前をどうしてもつけたかった。でもこれはファーストネームには無理があるわね。だからファミリーネームにせざるを得なかった。で、あなた一人が名字に花の名前を持つに至ったんじゃないか、ということよ。 |
マリア: | なるほど。でも「タチバナ」という姓にどんな意味があるんでしょうか。 |
かえで: | あなた「左近の桜・右近の橘」って言葉聞いたことないかしら? |
マリア: | …いや、ありません。 |
かえで: | まあ、あなたは外国育ちですものね。 桜と橘、この2つは大和、つまり日本を守護する樹とされているの。大和朝廷の宮殿の庭には右側に橘の木が、左側に桜の木が植えてあったのよ。「左近の桜・右近の橘」とはそれを表す言葉。国を守護する霊力がある木、つまり霊木として崇められていたわけ。 |
さくら: | へえ、そうなんですか。 |
マリア: | ……またずいぶん何気なく復活したものね、さくら。 |
さくら: | えへへっ。 |
かえで: | 続けるわよ。つまり、国を守護する帝国華撃団・花組の柱として、さくらと対になる形で存在するのがマリア・タチバナ、あなただというわけよ。 |
マリア: | ふーむ。 |
かえで: | それが証拠に、あなたたち2人はサクラ1で特別扱いされているのよ。 |
さくら: | えっ、なにがです? |
かえで: | 終盤のヒロインのみのイベント、覚えてる?他の4人のメンバーのイベントはあやめ姉さんが「降魔・殺女」になった直後だけど、あなたたち2人だけは最終決戦直前の翔鯨丸の中なのよね。 |
マリア: | そういえば…… |
さくら: | そうなんですよ!あたし、おかしいなあってずっと思ってたんです。あたしはデフォルトのヒロインだから初詣でのムービーみたいに、特別扱いされるのは当然だけど、なんでマリアさんまでって…… |
マリア: | そこっ!(スパーン!) |
さくら: | きゅうぅぅ〜 |
かえで: | この子ってこんな子だったかしら? |
マリア: | ちょっと図に乗ってるようですね。 |
かえで: | 話を進めましょう。この桜と橘という対の霊木は、実はあなたたちのキャラクター設定にも影響を及ぼしているのよ。 |
マリア: | 面白そうですね、ぜひ聞かせてください。 |
かえで: | まず、桜の木は我が国古来の霊木とされ、対して橘の木は外来の霊木なんだそうよ。裏御三家のさくらと、外国からやってきたあなたというキャラ設定に合致してるわね。 |
マリア: | ふむ。 |
かえで: | そして面白いのは、この二つの霊木が日本神話や古典文学上で象徴するものが対称的だということよ。桜が象徴するのは生命・はかなさ、そして未来。対して橘が象徴するのは死・永遠・過去なの。レニと織姫が陰と陽だったように、さくらとあなたはおそらく未来と過去という意味での対になるのではないか、と思うわ。 |
マリア: | 未来と過去……。 |
かえで: | 桜が萌えいずる生命、ちりゆくはかなさ、そして春の始まりを表すのはまあ納得できることね。さくらは大きな潜在能力を秘めた新人として、「未来」を象徴する役柄なのだと思うわ。 だから、ちょっと見ててね。さくら?さくら? |
さくら: | きゅうぅ〜 |
かえで: | いくわよ。 瞳に映る輝く星は! |
さくら: | (ガバッ) みんなの明日を導く光! |
マリア: | …………。 |
さくら: | あ、あれ?あたし今なんか言いました? |
かえで: | 次いくわよ。 ふたりの心に正義をこめて! |
さくら: | 明日を導く光とならん! |
かえで: | ね?さくらの合体技は1も2も明日を導く光、つまりは未来への希望がキーワードになっているのよ。 |
マリア: | …なるほど。 |
さくら: | ??? |
