福祉の授業づくりを見直す1
  〜誰もが障害者になりうる時代〜


 総合的な学習で,福祉の学習が多く展開されるようになりました。私も,少し福祉の授業づくりに取り組んでみました。また,私個人もささやかですがボランティア活動をしてみました。そして,実践や自分自身の体験を通し,障害とか福祉というものに対する見方がかなり変わってきました。

 ここでは,私が見直したことから,福祉の授業づくりの基本的な構えについてお話ししたいと思います。

■2人のモーグル選手
 私のかつての教え子に,本間篤史君という若者がいます。彼は,スキーのモーグルの選手でした。日本でもトップレベルの選手だったようです。その彼が,練習中に転倒,半身不随になりました。

 彼は今,自分自身の体験を多くの人に広めたいという願いを持ち,働きながらeメールを使ってスポーツ障害者の方とネットワークを作り,また競技会の世話などの陰の仕事を買って出るなどしています。

◎参考web 「がんばれ!篤史」
 http://www3.plala.or.jp/yokosan/atushi.htm

 本間君のことをホームページに載せたところ,彼の後輩にあたる福嶋さんとおっしゃる方からメールをいただきました。福嶋さんも,元モーグルの選手でした。そして,同じように一瞬の転倒事故で半身不随になってしまったので
す。

◎参考web 「がんばれ!チェアスキーヤー・福嶋さん」
 http://www3.plala.or.jp/yokosan/Fukushima1.htm

■増える障害者
 実は,スキーだけでなくスポーツ障害は,年々増加しているといいます。また障害の程度も深刻化しつつあるのです。競技の低年齢化と高度化がその要因だと聞きました。それまで,第一線のスポーツマンだった若者が一瞬のうちに障害者になってしまう。そのギャップの大きさは,本人にとって大変な苦悩であることでしょう。

 また,障害を持つようになるのは,もちろんスポーツからだけではありません。交通事故により車椅子の生活に入る方も増えています。糖尿病による中途失明者も増加していますし,医療過誤により障害者になる方も増えています。
いや,そうした事故や病気だけでなく,高齢化に伴い,多くのお年寄りが障害者としての生活に入ることを考えると,誰もが障害者になる可能性があるのだととらえた方が正しいのかもしれません。

■誰もが障害者になりうる時代
 これまでの福祉の授業は,前提に「障害者と健常者」という一線があり,子供たちには「健常者」の立場から,障害を持つ方のことを知らせ,介助等の方法を知らせるというものが多かったように思います。そこでは,手話や点字を体験させ,車椅子で坂道を上ってみて,盲導犬と体験歩行して…と,体験を中心に学習が展開されています。子供たちはあるときは面白がり,あるときは真剣にそうした体験活動に取り組みます。それは,それで体験しないよりはずっとよいことです。

 しかし,それだけでは体験しただけに留まり,時代を切り拓く確かな見方・感じ方・ふるまい方を獲得していくことにはつながらないのではないでしょうか。これからの福祉の授業は,「誰もが障害者になっていく」「あなたや,身近な人もいつ障害者になってもおかしくない」という認識に立って行う必要があると考えます。

 例えば,その方が障害者になった経緯を調べる活動を取り入れます。すると,それは自分にも,身近な人にも起こりうるものであることが実感できるでしょう。その上で,「あなたのお母さんが,障害者になったとしたら,あなたは何をしてあげられるでしょう。」などと問いかけていくことも大切なことでしょう。障害体験装置などを身に付けて学習する場合は,少し長めに活動時間を設定します。時間が短いと,興味本位(「面白い」)で終わってしまいますが,ある程度長いと「面白い」から「大変だ」へ,そしてさらに,「障害のある方って,こんな中でもがんばっているんだ。僕が障害者になったらできるだろうか。」と考え始めるのです。

■福嶋さんからのメッセージ
 福嶋さんからいただいたメールには,その辺のところがかなりくわしく書かれています。ご本人の承諾を得ましたので,最後にご紹介します。


 (私たちのことの紹介は)これから大きくなっていく子供たちにも,なにかしらの良い影響や刺激があると思いますので,よろしくお願い致します。

 実際に北海道は交通事故が多いところですが,TVのニュースになるのはたいがい大きな死亡事故です。子供たち自身やその家族,友人達にも何処かで関わってくることになるでしょう。

その時にその障害をどう受け止めるかは,やはり情報をなにかしら知っているということになるはずです。「他人事」という意識は大変恐ろしいことで,それが「偏見」にもなります。

 障害を持った人を「気持ち悪い」とか「変な格好してる」とか「ああいう風にはなりたくないなぁ」と普段から思っている人程自分がなにかの障害を持った時に恐ろしい程のショックを受けます。

「人間早かれ遅かれいつかは身体に障害を持つんだ」ってことが普通であることを今の大人や子供に「自分事」として受け止めて欲しいと思います。

 核家族化が進み,耳や脚の不自由なお年寄りと過ごす事が少なくなった今日,違った意味での情報提供が必要ではないかと思います。

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