かえで: | つぎはあなたの姓・タチバナに関してね。 橘の木に関してはいくつか面白い話があるわ。古事記によればタチバナの木はタジマモリという人物が天皇の命により「常世の国」へと取りに行ったとされているわ。常世とはすなわち永遠。時の流れない国。 |
マリア: | 時の流れない国…… |
かえで: | 同時に死者の国であるともされているわ。その死者の国から苦労して橘の実と樹を持ち帰ったタジマモリは、またも「死」に出迎えられる。 |
さくら: | えっ? |
かえで: | 橘をささげるべき君(天皇)はすでに亡くなっていたの。橘には永遠と死がつきまとうわ。 |
マリア: | ……。 |
かえで: | そして橘と言えば有名なのが「さつき待つ 花たちばなの香をかげば 昔の人の袖の香ぞする(古今集)」という和歌。意味はまあ、花橘の香りをかぐと昔の恋人のことを思い出すなあ、ってとこね。「花橘」が「昔を偲ばせるもの」として象徴的に使われるっていうことは、もう古典においては常識なのよ。 |
さくら: | へぇーっ。 |
かえで: | 橘が死・永遠・過去を象徴するものだということは分かってもらえた? |
マリア: | ええ……そして私がなぜマリア・タチバナなのか、少し分かった気が…… |
かえで: | そうね。あなたの持つ翳は「過去の思い出」「昔の恋人との死別」。橘の木が象徴するものとぴったり重なり合うわ。サクラ1での合体技「ゾロティ・ボロータ(黄金の門)」はロシア革命という過去を象徴するものだし、2の「スミィエールヌイ・ターニェツ(死にいたるダンス)」も死というキーワードが含まれているわ。 |
マリア: | ええ……。 |
かえで: | そしてもうひとつ面白い話があるわ。さっきのタジマモリなんだけど、彼は常世の国で妻を娶っていて、それがハナタチバナ姫というの。そしてタジマモリとハナタチバナ姫の間に生まれたのがオトタチバナ姫。知ってるかしら? |
さくら: | えーと、どこかで聞いたことがあるような。 |
マリア: | 以前、舞台でスーパーカブキ「ヤマトタケル」をやろうか、っていう計画が持ち上がった時に聞いた記憶があります。たしかヤマトタケルの妻でしたね。 |
かえで: | そうよ。古事記によると、浦賀水道をヤマトタケルの一行が渡ろうとした時、海神が暴風を起こして船はいまにも沈みそうになった。その時、お妃のオトタチバナ姫がいうには、「私が御子に代って海に入りましょう。御子は命ぜられた任務を果して天皇にお返事を申しあげ遊ばせ。」 静かに入水して人柱となり、海神の怒りをやわらげ一行を助けた。そういう伝説があるの。 |
さくら: | かなしいお話ですね…… |
かえで: | マリア、あなたの唯一の弱点である「水」、サクラ2の第5話の展開はひょっとするとこの伝説から来ているのかもしれないわね。 |
マリア: | ……なるほど。 |
さくら: | 弱点? 水?何の話です? |
マリア: | なんでもないのよ、さくら。(今のさくらに私が「カナヅチ」だってばれたら、何を言われるか分からないわ。) |
さくら: | でも… |
マリア: | なんでもないの。(ちゃか…) |
さくら: | わ、わかりました。なんでもないんですね。 |
マリア: | わかってくれて、うれしいわ。 |
かえで: | どう?あなたたち二人はやっぱりペアでしょ。 |
マリア: | ええ、なかなか興味ぶか… |
さくら: | そんなっ!そりゃマリアさんは私の衣装の匂いを嗅いでいたけどっ! |
マリア: | (スパーン!) |
さくら: | きゅううう〜 |
かえで: | さくら、テンドンの基本は2回。3回以上はリスクが大きいわ。 |
マリア: | …………。 |
かえで: | ところでマリア? |
マリア: | ……はい? |
かえで: | ホントに嗅いでたの? |
マリア: | ……撃ってほしいなら、はっきりそう言ってください。 |
加山: | いや〜、ついにこのご質問が来てしまったぞ、大神ぃ。 |
大神: | だからって、何で男の俺たちが回答しなきゃならないんだ! |
加山: | おいおい、まさか帝劇の女性諸氏に直接聞くわけにもいかんだろう。 |
大神: | う… 加山お得意の忍法窓から逆さ吊りで情報収集するわけにはいかないのか? |
加山: | そんなやり口は月組のポリシーに反するんだなぁ〜。おまえこそ風呂覗きに行くのなら脱衣場のカゴくらい調べておけ。 |
大神: | そ、そんな下着ドロみたいな真似ができるか! |
加山: | どっちにしろのぞきはのぞきだ。言い訳はいいからなんとかしろぉ〜 |
大神: | とほほ… |
(地下格納庫) | |
大神: | うーん、とりあえずこの『とうめいくん』を使ってみるか。 |
加山: | なんだ、それは。 |
大神: | 光武の整備に使う、紅蘭の発明品だ。これを使えば光武を分解することなく、外から内部を目視することができるのさ。 |
加山: | 貸してくれ。ほうー、すごいな、光武の外殻が透けて中が見えるのか。こりゃいい、さっそく試してみよう〜 |
大神: | ち、ちょっと待てよ加山! |
さくら: | …あら、大神さん。 |
大神: | うぐ! い、いきなりさくらくんっ! |
さくら: | どうしたんですか、こんな時間に格納庫だなんて。あ、もしかして、光武とおはなししにきたんですねっ。そうでしょっ? |
大神: | (それはTVネタだっ)い、いや、ちょっと加山と、今後の華撃団の戦術について… |
さくら: | 月組の加山さん、ですか? だってここには大神さんしか… |
大神: | (はっ さては早速身を隠して…さすが月組)い、いや、打ち合わせはさっき終わったから、俺は上がるよ。じゃ、また。 |
さくら: | そんなぁー、あたしといっしょに光武とおはなしぃぃ… |
| |
大神: | ぜえぜえ、まいったまいった。で、ちゃんと見えたか、加山? |
加山: | いやぁ〜、さくらくんのほねはいいなあ〜。 |
大神: | は? |
加山: | なんだこれは大神! 体が全部透けて、骨格しか見えないぞっ。 |
大神: | あ。光武の外殻を通すくらいだから、服どころか身まで透けるのか。 |
加山: | やれやれ… こうなったら、地道に資料を探してみるしかないな。 |
大神: | 最初からそうしとけばいいものを… |
(図書資料室) | |
加山: | ええと、百科事典に歴史年表、それに文化時評… |
大神: | さくらくん愛読の『少女倶楽部』もあったぞ。このあたりを調べればだいたい分かるだろう。 |
加山: | まずはマリアさんやアイリスくんなど、外国勢について調べてみよう〜。 |
大神: | 19世紀の貴婦人といえば、ぎちぎちに腰を締め上げたコルセットが有名だ。 |
加山: | 『腰は細ければ細いほど良いとされ、息が詰まる、空腹でめまいがする、あまりに締めすぎてついには失神する婦人まで…』 やれやれ、俺は男でよかったなあ〜。 |
大神: | 『だが今世紀、欧州女性の社会進出にともなって、仏ココ・シャネルに代表される動きやすい服装が支持を得ている。』 なるほど、昨今は女性の活躍が著しいからな。 |
加山: | 帝劇花組は時代の最先端、といったところだな。さて、下着の記述は、と… あったあった。この「ちょうちんパンツ」というのがたぶん、そうだ。 |
大神: | ちょうちんパンツ? 変な名前だな。 |
加山: | 子供用のブラウスによく付いている「ちょうちん袖」と同じだろう。上と下をゴムや紐で縛ってとめる大きめのパンツ、ってところか。 |
大神: | お、こっちにもあるぞ。『太正モダンガァルの秘めたるお洒落!ちょうちんパンツにコルセット』 |
加山: | 太正モガといえば事務局の由里さんだな。洋服組の彼女も、西洋勢と同じ下着と考えてよいだろう。 |
大神: | さて、問題は和服組だ。さくらくんやすみれくんも、洋服のときはちょうちんパンツなんだろうが… |
加山: | 和服は下着をつけてない、とかいう煩悩が男性諸氏にはあるんだなぁ〜。 |
大神: | たしかに、日本女性への洋風下着の普及はずいぶん遅れている。昭和7年(1932)の日本橋白木屋火災で、多数の女性が裾の乱れを直そうとして手を滑らせたという悲劇は有名だ。って8年先の話だが。 |
加山: | 腰巻の布を、エプロンみたいに巻いているだけだからなぁ。コケたりするとひどい目に遭うぞ。 |
大神: | 婦人にズロースが普及したのも、昭和初期(1930)以降と書いてあるな。開放的な腰巻に慣れていた日本女性が、体に密着する洋風の下着になじめなかったのも一因らしい。 |
加山: | しかし、何てったって花組のお嬢さん方は時代の最先端だ。ズロースくらいは着けているんじゃないか。 |
大神: | さくらくん達だって、マリアや織姫くんからいろいろ教えてもらってるだろうからなあ… うーん、俺たちだけで議論しててもどうにもならないぞ。 |
加山: | せめてこの『とうめいくん』がまともに使えればなぁ〜… ん? おい、大神。 |
大神: | なんだ? |
加山: | この「感度調整」というレバー。…おお、透明度が、変えられるみたいだぞぉ〜! |
大神: | じゃあ、透明度を小さくすれば… 上着だけ透けて! |
加山: | おまえで試してみよう。おお、内臓が見えてきたぞ。心臓、肝臓… 次に皮下組織… あれ? |
大神: | どうした? |
加山: | これ以上レバーが動かないんだ。もう目盛りがないぞ。 |
大神: | そんなはずは… 普通はゼロから無限大で調整できるんじゃないのか。 |
紅蘭: | すんません、そこで止まるようにウチが設計したんですわ。 |
大神: | なんだ、紅蘭がそう設計したんなら仕方ないなあ… って、いいっ、紅蘭? |
由里: | ほーらもう、わたしが言ったとおりでしょ。まったく油断もすきもないんだからっ。 |
紅蘭: | うーん、透明度レバーにリミッターつけとかんと、そのうちどっかのすけべが『とうめいくん』で人間見ようとする、って由里はんが言うから… |
由里: | 地下で大神さんの様子が変だったって言うから、それでピンときたのよねー。 |
さくら: | 大神さんっ! なんか様子がおかしいと思ったら、やっぱりそーゆーことだったんですかっ!! |
大神: | 違うんだ、これは読者さんからの疑問に答えるために、月組との合同調査で、なあ加山… が、いないっ! |
加山: | あでぃお〜すぅ |
紅蘭: | 加山はんなんて、どこにもおらんやんか。 |
大神: | くそー、あいかわらず逃げ足が早い… と、ぼやいてる暇はない!! あでぃおーすっ! |
由里: | ああっ! 大神さん待ちなさいっ!! |
ばっしゃーーーん。 | |
さくら: | 大神さん、どうしました? |
由里: | ぷぷぷ、窓から噴水にまっさかさま。加山さんみたいにはいかないわね。 |
紅蘭: | 質問状はウチらんとこにも来とったから、別にウソやないみたいやけど。正直に聞きに来とったら、ちゃんと教えたったのにな。 |
さくら: | あ、あたしはちょっと、いやですっ。 |
由里: | さあて、悪い虫がいなくなったところで… 当然、リミッター外れるようになってるわよね、紅蘭? |
紅蘭: | もちろんや。そこの下のネジ、半分ひねったら、紙一枚だけ透視できるようになるで。 |
由里: | やったぁ! これで今年の福袋、当たりはぜんぶ私たちのものね! |
さくら: | そうと決まれば、さっそく三越の初売りにっ。 |
三人: | ごーっ!(((^0^)/ |